2話 ドキドキ!バレエ教室
古賀は教室へと駆け込む。もう二時間目が終わろうとしているからだ。ぱたぱたと走り、扉を大胆にどうどうと開けた。
「遅刻しました‼ すみません‼ 」
「古賀、もう二時間目終わるぞー。」
「すみません。妖精さんとお話してたら遅れちゃいました。」
てへぺろ。舌を出して、ぶりっ子ポーズをする古賀に先生は飽きれ顔で接する。クラスメイトもそんな古賀の姿に驚きもせず、笑っている。それは、いつもの光景だった。
「古賀。」
休み時間、古賀に声を掛けたのは、幼馴染で親友の丹心川だった。
「ニシちゃん、どぉしたの? 」
「なんで今日は遅れたの! せっかく朝起こしてあげたのに! 」
「えっとね、妖精さんとお話ししてたんだぁ〜。」
「もう! そんな嘘つかないでよ。まったく、古賀はいつもそうなんだから。」
古賀の面倒を見るのはいつも丹心川だった。幼馴染だから仕方がない。そう言う割に、丹心川はいつも喜んで古賀の面倒を見る。
「えー、嘘じゃないのにぃ…。ほらっ、証拠に…ってあれ? のっちぃがいない…。どこ行ったんだろぉ。」
確かにポケットの中に入れていたのっちぃがいなくなっている。キョロキョロと見回しても、その姿は見られない。諦めて、席についた古賀はのっちぃを心配しつつも、先程買ったイチゴのグミを頬張った。
その頃、のっちぃは…
古賀のポケットから追い出されていた。古賀が食べていたグミ。購買で買ったものだが、のっちぃはそれを買う時に財布と一緒にポケットから放り出されていたのだ。
古賀はそれに気付かずに、グミを買って、教室へと行ってしまった。知らない土地で一人ぼっち。孤独と化したのっちぃは半泣きになりながら、古賀を探す。
「そもそも古賀ってなんか変‼」
変身を解いた瞬間、悪魔が灰となったことでパニクっていた筈の古賀は消えてなくなった。天然で世間知らずでぶりっ子の女の子になった。そして、のっちぃをポケットの中に入れて、スキップしながら学校へと駆けて行ったのだ。
「僕の知ってる人間じゃないよ〜。」
人間という生態からかけ離れている。人間というのはもっとドロドロしてるのだ。先程見た購買のおばちゃんも、古賀が離れた瞬間に冷たい目をしていた。キャッキャと明るい生徒たちの悪口を呟いていた。
だけど、古賀は違う。パニクっていたにも関わらず、それを直ぐに忘れて、日常生活に戻った。のっちぃは、それが少し怖かった。
「いけないいけない! 古賀はもう僕の相棒なんだ‼ ルフス様の為に、たくさん悪魔を倒さなくちゃ。…その前に、古賀、どこぉ〜‼」
のっちぃはふよふよと校舎を飛び回った。
のっちぃと古賀が再会したのは、放課後になってからだった。
「あっ、のっちぃだ〜。」
「うううう! 古賀ぁぁぁぁ‼ どこ行ってたのさ‼ 僕は、一人で一人で、ずっと… ううゔぅぅ…うわぁぁぁぁん! 」
のっちぃは酷く疲弊していた。
古賀に再会するまで、のっちぃは人体模型に驚き、ベートーヴェンに驚き、古賀の学校の初代校長の銅像に驚いてきた。
見たこともないものに触れ、見たこともない生物に遭遇したのっちぃは古賀に会いたくて仕方がなかったのだ。 しかし、古賀は呑気に歌を歌っていた。のっちぃの事など頭になかったようだ。
「古賀、古賀、古賀ぁぁぁぁ…。」
「よしよし、のっちぃ、可愛いね。」
「うっぐうっぐ…。」
泣いているのっちぃを抱き抱え、可愛い可愛いと呟く。ふと、目に入った時計の針は四時を回っていた。
「ああぁぁ! もう、こんな時間‼ 早く行かなきゃ‼」
「え? どこに行くの? 」
バレエ教室
「ワン、トォ、スリッ、ワン、トォ、スリッ‼」
大分歳のいったおばさんがバレエを教えている。目指せ、世界のプリマである。
「なに、あのケバいおばさん。怖いっ‼」
「トルトエール先生だよ。自称先祖がヨーロッパ出身。」
「自称って…。」
辿ればいつかはヨーロッパに着くという理論らしい。
「古賀さん! あなたっ、何分遅れているの! これじゃあ、世界のプリマになれなくてよ! 」
トルトエール先生は古賀を指差し、着替えてくるように指示を出した。
「はーい! じゃあ、のっちぃは待っててね! 」
また置いてけぼりにされたのっちぃはふよふよとその場に止まる。
ぴんっ!
のっちぃのアホ毛が一直線に伸びた。
「なにっ! この悪い気配っ! 」
悪魔だ。悪魔がいる。どこにいるか探すも、その悪い気配は一瞬にして消えてしまった。
「う〜、一日で二体も悪魔に遭遇するのなんて嫌だよ…、早く戻ってきて、古賀…。」
ふるふると震えながら、古賀が着替えるのを待った。
きっと、古賀が来る前に悪魔が現れるのだろう。そして、のっちぃにあんなことやこんなことをする…。そんな予想に反し、古賀が着替えて出てきても悪魔が現れることはなかった。
「じゃあ! 今日は来月に控える発表会のプリマの発表をするわ。古賀! あなたがプリマよ‼」
「え⁉ 古賀が! 嬉しい‼」
まるで、演劇かのようなノリで踊り出す古賀。嬉しくて仕方がない様子だ。 しかし、その周りの少女達はどうにも納得していないようだ。
「どうしてですか! 先生! なんで、古賀を!」
特に腹を立てたのは、本気でバレエに取り組んでいた少女 佐々木だった。
「さっきだって古賀は遅刻してきたし、いつだってのほほんとしてる! 練習に身が入ってないことだってあるのに! 」
「ノンっ! いい? 佐々木さん。古賀さんには確かな実力があるの。いつも言ってるでしょ? この世界は実力主義なのよ。」
拳を握りしめる。
どうして?
どうして私は選ばれないの…。
あんな女のどこにプリマの資格があるというの…。
感情が競り上がってくる。もやもやとした気持ちが広がっていき、吐き出したくて仕方がなくなった。涙が溢れ、その場から逃げ出した。
「あっ、佐々木ちゃん! 」
「古賀さん!あなたは今からレッスンよ。佐々木さんには後で私から説得しておくわ! 」
渋々、古賀は佐々木を追うのをやめた。レッスンが再開される。何か不穏な空気が流れていた。
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