第34話『開幕速攻』

「行くぞ!」


 団子状態の人貯まりを突破した俺達は、周りの目線など気にせず走り出す。


 当然、俺達同様に走り出す人達もいるが速度が桁違いだ。

 全速力で走る人や、アシスタントAIの力を借りているのであろう、楽に走っていく人達もいる。


 俺も速度を上げたいところだが……後ろをついてくる2人の少し乱れる息遣いが耳まで届く。

 いくらアシスタントAIによって体の使い方が最適化されているからといって、自信の体力に依存してしまうのだから仕方がない。


『ガウ』

『キュー』


 モンスターの目を気にしていないとはいえ、相手からしたら関係はない。

 こちらを攻撃しようと追いかけてくるが、残念ながらこちらの方が足は速いんだ。


 しかし前の人達も同じように通過していっているため、道を塞いでしまっているモンスターもいる。


「はぁっ」

「うわっ」

「すごー」


 後ろから歓声のようなものが聞こえるが、このまま足を止めるわけにはいかない。

 幸いにもこんな楽勝で討伐したモンスターでもカウントされるんだから、ありがたく思おう。


 なんせ最初は60体以上だったのが、3人になったということから80体以上まで押し上げられたんだ。

 いくらレベルの高い俺が居るからといって、ほとんど初心者2人がいることぐらい簡単にわかるだろうに。


 文句を言っていても仕方がないな。

 さっさとここら辺から抜け出さないと。


「2人とも、補助具を使用する。大体3秒ぐらいだ。思いっ切り前傾姿勢になってくれ」

「うんっ」

「了解」

「あ、後は息も止めておくように」


 最後におまけの忠告を入れ、言葉にする。


「カナリア、足のみ補助具の使用を頼む。使用時間は3秒だ」

『わかりました。最速……ではなく、お2人の速度に合わせるということでよろしかったでしょうか』

「ああ、それで頼む」


 2人も自分のアシスタントAIに指示を出し終わったようだ。


「じゃあ――行くぞっ」


 俺達はたった3秒で50メートルぐらいを進んだ。


「ここら辺で一旦止まろう」

「はぁ――はぁ――」

「ぷっはぁ~」

「まだ休憩時間じゃないぞ。幸いにも先行組はここも空けてくれているみたいだから、後方が追いついてきてしまう前にサクッと数を稼ごうと思う」

「よーっし、私も頑張るぞー」

「私も頑張るぞーっ」


 ここら辺に出現するのは、【スコーツオン】だ。


 出現する頻度が高いことから初心者がここら辺で戦おうと思うと、かなり苦戦するどころか非常に危ない。

 だが、今回は俺がいるだけでなく、鈴城という期待の新人が居る。

 夏空に関してはまだわからないが、これより先へ進む前に腕試しにはちょうどいい。


 しかし懸念点としてあるのが、もしもゲームで知り合ったあのミヤビさんだったら、今回の戦闘およびここより先に進むのは厳しいはずだ。

 なにはともあれ、とりあえず戦ってみればわかることだな。


「さて、あちらは準備万端のようだ」


 スコーツオンが計8体、俺達を待ち構えている。


 2人も既に光剣を抜刀済み。


「俺が6体やる。2人で2体をやってくれ。戦い方は完全に任せる」

「わかったよ」

「はいはいー」

「できるだけ無理はしないようにな――っ」


 その言葉を最後に、俺は跳び出す。


 こいつらの戦闘データは既に集めきっている。


「カナリア、自動索敵モードのままでいい。俺がやる」

『かしこまりました。では、余った時間でお2人の戦闘データを収集しておきます』

「さすが、わかってるな」


 スコーツオンには飛び道具のような、遠距離攻撃ができる手段はなし。

 全てが近接戦闘向きになっていて、両側にある3本ずつある足は細かく素早い動きを実現させている。

 顔の横ら辺にある爪と尻尾の攻撃はリーチも短く速度も速くはないが、当たってしまうと"かなり"痛いらしい。


「はあぁっ」


 勢いそのままに滑り込んだ姿勢のまま2体を真っ二つに斬り裂き――消滅。


 停止の前傾姿勢から再び跳び出し、未だに振り向ききれてない2体を背後から斬り刻み――消滅。


 ――残り2体。


 スコーツオンはすばしっこいが、足が多いからか他のモンスターよりちゃんと聞こえる。

 だからこそこの状況では余裕が生まれ、カナリアに見てはもらっているものの、あちら側で戦っている2人の動向が気になってしまいチラッと視線を移す。


 アシスタントAIとのやり取りに集中しているのであろう。

 基本的な意思疎通は言葉のやりとりでやるものだが、そこまで離れていないこの場からでも聞こえてはこない。

 しかし、しっかりと攻撃を見極めて回避をして攻撃ができるチャンスを窺ってる。

 戦闘慣れはしていないが、冷静でいられているというのはかなり大事だ。


『キュキュ』

「おっと」


 さすがに戦闘中で余所見っていうのは失礼だったな。

 突進してきた2体のスコーツオンから半歩飛んで攻撃を回避。


「ふっ」


 こいつらにとっての完全なる視界外――頭上まで跳び、体に着地をして1刺しの後、もう1体の体にも乗って1刺して両方とも消滅した。


 視線を再び2人に移すと、今の間に1体を討伐したようだ。

 残り1体を前後で囲み、後方に回った夏空が尻尾を斬り落として、そのまま2撃目を討伐しきった。


「二人とも、まだいけそうか?」

「う、うんっ」

「大丈夫だよ」

「なら後もう1度だけここで戦おう。後方の人達も俺達が終わったぐらいにここら辺まで来るだろうから、討伐しきったらまた前進だ」


 本当にここの再出現速度は他とは違う。

 だって、見渡す限りのスコーツオンを討伐し終えたばかりだというのに、もう5体も出現している。

 この間、20秒ってところか。


 少しだけ心配はしていたが、2人は腕を回したり跳ねたりしてやる気を表に出している。

 この戦闘が終われば、移動中に討伐した数を合わせれば20体ってところか。

 指示として出された80体まではまだまだ遠いが、順調だな。


「よし、今度も2体をそっちで頼む」

「はーいっ」

「任せてー」

「カナリア、さっきと同じ要領で頼む」

『お任せください』




 ――戦闘終了。


 数も少なかったから、1分程度で戦闘は終了した。

 だが、集中し過ぎたのであろう。

 2人の表情に若干の疲れが見え始めている。


「もう少ししたら休憩だ。移動開始!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る