第35話『束の間の休息……』
「ふあ~」
「ふぅぃ」
あれから300メートルぐらい進んだ先で、俺達は休憩を取る。
やはり自身の体力が影響してしまうため、2人は地面にペターッと座る込んでしまった。
ゲームの世界ならいくらでも走っていられるのに、なんてことをこんな状況で思ってしまう。
ここはダンジョンの中。
完全に安全な場所が存在するとは思えないが、背後にある大岩のおかげでモンスターから容易に感知されることはないだろう。
カナリアによる自動先的モードもあるしな。
「今更なんだけど、今回のクエストって指定された討伐数に満たない場合はどうなるの?」
「あー、たしかに。私も初めてだからそこら辺は気になる」
「ダンジョンセンターまでは出ることはできるが、そこから先には出ることができない」
「え……」
「え……」
俺も最初それを又聞きした時、2人と同じような反応をした。
そう、口を半開きに目を丸くして。
「だからこそ、良心が残っている強い探索者は初心者に入り口付近の弱いモンスターを譲ったりする」
「なるほど。討伐数だけを気にするなら、強い人達も入り口で狩り続けた方が効率は良いもんね」
「でもそうすると、初心者の人達とモンスターを取り合うことになっちゃったりするから、誰よりも先に進んで効率的にモンスターを討伐するってわけだ。なるほどなるほど」
「まあそういうことだな。現に俺達がやっているのを、もっと強い人もやっているってわけだ」
2人は打ち合わせをしていたのか、と疑ってしまうほどに「ほぉほぉ」とシンクロして首を縦って唸っている。
さて、こんな時ぐらいしか吹っ掛けるタイミングがなさそうだな。
「鈴城は夏空とゲームで知り合ったんだよな?」
「うん、そうだよ?」
「それって、俺もやっているゲームなのか? それとも別ゲー?」
「一緒のやつだよ? 他のゲームも魅力的ではあるけど、私は1つのゲームを極めたいなっておもっつえるから手は出さないつもり」
「それは随分と鈴城らしい発言だな」
特に褒めたわけでもないが、鈴城は嬉しそうな表情をし始める。
「じゃあ、2人はどんな武器を使って遊んでいるんだ? 俺は片手剣だけど」
「私は剣と盾で最初は遊んでたんだけど、探索者としての練習もできるんじゃないかなって思って片手剣だけで戦うように決めたんだ」
「なるほどな」
やっぱり訂正。
鈴城の思考回路が少しずつわかってきたような気がする。
ゲームや探索者が初心者ってだけで、やってることと考えていることが俺と大差ないじゃないか。
それに、この成長速度は冗談抜きに尋常じゃない。
これを褒めずに何を褒めるというんだ。
「私は最初から片手剣と盾だよ。探索者としてはアシスタントAIの力を借りられるから戦えるんだけど、ゲームだと自分で考えないといけないから、ちょっとだけ怖くて。できるだけ自分を護れる手段はあった方がいいなぁって」
「なるほど。確かにそういう考え方もあるな」
そんな、若干自信がない感じに言われたら、あの時助けたミヤビさんが脳裏に過ってしまう。
「ゲームの中では戦闘をするのはまだまだこれからだから、2人で頑張ろうって話をしてたんだよ」
「怖いかもだけど、いつまでも街中で景色を楽しんでいるだけじゃダメだもんね。なんのためにゲームを始めたのかわからなくなっちゃうもん」
「暁くんみたいにはできないだろうけど、私達も不慣れだとしても『冒険』っていうのをやってみたいって思って」
「それは良い心掛けじゃないか。――俺もちょっとだけ心配だったんだ。本当だったら俺が手伝ったりした方が良いのかなって思ってたんだが、それは必要がなさそうだ」
心に刺さっていた罪悪感という棘が、少しだけ抜けていく気がした。
「そういえば気になってたんだけど、最初に会った時は個人情報がうんぬんって言ってたけど」
「言いたいことはわかるが、あの短時間かつその後のことを考えるとあれが最善だと判断した。それに、俺がパーティリーダーって時点でフルネームを見てしまっているからってのもある」
「なるほど……たしかに」
「ちなみに、ここに居る全員が同い年ってことから気を使う必要はない」
「じゃあ……!」
「そういうことだ」
「雅輝~っ。不甲斐ない私だけど、これからもよろしくねーっ」
「えっ、へっ? 急にどうしたの」
俺も夏空と同じく「急にどうしたの」という言葉が出るところだった。
鈴城は、夏空を信用したい気持ちは沢山あったのだろうが、俺から言われていた言葉を気にしていたんだろう。
安心したあまり、鈴城は夏空に抱き付いた。
まあ確かに、ゲーム初心者へ対して初めて仲良くなれた人間を『信じ切るな、疑え』なんて言ってしまったんだ。
特に俺から言われたものだから、ずっと気にしてしまっていたのだろうな。
「俺が言うのは違うだろうが、どうか鈴城をこれからもよろしく頼む」
「なにそれ変なの。だけど、私の方こそこれからもよろしくね」
「うん、うんっ」
2人の関係性ならゲームという垣根を越えて、探索者だけでなく普通の友人として仲良くやっていってくれそうだ。
「そういえば、暁くんのゲーム名って独特っていうか、普通だと初見じゃまず読めないよね」
「まあな。俺の暁っていうのはそこまで珍しい名前……な方ではあるが、聞かない名前でもないだろ? だから、それを活かしてこの感じを活かすことにした」
「ほおほお」
「暁は英語でdawnで、それを逆さにするとnwad。んで、なにかの意味がありそうな感じにしたかったから頭文字を大文字にしてみたって感じだな」
「ほえ~、そんな名前の考え方があるんだ。私のネーミングセンスはこれから要練習だね」
「え……? じゃあ、暁くんってゲーム名はワドって名前なの……?」
「ああ、そういうことになるな。どうかしたか?」
「もしかしたら、間違ってたら違うってハッキリ言ってもらって良いんだけど……暁くんって、ゲームを始めた手の時、誰かを助けたりした? 武器の出し方もわからないような初心者……を」
……。
「ああ、助けた。名前は『ミヤビ』という女性」
「はぁ――っ」
両手で口を塞ぐ夏空。
……そういうことだった、か。
「あの時は助けてもらっただけじゃなく、探索者としても助けてもらって――本当にありがとうございました!」
「え、え?」
「鈴城は蚊帳の外になってしまうが、どうやら俺と夏空には運命的な縁があるようだ」
「え? え!?」
「今言えることは、そこまで気にしなくていいってことだ。それより、こっちも謝らないといけない」
夏空はなんのことかわからない、という風に表情をみせている。
「俺は自分の欲に負けて、初心者の夏空を見捨てた。本当にすまない」
「え? そうだったの? それこそ全然気にしてないよ。確かに最初はパーティから暁くんが居なくなっていたから、どうしようって思って街中を彷徨ってたけど……でも、そのおかげで奏美と出会うことができたんだよ。これもなにかの巡り会わせなんだって思ってたぐらい」
「詳しいことはわからないけど、これでどっちも言いたいことが言えたのなら良いんじゃないかな?」
鈴城の助け船に感謝。
「そうだな。――さて、そろそろ休憩も終わりだ。まだまだモンスターを倒さなきゃならないからな」
「雅輝、私達は焦らずに頑張っていこ」
「そうだね。奏美との連携力を高めていくよっ」
「よし、じゃあ行くか」
俺達は立ち上がり、岩陰を後にした。
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