第36話『いい経験になった』

 残り60体。


 ここら辺はスコーツオンが出現するところだから、慣れという面からも戦うにはちょうどいいだろう。

 しかしダンジョンの奥地に行く、ということが如実に出てしまっている場所でもある。


「ねえ暁くん。私達ってここら辺で戦っても大丈夫なのかな……」

「控えめに言ってヤバそう」


 なんせ、さっきは多くても8体ぐらいしか視界に入らなかったのが、今では既に15体は歩き回ってる。

 2人だけであったら、間違いなく危険でしかない。


「正攻法で戦ったらまず無理だ。だから、今回は連携力を高めるという目標を掲げ、そのために安全策を覚えてもらう。ゲームでパーティを組んだ際にはよくやる方法なんだが、『釣り』というのをやってもらう」


 2人は揃って、手首をクイッと捻って魚を釣るジェスチャーをして首を傾げる。


「大体はその認識で正解だ。モンスターが出現しているところから、自分達だけで対応できそうな数を引き連れて別の場所で戦う。そうすれば、あそこまで数が居ても有利に自分達のペースで戦えるってわけだな」

「ははぁ~」

「なるほど」

「ちなみに釣りをする手段としては、あえてモンスターの前に姿を出すというのもあるが、そこら辺に落ちている石ころを投げたり当てたりするだけでいい」

「それだったら私にもできそう」

「ということは、そこら辺の計算をアシスタントAIに任せれば安全性が増すってことなんだね」

「ああ、そういうことだ。自分にできることは自分でやって、それ以外をアシスタントAIの力を借りれば良い」


 今度も息ぴったりに「はえ~」と納得している。


「失敗しても良いように、まずはやってみよう。多くきすぎた場合は俺が対応する」

「やってみるよ」

「ちょっとワクワクしてきた」


 俺はいつでも動けるように構えて待機。


「じゃあいくね」

「奏美、よろしく」

「よっと」


 鈴城の第一投は見事、一番近いスコーツオンに命中。

 そいつが2人の方面へを向かって走り出した。


 スコーツオンの移動を合図に、2人は他のモンスターが居ない場所まで移動。


「雅輝、やってみたいことがあるんだけどいいかな」

「危ないことじゃなければいいよ」

「ありがと――うっ」

「わっ!」


 鈴城と夏空は1体のスコーツオンを前後に分かれて挟み込んでいた。


 しかし、その短いやりとりを終えた後すぐに鈴城は若干上空へと跳び、スコーツオンの体へ着地すると同時に光剣を突き刺す。


「ほほう」


 それは、俺がやっていたスコーツオンに対する特攻策。

 あれをさっきの戦闘中に見ていて、試しにやってみたということか。

 勉強熱心なのは良いことだが、なんとも恐ろしい発想だ。


「わーお」

「おー。これは凄い。凄いよ、雅輝っ」

「なに今の凄い。スコーツオンが反応しないまま消滅しちゃった」

「うんうん。これは暁くんがやっていた戦い方なんだけど、これがずっとできるようになったら、もっと危なげなく戦えるんじゃないかな」

「なるほど。さすがは私達より先輩というわけだ。先人の知恵を借りたってことね」

「そうそうっ」


 楽し気に話をしているが、やはりそういうことか。


 しかし、今のが常にできるような状況で戦えるはずはない。

 そして今も、また。


「カナリア、足の補助具を使用する」

『かしこまりました』

「ふん――っ!」

「へっ?」


 俺はほぼ瞬時に夏空の背後まで跳び、背後から忍び寄って来ていたスコーツオンを2体斬り裂いた。


「もう1つレクチャーだ。戦闘中は常に気を抜かず、アシスタントAIの力を過信し過ぎず細心の注意を払っておくこと」

「は、はい。気を付けます……」

「ごめん雅輝。私のせいだね」

「ほら、そういうやりとりも後でやるんだ。今必要なのはそういうコミュニケーションではなく、戦いに活かすことだけを言葉に出すんだ」

「はいっ! じゃあ次は私が釣りをやってみるね」

「わかった。私は援護に回るね」


 少しスパルタだったか、と思うも、俄然やる気になったようにも思えるからこれはこれで良しということで。

 俺も気を緩めずにしないとな。


 しかし、やはりペアというだけでも全然違うものだ。

 俺は基本的にはソロで活動をしているが、パーティやペアといった複数人の戦闘になった途端、戦闘効率というのは圧倒的に変わってくる。

 ゲームでもそうだが、経験値効率を求めるならソロの方がいい。

 しかし、経験値取得効率を視野に入れた場合は、モンスターの処理速度が速いパーティの方が圧倒的に分がある。


 そこら辺を考えると、誰かとパーティを組むのは良いよな、と考える反面、それはそれで人数が増えてしまうとトラブルが起きやすいという懸念点も脳裏に過ってしまう。

 対人関係からの面倒事は、後から絶対に何かのかたちで絡みついてくるから、やっぱりソロで活動した方が良いんだよなぁとも思う。

 それに、1人っていってもアシスタントAIであるカナリアがいるからな。


 でもこうして可能性について考えられたんだ、いい経験になった。


「さて、俺もそろそろ狩りまくるか」

『お2人の戦闘記録は、このまま継続して分析しておきますか?』

「いやそれはもういい。だが監視だけは続けておいてくれ。なにかあったら、戦闘中でも随時報告してくれ」

『かしこまりました』

「行くぞ」

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