7話 どきどき!悪魔リーベル登場!

帰り道。

カバンの中に入れていたのっちぃをポケットに入れ、歩く。綺麗にセットしていた髪は少しだけ解れている。

 

「のっちぃ。今日は美味しいメロンパン買って帰ろう~。」

 

「メロンパン? いいね。僕メロンパン大好き。」


 にっこにこと笑いながら、古賀はスキップする。すると、古賀の前にリンが現れた。ふつふつと黒いモヤが纏わりついている。まずい…。悪魔になりかけている。


「古賀‼」

 

「うん。」

 

いつものように変身しようとしたその瞬間、のっちぃが何かに掻っ攫われていった。

 

「えっ…。のっちぃ! 」

 

のっちぃを攫ったのは、金色のボブヘアーをした悪魔。何故悪魔だと分かるのか。いいや、誰しも一度見たら分かるだろう。黒い羽根に角が頭から生えているのだから。しかし、悪魔にしては少しやる気のなさそうな顔をしている。眠たげで、気だるげだ。

 

ただ、初めてあった古賀が魔法少女にもなったきっかけでもある女の悪魔とは違い、禍々しく、強そうだ。

 

「君を捕まえたら、変身出来ないよね。」

 

のっちぃを見ながらそう呟く。そうだ。確かにのっちぃがいなければ古賀は変身できない。だから何とかしてのっちぃを助けなければならない。ただ、変身したところでこの目の前の悪魔を殺せるかどうかは別の話だが。

 

「あなたはだあれ? 」

 

「僕が怖くないんだ。」

 

「古賀は凄いからね。」 

 

話がかみ合っていない。ピンチのはずなのに、いつも通りの古賀だ。

 

「古賀~。そんなこと言ってないで助けてよ~。」

 

のっちぃが泣き叫んでいる。前にも見たことのある光景だ。しかし、確かに時間はかけられない。リンの命にも関わることなのだから。

 

「おりゃ~。」

 

古賀のへなへなパンチが炸裂する。もちろんそんな攻撃通じない。悪魔は古賀を簡単に吹き飛ばす。まったく歯が立たない状況に、古賀はそれでも同じように何度も立ち向かっていく。だんだんと古賀に擦り傷が増えていく。ふらふらと身体が揺れていく。

 

「古賀…。」

 

そんな古賀の姿を見て、のっちぃは涙が溢れてきた。そうだ。魔法少女なら自分を犠牲にしてでも、悪魔を殺そうとするのが当たり前だ。なのにその当たり前の行為を、古賀にやってほしくない。どうして? だって、古賀はあんなに傷ついている。

 

「古賀! やめて! 痛いよ。」

 

「大丈夫、古賀すごいんだもん。」 

 

「いやだよ。古賀。やめて‼ 」

 

初めてのっちぃは人間らしい感情を持った。多くの犠牲を逃れるのであれば、小さな犠牲等大したものではない。そんな思考が消え去った。古賀はいい子だ。だから、こんな傷つけちゃだめだ。


 

ルフス様、ルフス様。

どうすればいいですか。



 天界にいる大天使ルフスに問いかける。

 


『思いがあれば、きっと叶います。だって、我々は神の使いなのですから。』



ルフスが言っていた言葉だ。のっちぃはその言葉を思い出し、願った。

 

そうだ。僕だって凄い妖精なんだ。ルフス様に人間界を頼まれた高貴な存在なんだ。いつだって涙を流して、古賀に頼りっぱなしになるなんていけない。古賀が僕を護ってくれたように、僕も古賀を護るんだ! だって、僕は古賀を護りたいから。


「古賀! 古賀! 僕は僕は! 古賀の為に、もっともっと光の力を解き放つよ! いくよ! 古賀! 唱えて! 自分を信じて! 唱えるんだ! 」


「のっちぃ…。うん。」


遠く離されたのっちぃと古賀。いつもなら近くで唱え変身する。それでも、大丈夫。遠くにいたって、変身できる‼

 

だって、やっとのっちぃが古賀を信じるようになったから。




「閃け! 天使の踊り。 

 輝け! 天空の舞。

 放て! 白い翼。

 魔法少女! 古賀‼

 へーんしんっ! 」


白い光が解き放たれる。いつもより、その光は強い。なんだか、温かくて、そして力強い。

 

「なんだか、力が漲る。今ならいける。ううん。それより先に‼ 」 


目の前で苦しんでいるリンを見つめる。 


「リンちゃん。眼を覚まして! マール・アモーレ‼ 」


ステッキから放たれた光はリンの身体を包み込み、黒いモヤを一気に浄化した。リンはその場に倒れた。


「次はあなたよ! のっちぃを返して‼ 」


「いいよ。」

 

悪魔はのっちぃを古賀の元に投げ飛ばす。 

 

「ふわあああ。今回も外れだったし。それに面白いものも見れたから。今日は帰るよ。」

 

「えっ…。どうして。」

 

「時間外労働はしない主義なんだ。ああ、そうそう。僕の名前はリーベル。また、会おうね。魔法少女。」


悪魔、リーベルは黒いモヤの中に吸い込まれ、消えていった。

 

外れとは何か。そもそもリーベルは何者なのか。何が目的なのか。疑問を多く残った。しかし、それよりも古賀はリンの元へ駆けつける。大分浄化が遅れてしまった。大丈夫か。リンの身体に異常がないか確認する。

 

「あれ、なんともないみたい。」

 

「そうだね。」

 

おかしい。でも、確かに肉が飛び出すこともなければ、火傷のような痕がついているわけでもない。

 

「もしかしたら、古賀の能力が上がった? 」

 

「ん~、それもあるとは思うけど、もしかしたら…。」

 

古賀はリンの方へと向き直った。たぶん彼女は…。


 


「あれ? 私どうしてここに。」

 

「あっ、リンちゃん起きた? 」

 

「古賀さん。どうしてここに。いや、どうして私ここで眠ってたんだろう。」

 

「古賀、よく分からない。リンちゃん探してたら、ここで眠ってたよ? 」

 

あの後、急いでリンをベンチに運び、休ませた。何があったかは勿論秘密だ。というよりも、のっちぃのお達しだった。冗談に受け取られるかもだけど、内緒にしろと。古賀との絆が深まった分、のっちぃの言葉にも棘が増えた。

 

「そうなの? 痛い…。思い出そうとしても、思い出せない。私、だれかと話しをしていた気が。あっ、そうだ! 古賀さん、あなた頬っぺたは? 」


リンが古賀の頬っぺたを触る。やっぱり少し、腫れていた。

 

「痛くないよ。大丈夫だよ。」

 

「いいえ、私が悪いわ。ごめんなさい。」

 

「うん‼ 」

 

古賀はにっこりと笑って、その謝罪を受け入れた。リンはそんな古賀を見て、ホッと息をついた。

 

「古賀さん、私はね、本当は古賀さんに憧れていたの。自分の好きなように演奏できるあなたに。私は誰よりも努力してきた。


本当はピアノが大好きで、大好きだから練習してきたのに、上手くいかないことばかりでイライラして、そしたら友達もいなくなっちゃって。どうしたらいいのか分からなくて。悲しくて。


そんな時、あなたのピアノを聴いたの。凄かった。音は外れているし、全然楽譜通りじゃないのに、凄く楽しい演奏で。


だから私、あなたのこと本当は憧れていた。でも、さっきの言葉も本当の私の気持ち。だって、私が一番なのに、私ぜんぜん一番じゃないから。だからあなたにイライラしていたし、自分にもイライラしてた。全部、言い訳よね。あなたを叩いたことは変わらないわ。」 


「ううん。古賀は嬉しいよ。だって、リンちゃんの本音聞けたもん。古賀はリンちゃんのこと大好きだよ。リンちゃんなら、もっともっとピアノ上手くなれる。それに、これで古賀とリンちゃんはお友達になれたね。」

 

にひひ。なんて笑って。古賀はまぶしい笑顔でリンを見るから、リンも古賀に初めて笑顔を見せた。だって、古賀は知っているから。たぶん、いいや絶対に。リンはもともと自分を責め立てていた。胸に押し詰めていた思いを古賀を通して爆発させてしまった。たぶん、古賀に最初から謝ろうとしていた。謝罪出来る子だから。だから、黒いモヤに憑りつかれても、強い自分の心で撥ねつけたんだ。リンは強い子だ。

 

「ありがとう…。ありがとう、古賀さん。」

 

強く取り憑かれていたリンのモヤがこうして綺麗に取り除かれた。





魔界 シスル

リーベルは魔界に戻り、ふらふらと自室に戻ろうとしていた。しかし、それを妨げようとする男が一人。いいや、悪魔が一人。

 

「おい、リーベル。お前、魔法少女に会ったんだろ? どうして、殺さなかったんだぁ? 」

 

赤い髪をした刈り上げの男はブルームだ。リーベルと同じく角と羽が生えている。

 

「時間外労働はしない主義。」

 

「てめえは寝てぇだけだろーがよ。」

 

「それが何? 」

 

「ちっ、くそが。フォレストが呼んでたぞ。」

 

リベールの眠たげな眼がうっすらと開く。

 

「なんで? 」

 

「魔法少女のことだろ、どうせ。あれは計画の邪魔になる。早めに潰しておいた方がいい。」

 

ブルームはそうと呟いて、その場を後にした。

 




悪魔界と魔法少女との戦いは始まった。古賀とのっちぃは多くの悲しみの渦へと飲み込まれていくこととなる。

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