第27話『ゲームでもダンジョン攻略ってわけだ』

 灰色に薄光する隠し扉を通過すると、頭の中に思い浮かべられるようなダンジョンそのものの形式が広がっている。

 視線をぐるりと一周させ、どこを切り取っても岩肌で、奥からは若干冷たい風と共に空洞音が全身を包み込む。


「このシステム、よくできてるが今後が心配だな」


 痛覚システムは等しく設定ができるというのだが、この温度や味覚といったものはどうやらOFFにできないようだ。

 ゲームの世界なのだからそこら辺も自由に決めさせてくれよ、と思ってしまう。


 だって、ゲームの中にそんな現実的なことを盛り込まれてしまうと、なんだか変な感覚になってしまう。

 とか言っているが、探索者としての感覚とゲーム内の感覚を合わせようとしている俺には、たぶん文句を言っていい資格はないんだろうけど。


「にしても、この助かるんだけど妙にいい感じに使えないアシスタントAIみたいなことはやめてくれよな。なんだかむず痒くなってくる」


 視界が暗くなってくると表示される暗視サポート。

 現実世界ではハッキリとした視界になるのだが、ゲーム世界でのこれは輝度がいい感じというか悪い感じに低い。


 うだうだと文句を言っていてはいつまでも進めないが、左手に松明でも装備しながら夜道を歩けってことなのか?


「ダメだ、進もう」


 このままでは本当に進めない。

 常に右側に壁があることを意識しつつ、前進。


 時折天井から滴り落ちてくる雫が、頭や肩に当たる。

 探索者である俺は、こういう事態に慣れているから驚かないが、たぶん一般プレイヤーはこの演出に恐怖心を揺さぶられるだろう。


 ああ、やっぱりダンジョンっていったらそうだよな。


 前方に行き先を拒むように徘徊しているのは、【モグリン】。

 外見的やネーミング的には、モグラというのは一目瞭然なんだが……もう少し、その可愛らしくて緊張感を吹き飛ばす名前はどうにかならなかったのか。


 しかしまあなんというか、ふわふわしてそうな毛皮に包まれ、地面を這いつくばっている茶色い雪だるまみたいなモンスターなんだな。

 もしかして、ゲーム内モンスターのグッズ化でも狙っているのか?

 確かに、あの外見だったら可愛い感じに出来上がるんだろうが……運営さん、本当にそれでいいんか。


 レベル3か。

 ここは何階層まであるかわからないが、まあそんなもんなんだろう。


「さっさと倒して奥に進むか」


 【モグリン】が4体集まっているところへ飛び込み、回旋しながら攻撃を加えた。

 案の定、モグリン達はたったの1撃で討伐できてしまう。


 「お、更新されてるじゃん」


 物は試しとマップを展開すると、ダンジョン用のマップに切り替わっていた。


「なるほどな、マッピングは自分でよろしくどうぞというわけか。だがありがたいのは、全部の階層だけは表示されている。


 全5階。


 そんでもって、各階層の枠取りだけは見えている。

 地形がどうのとかっていうのは、黒い靄に覆われていてわからないが。


「できることなら、このままマッピングを終わらせたいが……時間的に無理だな」


 ただの推測でしかないが、5階層の全部をマッピングするとしたら、全部で3時間は覚悟しておいた方がいい。

 もしかしたらそれ以上かかるかもしれないから、やるとしたら休日の昼間からだな。


「討伐対象は、さっきのモグリンを後26体。【イモーリ】という、物凄く容姿を想像しやすいモンスターを30体。を討伐し、ボスを討伐するだけだな」


 マップに表示される赤い点が複数。


「なるほどな。これは助かるサポートだ」


 どういったシステムなのかはわからないが、この赤点はモンスター――モグリンのものだろう。


 ……にしても、数が凄いな。


 その数12。


 外ではこんなにモンスターが一か所にどう出現しているのは見たことがない。

 これが、ダンジョンってわけか。


「燃えるじゃないか」


 剣を握る手に力が入り、笑う。


 その赤点はゾロゾロと俺の方向へ一直線に向かってきてる。


「面白れえ。ダンジョンが俺を排除しようってわけか」


 可愛い見た目をしておいて、やる気満々ってか。


 赤点でしか確認できていなかったモグリンの群れが視界に入る。


「どんなに可愛かろうが、あそこまで数が多いと可愛くはないな」


 だからって逃げるわけにはいかない。


「一気に行くぞ――」


 真っすぐに駆け出し、踏み込んで跳び――モグリン群の中央へ両足を踏ん張って着地。

 踏みつけられた2体はそのまま消滅。


 残り24体。


 そのまま正面へ右から左へ1振りで1体、左から右へ1振りで1体。

 振り返りながら薙いで2体。


 残り20体。


「まだまだぁ!」




 勢いそのままで計30体を討伐し、俺は第2階層へ足を踏み入れる。

 入り口とは違って、懇切丁寧に階段が壁に用意されていて、一段一段降りるだけでモンスターに襲われるということにはならなかった。


「しかし、取り越し苦労とはこのことだな」


 モグリンは1階層にしか出現しないかもしれない、という懸念からクエスト分を倒しきっつあわけだが……この2階層にも出現している。

 しかも最初からパッと見た感じでも20体は居るじゃないか。


 効率的に考えるならば、絶対にこっちで戦った方がよかったな……くっ。


「おらあああああああああああああああああ。やけくそだあああああああああああああああ」


 俺は文字通り戦い方なんて意識しない、斬って斬って、斬って斬って、斬りながら突き進んで2階層を勢いそのままに突破した。


「なかなかにスピーディなダンジョン攻略じゃないか」


 乾いた笑いを添えて、肩を落とす。


「はぁ……お次はやっと【イモーリ】か。にしても、ちゃんと想像通りだな」


 緑色の外皮にその延長線上に生えている1本の尻尾。

 数本の指先には爪のようなものがあり、口からは不定期に細長い舌をチョロチョロと出し入れしている。


「だがわかっているぞ。同じ失敗はしない」


 そうだ、このまま3階層でイモーリを討伐したとしても、4階層にこいつらはうじゃうじゃいるんだろうよ。


 だから俺がやることは決まっている。


「おらああああああああああああああああ!」


 なりふり構わず剣を振り回し、1体とまた1体と討伐しながら足を進めた。

 結果、すぐに階段へとたどり着いて、そのまま4階へ向かう。


 階段を降りる際中、イモーリの討伐数を確認すると残り20、と記されている。


「案外、討伐していたんだな」


 無我夢中だったから気づかなかった。


「じゃあ倒しまくるか」


 意気込みよし、と歩き出す。

 3階層での感じから、大体の予想だがイモーリの攻撃手段はタックルか尻尾の攻撃だろう。

 モグリンはタックルだけだったから思うが、同じダンジョンに生息するモンスターだというのに随分と違うんだな。

 それに、ちょっとすばしっこい感じもするし。


「まあいいさ」


 どうせクエストを完了するためには数を討伐しなければならないんだから、その間に動きにも慣れてくるだろう。


 また無我夢中に立ち回っていれば、どうせすぐに終わるだろう。


「よしっ」


 走って斬って、走って斬ってをひたすらに繰り返した。

 そんでもって、ついでにこの階層をマッピングするのも含めて、かなり大袈裟に立ち回る。


 なんだかよくわからないが、モグリンとは違って背後からの攻撃には気づきにくいらしい。

 だから目標討伐数にはすぐ達した。

 レベルもモグリンと一緒で3だから、そして不意の攻撃ということもあって一撃で討伐できたというのも、こんな早く討伐し終えられた要因だろう。


「初見の俺でもわかりやすい作りになってくれていて助かる」


 その足で階段へと駆け込んだ俺は、勢いよく降りて、扉の前に立っている。

 なんて表現したらいいんだろうな。

 重量感があって、でも少し明るめの木材が使われているようだ。


 たぶんこのゲームのどこかに生えているであろう木を使っているのだろうが、残念ながらそこまでの知識は持ち合わせていない。


 後はボス攻略だけだし、一旦ここで回復アイテムとかの確認をするか。


「ふぅ、休憩休憩」


 俺はひんやりとした岩肌に腰を下ろす。


 回復薬(小)が10本。


 瀕死の状態から全回復できるぐらいだけ、か。

 まあこれぐらいあれば、多分大丈夫だろう。


「にしても、ダンジョンボスと1対1の勝負か。楽しみで仕方がないな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る