8話 ドキドキ!恋する地雷系女子?
らんらんらん♪
スキップをしながら古賀は帰路につく。今日は体育で大活躍。バレーボールの部長の強烈アタックを受け止め、綺麗なトスからのバックアタックを遂げた。試合は負けたが、大盛り上がり。古賀は嬉しくて飛び跳ねた。そんな一日。平和な一日。
「あれぇ? 古賀さんだぁ~。」
きゃぴきゃぴメイクの女の子。髪はピンクに染め、爪はマニュキュアを塗り、そして人一倍短いスカート。自称天然キャラで固められた外面だが、残念ながら計算高い女の子である。
「ああ~‼ ユメちゃんだ~。どうしたの? こんなところで。」
「ユメはねぇ、彼氏とデートの約束してるんだぁ。古賀さんは…。そっか~、予定ないよねぇ。」
地味に彼氏アピール。そして古賀に彼氏がいないことにざまあみろと言った態度。残念ながら、古賀にはそんな攻撃は通用しない。
「そっかぁ、ユメちゃんはすごいね~。古賀はね、今日は体育でたくさん活躍したからご褒美にパイナップルアイス買って帰ろうと思うんだぁ。ユメちゃんも彼氏さん待ってる間、一緒に食べる? 」
「えええ~。ユメ、そんなの食べたら太っちゃう。いらな~い。」
「パイナップルアイス太るの? でも、美味しいから食べちゃうよね。じゃあ、ユメちゃんが食べられない分、古賀がおいしく食べよっと。」
「…。ユメの彼氏見る? 年上で、イケメンなんだぁ。」
「そうなの⁉古賀、ユメちゃんの彼氏みたい‼」
「えええ~恥ずかしいなぁ。他の子には内緒だよぉ。」
ユメは古賀に彼氏はどんな人物なのか詳しく教える。イケメンで、かっこよくて、バンドをしている。そんな人物らしい。古賀は興味津々で話を聞いた。
ユメの彼氏は背中にエレキギターを背負ってやってきた。黒いマスクに、目元まで隠れた前髪。いかにもバンドやってますといった風貌だ。
「どう~? ユメの彼氏。かっこいいでしょ? 」
「うん‼ かっこいいねぇ。」
「じゃあ、ユメたちこれからデートだから。じゃあね~。」
にっこにこと笑いながら、ユメは去っていった
後ろから古賀は手をぶんぶんと振り見送る。ひょっこりと古賀のポケットからのっちぃが顔をのぞかせた。
「何あれ。感じ悪いね。」
「そお~?」
「古賀は気にしなさ過ぎだよ。まったく。」
古賀は首を傾げながら、前を向きなおした。
事件が起きたのはその翌日だった。
「古賀さん‼ ユメの彼氏に色目使ったでしょ‼ ひどいよ。ふえええん。」
「色目? なーに、それ。」
「ユメの彼氏が古賀さんの方が可愛いって言ったの。あの時、古賀さんがかわい子ぶったのが悪いんだよ。ユメ、ユメすごい悲しいよぉ。」
昨日はあんなに自慢げに話していたのに。のっちぃは古賀のポケットの中から理不尽に起こるユメに呆れていた。他のクラスメイトもそうだ。クラスメイトとて馬鹿ではない。このいびつな空気感を悟り、ユメの方がおかしいと感じとっている。
「小林さん、ちょっと理不尽すぎるんじゃない? 」
異常に気付いた丹心川が口を挟む。しかし、感情の高まっているユメは丹心川を睨みつける。
「古賀さんが悪いんだよぉ。どうしてユメが責められないといけないの。いじめ? そうだよ、これはいじめだよぉ。どうしよう、もうユメの味方なんていないんだ。うわああああん。」
「ちょっ、小林さん! さすがにそれはないわよ。泣いたからって古賀を悪者になんてできないわよ。」
「…うわーん! 」
ユメはさらに泣き声を上げる。教師がそれに気づいたのか、ばたばたと廊下から駆けつけてきた。
「小林さん、どうかしたの? 」
「ユメ、何もしてないのに、この二人が悪者にしようとするのぉ。」
「ち、違います。先生。そもそも小林さんが古賀に突っかかってきたんです。」
丹心川が弁解しようと必死になっているが、教師は状況把握が出来ておらず、困り顔だ。仕方なく、教師は泣いている方の小林の肩を持とうとしたその瞬間。
「先生、僕は古賀さんは何も悪くないと思います。」
齊藤だった。
クラスでも信頼度の高い齊藤の言葉に教師は一転、古賀の方に肩を持つことに決めた。
「小林さん、とりあえず保健室に行きましょう。お話はあとで聞くから。古賀さんと丹心川さんは教室に残って授業を受けなさい。二人からも後で話は聞くわ。」
教師はすすり泣くユメを連れて、教室を出ていった。
「齊藤君、助かったわ。」
丹心川はホッと息を吐き、齊藤に礼を伝えた。
「状況が状況だったからね。それに僕は古賀さんが好きなんだ。肩を持つのは当たり前だよ。」
古賀はナチュラルにアピールされていることに気付かず、頭に花を咲かせている。つまりは何も聞いていない。
「古賀さんは本当に面白いな。みんなも分かってると思うけど、小林さんの言っていることは言いがかりだから! 古賀さんを悪く思っちゃだめだよ。」
「分かってるよ~。」
「古賀のこと好きすぎでしょ~。」
「頑張れよ~、齊藤~。」
クラス中からあふれ出す声援。古賀はにこにこ笑いながら、教室のドアを見つめた。
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