ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第26話『運営の目論見通りに、やってやろうか』
第26話『運営の目論見通りに、やってやろうか』
さて――運営の目論見通りに、やってやろうか。
そんな、如何にも運営が悪の組織みたいに位置付けてみる。
ステータスを展開して、一番下まで指でスクロール――現実世界とのレベル同期を選択。
すると、
レベル30
耐久力30
攻撃力30
防御力30
敏捷力30
といった具合ですぐに反映された。
噴水広場で独り、ベンチに腰を下ろして街行く人々を横目に夜空を見上げる。
目線に合わせてステータス一覧も移動。
そろそろ自由値の割り振りも考えておきたいところ。
俺のプレイスタイル的には、魔撃力と素統力は必要がない。
なんせ、魔法使いとして立ち回るわけでもヒーラーとして活躍したいわけでもないからな。
近接戦闘の俺は必然的に耐久力・攻撃力・防御力・敏捷力へ均等に割り振るのが妥当なんだろうが……。
でも、そうすると安定性が増しても、結局そこまでだ。
パーティを組んだりできないだろうから、本当は安定性が増して悪いことはないんだが、目標として掲げている最強がそんなんでどうする?
あの時一緒に戦ったガガッドさんのように剣盾という感じであれば、それでいい。
なら、俺がとる選択肢というのはやはり2ステの"極振り"だろう。
それは、攻撃力と敏捷力。
俺は探索者としての戦い方は、どちらかというとスピード型だ。
現実世界の戦い方と合わせると、ゲーム世界でも感覚のズレが起きにくい。
現実逃避したいからゲームをしているというのに、これでは本末転倒なような気もするが。
「そういや、ゲーム内だと自分でクエストを受けにいかないとなんだよな」
そんな、現実世界だったらアシスタントAIにすべて任せられるようなことが面倒くさい、と思いながらも、こんな現実的な不自由を味わえるのもゲームの醍醐味だなと思う。
俺は立ち上がり、さっそく冒険者組合のある中央区へと足を進めた。
「現在、Nwadさんが受けられるクエストはこちらになっております」
「ありがとうございます」
森の草木のような緑色の髪の毛をポニーテールに結っている受付嬢は、それはもうメイド服なのでは、とツッコミを入れてしまいたくなるフリルがふんだんに使われている服で俺を迎えてくれる。
これは完全に運営の人達による趣味丸出しのものなんだろう……。
我ながらすんなりと感謝の言葉を述べてしまったが、相手はNPCで運営がキャラクターを操作しているわけではない。
だというのに、まあ……いいか。
「どれどれ」
目の前にいる冒険者のレベル等を勝手に読み取るというのはいい技術だな。
提示されたクエストは、各モンスター30体の討伐やとんでもないほどの採取などが主となっている。
どれも報奨金が設定されており、ゲームならではの報酬として経験値も一緒に獲得できるようだ。
モンスターを討伐して経験値を貯めて、クエスト完了でも経験値を獲得できる。
ここら辺で、現実世界で探索者をやっている人との差を広げないようにしているのであろう。
しっかりと配慮されていることから、非難が殺到するのを防いでいるのだろうが、素直に関心する。
「これは……一番俺にとってはちょうどいいクエストじゃないか」
一番下までスクロールすると、【ダンジョン系】の項目を発見。
その中には3つほどあり、そのどれもがダンジョン最奥まで攻略し、そこに君臨しているボスを討伐するというもの。
つまり、ダンジョンで自由気ままに経験値や金策をしつつ、ボス攻略をしてかなり多い経験値とクエスト報酬でもいろいろともらえるということだ。
これぞ、ウハウハが止まらないというやつだ。
「じゃあこのクエストとこれをお願いします」
ダンジョン攻略とついでにそこで生息していそうなモンスター討伐のクエストを3つほど受注することにした。
多分、俺は今とてもなくいやらしく笑っているのだろう。
だが問題ない、目の前にいるのはNPCなのだから。
「それでは、こちらがダンジョンの入り口と軽い情報になります」
「ありがとうございます」
受付嬢から渡されたのは、データ上の新規マップ。
これから考察するに、冒険者登録をした時に渡されるマップとは違い、こうして特殊クエストを受注することによって獲得することができるのであろう。
ラッキーと思う反面、こういったチャレンジをしなければ、半永久的にダンジョンのありかを知ることはないのだろう、と思うとそれはそれで恐ろしい話だ。
「それでは失礼します」
「ご健闘をお祈りいたします。いってらっしゃいませ」
一礼後、歩き出した俺の背中にそんなことを言われてしまってはテンションが上がってしまう。
スキップしてしまいそうな思いを必死に堪えつつ歩き出したのだが、施設から出てすぐ気持ちに引っ張られて街中を走りだしてしまった。
「ここって……ほほう」
既存のマップに追加された新規マップ。
そこに表示されている真っ赤な点の元まで駆けていると、身に覚えのある風景が視界に入ってくる。
ここは記憶に新しい、みんなで最初のエリアボス協略をした場所。
ともなれば、当然あいつらも居る、というわけだが――それより目線を先に送ると、崖になっている壁の部分が半透明になっているじゃないか。
隠し扉ってわけなんだろうが、あそこって、俺が休憩するために何度も背中を預けていた箇所だ。
「ははっ。じゃあ、クエストを受けていなかったら本当に場所自体を知ることすらできていなかったというわけか」
と、肩を揺らしながら笑った。
「【ハンターウルフ】さんよぉ、俺がレベルアップした記念だ。肩慣らしに付き合ってくれよ」
俺は剣を抜刀し、たぶんとてもいやらしい笑みを浮かべているだろう。
なんせ、あの時こそは苦戦を強いられたが、今はその頃とはかなりわけが違う。
自由値を振っていなくてもその事実は揺るがない。
「さて、そんなに怖い顔をするなよ」
あの時は若干でも恐怖を覚えたが、今となってはそれが可愛く見えてしまう。
「――いくぞ」
攻撃用のスキルなんて必要がない。
現実の戦いを思い浮かべろ。
感覚を合わせるんだ。
姿勢を少しだけ低く、相手が突っ込んできてくれるのを利用する。
剣を右下に、剣先を地面ギリギリまで下す。
しかし剣の重みを少しだけ利用するかたちで、体は少しだけ左に傾ける。
【ハンターウルフ】は獰猛――今となっては可愛らしい牙をむき出しに、一心不乱にこちらへダッシュ。
このまま受け止めることもできるが――。
『ガウッ』
「ふんっ」
面白いぐらいに誘いへ乗ってくれ、ハンターウルフは俺の正中線より若干だけ向かって左側へ飛び込んできた。
俺は右側へ体をずらし、ハンターウルフの体側へ一線。
宙を噛みついた勢いでダメージを負い、着地は足ではなく頭から。
間髪入れずさらけ出されている脇腹へ剣を突き刺し、討伐完了。
「良好っと」
剣による一線、着地失敗の地形ダメージ、最後の一撃。
我ながら上手くいきすぎたな。
あの時はできなかったことが、今は思い通りにできる。
「こりゃあいい。――残りは2体か」
忘れてはいない。
ここのエリアボスは、最初の難関にしてかなりの難易度だ。
あのメンバー――いや、ガガッドさんが居なければ、間違いなく攻略しきるまでにもっと時間を使っていただろう。
でも今なら。
「今度はこっちからいくぞ」
あの時は常に後手だった、若干の悔しさを噛み締めながら歩き出す。
ハンターウルフ達は俺を挟むように両側へ、俺を警戒しつつゆっくりと広がる。
「そんなに俺が怖いのか?」
エリアボスぐらいになってくると、若干の学習能力がある。
だが今のこいつらと俺は初対面。
ということは、自動的にこちらのレベルを感知できるようになっているのか?
『ガアァッ』
まずは右側。
相も変わらず突進からの噛みつきを狙っているのだろうが、それはもう飽きてきた。
今度は真正面から受けてやる。
「ふんっ」
1撃――右前足。
2撃――背中。
3撃――頭。
攻撃を避けてから攻撃を加え、3撃目でハンターウルフは消滅した。
『ガッ!』
仇討のつもりなのか、隙ありと見たのか最後の1体が背後を襲おうと飛び掛かってきているのであろう。
しかし、ちゃんと奇襲をしたいのなら、声を出さないことだな。
俺は振り向くと同時に、剣を高く持ち上げて振り下ろす。
現実世界みたいに見えているわけではないが、偶然にもハンターウルフの頭部に直撃して地面へと叩き落した。
そして見事に地面に倒れ込んでいるのだから、手加減をするはずもなく。
右から左へ、左から右へ剣を振って攻撃を加え――ハンターウルフは消滅。
「あの時から比べて圧倒的に強くなったというわけではないが、爽快感は増したな」
そうさせたのはレベルアップなのか、気分よくゲームを始められたからなのかはわからないが、今は物凄く調子がいい。
ゲーム内なのに調子とは? と思われるかもしれないが、俺も同意見だ。
「いざ、ダンジョン攻略へ、っと」
月明かりに照らされる森の中、暗視サポートの視界をONにして歩き出した。
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