ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第30話『探索者全員強制参加緊急クエスト発令』
第30話『探索者全員強制参加緊急クエスト発令』
「ふぁ~」
時刻は深夜2時――連絡が来ていないか空中に向かって、受信ボックスを展開する。
そこには、セール情報やらクーポン配布やらのメッセージが届いていて、特に重要なものはない。
受信ボックスを閉じて、カーテンの間から射し込む光を眺めるように天井に視線を移す。
「鈴城があれほど動けるなんて、ぶっちゃけ予想外でしかなかった」
今日感じたことを率直に呟く。
だってそうだろ?
普段は……というか面と向かってあった回数なんてたかが知れてるが、もろもろ含んで抱いていた印象は、真面目・物静か・勉強熱心……っていう感じで、物怖じることなくモンスターと戦闘する姿なんて誰が想像できるっていうんだ。
「ちょっとだけ自信を無くすよなぁ」
天井に向かって、そんな愚痴が零れてしまう。
俺が初心者だった時は、カナリアに疑問を抱いたり反論してたのを今でも憶えている。
断然、俺より頭が良いし言ってることも正しかったのにな。
それを頭の中ではわかっていたんだが……あれがいわゆる反抗期ってやつだったんじゃないかって思う。
「まあでも、これで心配事はなくなったな」
もしも鈴城が素人丸出しの初心者っぷりを発揮していたら、夜な夜な悪夢を見るのは確定だった。
俺が言うのは違うかもしれないが、身近な人間に探索者が居なかったからこんな気持ちは初めてだ。
心がソワソワして落ち着かないっていうんかな。
そんでもって、この調子だとゲームの方でも心配はいらないってことになる。
システムとかいろいろと勝手が違うから慣れは必要だろうが、あのセンスの塊みたいな鈴城だったらすぐに適応できるだろう。
「今日は体も動かしたし、ゲームでも動き回ったしよく眠れそうだ」
薄い毛布を被り、でも足先だけは出しながら全身脱力して寝る姿勢に入った時だった。
「うわ、うっさ」
突如、不快感でしかない警告音が鳴り響く。
正しくは俺にしか聞こえていないんだが。
「……別にこんなタイミングじゃなくてもいいだろ」
抱いた不快感をそのまま言葉にする。
いわゆる緊急事態の時に流れるこの音楽らしきものは、探索者登録をしている人間にしか聞こえないようになっている。
災害時にも同じような音楽が流れるようになっていても、それは当人どころか他人にも聞こえるようになっていて、それはもう人数が居ればいるほど耳を塞ぎたくなるほどの騒音と化す。
それで驚きはしたが動揺していないのは、すでに
――クエスト発令。
不定期にやってくる、ゲームでいうところのボーナスイベント。
探索者であるならば、基本的には参加しなければならない。
だが、このクエストに関しては国も了承しているところがあり、学校や仕事を公休として扱われる。
そんなお膳立てまでされたのなら、ゲームのような経験値ではないが類似するものを獲得して強くなれるのだから、ウッキウキで参加する以外の選択肢はない。
……と、俺も最初は思っていた。
「……無礼だが、仕方がない」
既に眠気が飛んでしまったのを利用し、空中にキーボードを展開してメッセージを作成――送信。
すると、ものの10秒ぐらいで通話が掛かってきた。
『暁くん、さっきのってなんなの!?』
「まあ一応、届いた文面通りの内容だな」
互いにカメラはオフの状態で、音声のみの通話が始まる。
『そ、それはそうなんだろうけど……どういうことなの?』
「今日、補助具を使用できる時間は、モンスターを討伐して経験値的なものを獲得していくと使用時間が増えていくって言ったよな」
『うん。あっ』
「そういうことだ。表面にはそう捉えておけばいい」
『ということは?』
「当然、裏面もあるわけだが俺も詳しいことはわからないが、ダンジョンに関連するなにかがあるんじゃないかって思っている」
『なにかって?』
「ただの憶測にすぎないが、そもそも俺達探索者の役割はモンスターが地上へ出てこないよう、倒して倒して倒しまくることにある。だから強くならないといけないし、強くなるためのシステムもある」
だったら、最初からもっと強い状態でスタートさせてくれって話なんだが。
「強制参加ってぐらいだから、サボり気味な探索者を強制的に参加させて強化させようって根端なんだろうが……」
『ゲーマーの勘ってやつ?』
「上手く言葉にはできないが、たぶんそうだな」
俺だって探索者歴が長いわけでもなく、クエストに参加するのもこれで2度目だ。
なんの確証もない、単なる胸騒ぎでしかない。
「それで、だ。文面を見直してもらうと、これからの手順が書いてある」
『あ、うん。このメッセージが届いたら、迅速に以下の手順を実行してください。まずは公休申請って書いてあるね』
「こんな便利な世の中だっていうのに、直接申請しなけりゃならないっていうな」
『なるほど。じゃあ授業が始まる前に行かなきゃだね』
「明日すぐにわかることだが、ここで豆知識だ。このクエストが各探索者に送られると同時に、学校やら会社やらにはちゃんと通達いるんだ。所属している探索者をクエストへ参加させないと罰則を与えるという脅し付きで」
『なにそれ怖い。あ、じゃあお父さんとかも、今回の件は知ってるってことでいいんだね』
「まあ、そうなんじゃないか?」
なるほど。
やっぱり鈴城の両親はそういう人達で、お家もそういう感じってことなんだな。
可愛い娘のお願いだからって、いろいろと大丈夫なのか……?
それとも、教育方針的に放任主義とかそういう?
「とりあえず、細かいことは学校に行った時にでも話そう」
『そうだね。時間も時間だから寝なきゃだね』
「鈴城と話をしていたら、眠気が戻ってきた」
『え、なにそれ。私、もしかして悪口を言われた?』
「いやいや、そんなことはないぞ」
『でも私も一緒。さっきはビックリして心臓がバックバクだったのに、暁くんと話をしていたら安心してきた』
「それはよかった」
そうだろうと思って連絡しようとしていたから、目論見通りってやつだな。
『じゃあまた明日、学校で』
「ああ、おやすみ」
『おやすみなさい』
どっちが先だったか通話は終了し、俺は再び瞼を閉じる。
明日、ちゃんと起きられるか? なんてことを思い浮かべながら。
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