9話 どきどき!のっちぃ攻撃!

ユメが次に現れたのはその数日後だった。


帰宅途中の古賀は疲れ切った顔をするユメに驚く。この数日に彼女に何があったのだ。

 

「ユメちゃん? どうしたの? 」

 

「ユメ、ユメ。どうして? どうして? どうして古賀さんばっかり可愛いの。ユメだって可愛いもん。どうして古賀さんなんかに取られるの。みんなユメのこといじめるし、みんなユメのこと遠ざける。どうして? どうしてユメばっかり不幸なの。ユメ、ユメは、ユメはもう…。」

 

黒いモヤがかかる。やばい‼

 

「閃け! 天使の踊り。輝け! 天空の舞。 放て! 白い翼。 魔法少女! 古賀‼ へーんしんっ! 」

 

古賀は魔法少女に変身した。黒いモヤに取り囲まれる前に。古賀は魔法を唱えた。

 

「マール・アモーレ‼ 」

 

光の玉がステッキから飛び出る。しかし、ユメにそれが当たる前に消し飛んだ。

 

「どうして…。」

 


黒いモヤが異常だ。いつも以上にモヤの密度が高い。

 

「のっちぃ、どういうこと? 」

 

「分からない。もしかすると、ユメの負の感情は今までの子よりも格段に高いのかもしれない。」

 

「えええ。そうなの。じゃあ、どうしたらユメちゃんを元に戻せるの? 」

 

「分かんないよ。もう少し高い魔法を撃つしかない。その為には、古賀の聖なる力がもっと必要になる。」

 

「いいよ。古賀、もっと頑張る。」

 

古賀は休み時間ずっと考えていた新たな魔法を今使うことにした。題して、魔法の翼である。

 

「ハートウィングス! 」

 

途端に古賀の背中からピンク色の羽が生えた。名前の通り、ハート型の翼だ。

 

「わぁ! 古賀から羽が生えた‼ 」

 

「これで敵が空に飛んでも捕まえられる。でも、これだけじゃないよ。ラブ・サンダー‼ 」

 

魔法のステッキから黄色い稲妻が走った。稲妻は一直線にユメに当たる。

 

「うがぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁ! 」

 

ユメは攻撃を避けることなく直に稲妻を受け止めた。古賀は一瞬戸惑う。すると、ユメはそれを見逃すことなく黒いモヤを使い古賀を攻撃をした。

 

「きゃっ! 」

 

古賀は上手く羽を使い、地面スレスレで転けるのを防いだ。

 

「古賀! 何してるの! 怯んだらダメだよ。あのくらいじゃ人は死なない。」

 

のっちぃが叫び、古賀も頷く。

 

「ユメちゃん! 目を覚まして! 」

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁあああ! 」


黒いモヤがユメの口に吸い込まれていく。本格的に不味い。ユメが取り込まれている。ユメの頭からツノが生える。瞳の色が赤黒く染まる。

 

「古賀! 不味いよ。悪魔になっちゃう! 」

 

「分かってる! ユメちゃん! ユメちゃん。痛いよね。苦しいよね。早く、早く助けてあげるから! 」

 

古賀は力を最大限に膨らませる。自分の中にある力をステッキの中に溜め込み、そして解き放つ。

 

「ラブ・サンダー‼ 」

 

もう一度、同じ技。先程よりも強い稲妻が走る。ユメはその稲妻に耐えきれず、地面に崩れ落ちる。ツノはぼろりと落ち、瞳の色も徐々に戻っていく。

 

「ユメちゃん、ユメちゃんは自分が大好きなんだよね。でも、それ以上に自分が嫌いなんだ。自分を嘘で塗り固めていくのも、誰も信じられなくて、そんな自分が嫌いで、大っ嫌いで、でも誰かに優しくして欲しくて優しくしたくて、愛してあげたい愛して欲しい。だから、人を傷つけてそんな感情に蓋をした。でも、そんなことしたってまた自分を傷つけるだけだよ。」

 

「うっぐ! うがぁぁぁ…、ああぁぁ、そんな、こと、分かって…。ひっく、ひっく、分かってる。でも、でも、じゃあどうしたらユメをみんな好きになってくれるの? 」

 

「みんなに好かれようなんて無理だよ。無理だからみんな大切な人を作るの。」

 

「でも、だって、古賀さんはみんなから愛されてる。丹心川さんにも、斎藤君にも、クラスのみんなにも。」

 

「そんなの分からないよ。怖いかもしれないけど、それでもちゃんと向き合ったら自ずと見えてくるはずだよ。」

 

「古賀さんは…? 古賀さんはユメのこと見てくれるの? 」

 

「古賀はみんなの古賀だもん。ユメちゃんのこともちゃんと大好きだよ。」

 

ユメに纏わりついていた黒いモヤが晴れていく。古賀はそれを見てそっと唱えた。

 



「マール・アモーレ―――」



 



古賀はユメをそっと地面に寝かせ、先ほどからずっと感じていた視線の先へと声をかける。

 

「ねぇ、そこにいるの分かってるよ。」

 

「気付いていたんだね。」

 

「リーベル…。」

 

「名前、憶えていたんだ。」

 

「どうしてこんな酷いことをするの。」

 

「ひどいこと? それはよく分からないな。僕はただ人間の感情を解放しているだけ。」

 

「その結果みんな苦しむことになっているんだよ! 」

 

そう、みんな苦しんでいる。顔が崩れ、思い描いた未来も挫折し、希望もなく絶望していく。とてもじゃないが見ていられない。それも壊れるのは彼女達だけではない。娘を大事に育ててきた親もまた、歪みに歪んだ我が子を見ては泣き叫んでいる。

 

「それは僕のせいではないよ。本来なら悪魔に落ちて、みな自由になれるんだ。それを邪魔しているのは古賀でしょう? 」

 

「自由って…。結局あなたたちに遣われて終わるだけでしょ。」

 

「どうかな。思考が自由になるだけで苦しみや悲しみから解放されるんだけど。まあ、別に理解なんてしなくていいよ。この前魔法少女を殺すようにお達しが来たんだ。だから、古賀も一度死んで自由になれるようにしてあげる。」

 

リーベルは鋭い黒い風を古賀に向け放った。古賀は翼を駆使し、その攻撃を避ける。

 

「この前よりも強くなったんだ。でも、僕の攻撃からは逃げられないよ。」

 

再度放たれた黒い風。古賀をその攻撃を避けたつもりだった。しかし、強い衝撃が背中に走った。

 

「ゔ…。」

 

「古賀‼ 」

 

のっちぃが叫ぶ。古賀が傷ついてしまう。のっちぃがどうにか古賀を助けようとするも、見えない攻撃が古賀の全身に当たる。鞭のように鋭く細い攻撃だが、何十回もあたってしまえば、古賀の無事も願えなくなるだろう。

 

なんとか隙を。のっちぃはその辺にあった石をよろよろと持ち上げた。これでどうにか出来るとは思っていない。しかし少しでも古賀の為になるならばと、のっちぃは自分には大きすぎる石をよろよろと持ち上げて、リーベルの方へと飛ばした。


 ガツン―――


「えっ、当たった。」

 

のっちぃは思わず心の声をだしてしまった。まさか当たるとは思ってもみなかったのだ。驚きのあまりポカンと口を開けた。

 

リーベルはゆらゆらと立ち、のっちぃを見つめてにやりと笑った。リーベルがのっちぃに向かって飛ぶ。

 

まずい…。

 

のっちぃは目を瞑る。

 

「ラブ・サンダー‼ 」

 

古賀の攻撃がリーベルに直撃した。

 

「あっぐ…。」

 リーベルの口から血がたらりと流れた。

 

「やっぱり魔法少女はすごいね。まさか一発でここまでの威力なんて。」

 

「あなたはここで倒す。」

 

「そう、まさか、君がそこまで強いとは思っていなかったよ。」

 

リーベルは黒い風を呼び起こす。先ほどまでの風とは全く威力が違う。あれを真正面からうけてしまえば、命の保証はない。

 

「古賀、どうするの。」

 

「のっちぃ、私いいこと考えた。」

 

「いいこと? 」

 

「うん。成功するか分からないけど、もうこれ以上考えられる方法はない。でも、のっちぃの力が必要なんだ。」

 

「僕の? 」

 

「そう。協力、してくれる? 」

 

「当たり前じゃないか。なんたって、僕は古賀の相棒だもん。」

 

古賀は笑って、のっちぃの小さな指を掴んだ。そして、古賀はのっちぃの胴体を掴み、リーベルに向かって、投げた。

 

「ふぇ? ひゃあああああああああああああああああああ! 」

 

のっちぃの悲鳴が上がる。まさか投げられるなんて思ってもみなかったのだ。優しい優しい古賀がまさかこんなヘンテコな攻撃をするなんて思ってもみなかったのだ。

 

当然リーベルも想像すらしていなかった攻撃方法に驚いた。そして、反応が遅れた。すぐにでもリーベルはのっちぃを叩き落とそうとする。しかし、寸でのところで避けた。古賀はそれを見逃さなかった。

 

「ラブ・サンダー‼ 」

 

もろに喰らった攻撃に、リーベルはその場に崩れ落ちる。

 

「どうして…。」

 

「のっちぃの力がわかったの。のっちぃは妖精。だから、悪い魔法が通じないんでしょう?」


先ほど、のっちぃが石を投げて気づいた。のっちぃの力には邪悪な魔法を封じる力が籠っている。リーベルと初めて会った時に、すぐにのっちぃを返したのは、のっちぃを握っていると魔法が使えなくなってしまったためだ。

 

「ふふ、そうだね。まさかそんな力が宿っているなんて思ってもみなかったよ。」

 

「最後だよ、リーベル。」

 

「優しい君に僕を倒せるのかな? 」

 

ぴたりと止まる。そうだ、リーベルに魔法を放てば、死んでしまう。最初に倒した悪魔のように…。

 

「君は本当に優しくて、弱いね。」

 

「弱いのはおめぇもだろ。」

 

「え? 」

 

古賀の腹部に激しい痛みが走った。何も見えず、ただ、古賀はその場から吹き飛ばされた。



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