4話 ドキドキ!イケメン少年の告白

キーンコーンカーンコーン―――


チャイムが鳴ると共に、古賀は教室から飛び出した。 目当ては週に一度しか味わえない伝説のパン。 七種のスパイスと季節の野菜を使ったピリ辛カレーパン。


限定五十個である。



既に多くの生徒が立ち並ぶ中で、なんとか人混みをかき分け、目当てのカレーパンの元へ。


ラスト一個。

カレーパンはそこにいた。



やった‼

そう思い、手に取った瞬間、誰かの手とぶつかった。古賀が一瞬手を引いた時には、別の誰かにカレーパンは掻っ攫われていった。



「こ、古賀のカレーパンがぁぁぁぁぁぁ。」






むっくり膨れたまま、焼きそばパンを頬張る古賀。 のっちぃは飽きれ顔で古賀を見ていた。



「なんで、カレーパンごときで拗ねてるのさ。」


「だって古賀が楽しみにしていたカレーパンだよ。ぷんぷん。」


「そんなカレーパンごときで怒らないでよ。子供なんだから。」


そう、古賀は子供だ。子供だから拗ねる権利は持ち合わせているのだ。



「あれ、古賀さん? 一人なんて珍しいね。」


ベンチで一人ご飯をしていた古賀に話し掛けてきたのは、所謂イケメンの男子生徒だった。


「あっ、齊藤君。」


齊藤は古賀のクラスの学級委員長だ。イケメンで顔も良くて学級委員長。古賀の学年ではトップクラスでモテている生徒だ。


「古賀は戦に負けてきたんだよ。」


「戦? 相変わらず面白いね。古賀さんは。」


「って、あれ? 齊藤君が持ってるそれは…。」


「ん? ああこれ? カレーパンだよ。実は、さっき友達から貰ってさ。」


古賀はカレーパンに釘付けになる。古賀としてはイケメンよりもカレーパンが重要である。


「カレーパン、欲しいの? 」


「うん‼ 古賀、それを食べる為に授業頑張って受けたんだ。」


「ふふ、古賀さん、寝てたでしょ。でも、あげる。その代わり…。」



ぱく―――

古賀が食べていた焼きそばパンを齊藤は小さく齧った。


「あああ‼ 古賀の焼きそばパン‼ 」


「クスクス、やっぱり古賀さんって面白い。気にするのが焼きそばパンなんて。」


「当たり前でしょ。もうっ‼ 早くお詫びのカレーパン頂戴。」


「ふふ、はい。じゃあ僕はもう行くね。次の授業遅れないようにね。」


「大丈夫だよ。古賀はカレーパンを食べただけじゃ、幸せ死に出来ないからね。」


齊藤はそれを聞き、またクスクスと笑いながら、去っていった。 古賀のポケットでその光景を見ていたのっちぃは古賀に聞いた。


「あれって、古賀のこと好きなんじゃないの?」


「齊藤君が? 違うよ。齊藤君は古賀をからかって遊んでるだけだよ~。」


のっちぃはあからさまなアプローチを受けているのに気づく様子のない古賀にため息をついた。






数日後―――

古賀の前に、同じクラスの神崎さんが立ち塞いでいた。


「ちょっと、古賀さん。いいかしら。」


「え? 古賀に何か用? 」


「そうよ。」


神崎はクラスのヒエラルキーの中でもトップにいるような女子生徒だ。いいとこのお嬢さんでもある彼女が古賀に用とは何か。それは神崎の意中の相手である齊藤に関係している。


「あなた、最近齊藤様の周りをうろちょろし過ぎでなくて? 」


齊藤に様をつけるあたり、相当な信者でもある。


「古賀、別に齊藤君と何もないよ? 」


「嘘おっしゃい‼ 私、知っているの。齊藤様と、や、焼きそばパンを一緒に食べたとか。許せない‼ 」


そんな理不尽な。そうは思っているものの、古賀は目の前を飛んでいった蝶々を目で追う。


「聞いているの‼ 」


「うううう、古賀、何もしていないのに。」


「これ以上付きまとわないでね。」


「んんんん…。」


「分かった? 」


「はーい。」




しかし、事件はその日に起きた。


「好きです。古賀さん。付き合って下さい。」


神崎の意中の存在である齊藤から告白されたのである。


「古賀のこと好きなの? 」


「うん。ごめんね、迷惑だとは思っているんだけど、どうしても言いたくて…。」


「ううう、古賀、迷惑じゃないけど、照れちゃうなぁ。」


真っ赤に顔を染める古賀。初々しい二人の姿が残る。


「へ、返事は明日でいいから‼ じゃあ‼ 」


齊藤は走ってどこかへと去っていった。

古賀はそれを見つめながら、心臓に手を当てた。


「ドキドキしてるの? 」


「古賀、すっごくドキドキしてる。どーしよ。きゃあああーーー。」


ぴょんぴょん跳ねて、ぐるぐる回る。

ぱたぱたと身体を動かしていると、後ろから嫌な気配を感じた。


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