ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第38話『わざわざダンジョン攻略にしなくても』
第38話『わざわざダンジョン攻略にしなくても』
冒険者組合に辿り着いてすぐ、2人はずっと辺りを見渡している。
この様子だと、ゲームを初めて施設内に入るのが初めてなんだろう。
その気持ちは十分にわかる。
わかるんだが……。
「そろそろ申請をしてきたいんだが」
「――あ、ごめん。物珍しすぎて、つい」
「ここが入れるってことは、他の施設にも入れたりするんだよね。もしかして、家々の全部には居れたりしちゃうの?」
「いいや、さすがに入れるのはゲーム進行に関係してる場所だけだ」
「ですよねー」
ここでようやく2人は前を向いてくれた。
「まず、この施設に来た目的を果たそう」
今日も今日とて愛想のいい笑みを浮かべている受付嬢の元まで進む。
相手が人間だったら物凄く失礼としか言えないほど、カウンターに体を乗り出して覗き見ている。
微笑ましいと言えばそうだが、視界の端にチラチラと入ってくるものだから若干困ってしまう。
「頼むから、次からはちゃんとしてくれよな」
「うん、そうする」
「はーい」
「それにしても、本当に普通の人と大差ないというか、人間そのままだったよね」
「ねぇ~。なんなら、私が同じことをやったとしたらテンパっちゃうね」
「私も緊張していろいろと失敗しそう」
2人の提案……というか要望で、俺達はダンジョンに居る。
数日前に来たばかりの場所だから、個人的には気が楽ではあっても、このほぼ初心者2人を連れて来るのには気が引けて仕方がなかった。
運がよく、ダンジョン前に居るあいつらは既に討伐されていたようで、そのことに関しては運がいいと言える。
「じゃあ、さっき打ち合わせした通りに」
「よーっし、頑張るぞー」
「頑張るぞー!」
意気込む2人は抜刀して歩き出し、俺はそれより少し離れた感覚を保ったまま歩く。
ダンジョンに向かってくる際に、軽い作戦会議を執り行った。
俺はこのダンジョンを既に攻略してある、という旨を伝えたが、せっかくなら2人で攻略をしてみたいという提案を受け、それを承諾した。
どう考えても危険だから――と最初こそ思ったが、2人の成長を望むのであれば断るのは違うよな。
「ミヤビ、いくよ」
「冷静に、しっかりと分析しつつ――よしっ」
ここら辺のモンスターは、強さもだが、数も少ないから初心者でも問題なく討伐できるだろう。
「はぁっ」
「はっ!」
たしかに、探索者として戦っている姿を見た後であんなちょっとぎこちない感じが出ていると、話題が出た時に話していた内容は謙遜じゃなかったことがすぐに理解できる。
それでも、なんとか声を掛け合って戦っているのだから、俺は静観を決め込もう。
だって相手はほぼ抵抗してこないモグリンだからな。
「シロナミ、次!」
「うんっ」
ミヤビは自分が臆病だ、という発言をしていて盾を使って戦うことに抵抗があるようだった。
しかし蓋を開けてみれば、盾でモグリンを殴ったり弾いたりして攻防に使っている。
シロナミの果敢に押し引きする姿を観て感化されたのか、それともクエストを通してなにか吹っ切れるものがあったのか定かではないが、互いにいい影響を与えながら戦っているのは間違いなさそうだ。
そんな感じで戦っているものだから、この階に出現している全30体の半分がすぐに討伐された。
しかし。
「ワドくん、休憩はしても大丈夫だよね……?」
「ちょっとだけお願いします」
シロナミは肩をすくめて伺い立てるように、ミヤビは若干上目遣いで俺にそう問いかけてきた。
「いちいち許可なんて取らなくても、そこら辺も話し合って決めてくれ」
俺の言葉を聞いた途端、安心したかのように肩の力を抜く2人。
「今の戦いはどうだったかな」
「なんだかんだ言って、ゲームでの共闘ってほぼ初めてだからちょっと緊張した~」
「2人してレベル3だっていうのに、あそこまで動けたら及第点だな」
「おぉ~」
「やった」
甘い評価だ、と言われたらそれまでなんだが。
しかし嘘を言っているわけではない。
ゲームしかやっていない人でレベル3と言ったら、攻撃を受けても1桁ぐらいしかくらわない相手に何も考えないで戦うことぐらいしかできないはず。
決めつけるのはよくないが、しかし駆け出しの冒険者というのはどのゲームでも大体がそんなもんだ。
昔の俺もそうだったように。
「後は自分達でもわかっていると思うが、現実世界と違ってアシスタントAIが居ないからもっと声を出して意思疎通を図る必要がある」
「だよね」
「うんうん」
「戦い方に関しては2人とも強引過ぎず、押し引きをしつつ視野を広く持ちながら冷静に立ち回れている。言葉にするのは簡単だが、本当によくやっていると思う」
「よし、このまま頑張るね」
「褒められるのって最高だね。このまま頑張るぞ~」
ゲームの世界だから息が上がったりすることはない。
しかし集中力という面では疲労を感じる。
それが自分なりの精一杯で戦っているなら尚更。
2人は再び戦場に戻り、剣を振り始める。
「……」
この2人なら、ここより下へ進行したとしてもそこまで問題はないだろう。
素早いイモーリも、4階の無限に出現するというギミックも無事に突破できるはず。
しかし最終第5階はどうだろうか。
ダンジョンに入場できるという点から、最初からダメージを与えることができるのは確定している。
というか、今更思い出したがボスであるレンジャーウルフにレベルが表記されていなかったな。
流れで闘うしかなかったわけだが、攻略というのだからそこら辺も把握しておきたいところだ。
そんなこんなしていると2人は、この階に居る全てのモグリンを討伐し終えていた。
「じゃあこのまま次の階に移動するか」
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