ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第24話『おう……それが最初からできるんかい』
第24話『おう……それが最初からできるんかい』
標的フィーウルフを目の前に、俺達は剣を構える。
「手始めにあいつと戦闘しよう。俺はサポートに回るから、絶対に攻撃を食らわないように立ち回ってみてくれ」
「わかった、やってみるよ」
鈴城はゆっくりと、1歩ずつゆっくりと剣を両手で構えたまま前進。
対するフィーウルフは今にも走り出しそうな感じで前傾姿勢に。
俺はいつでも跳び込んでいけるよう、左斜め後ろに構える。
『グアァッ』
先陣を切ったのはフィーウルフ。
俺だったら横に回避して無防備な側面へを攻撃を入れる。
とか勝手に脳内シミュレーションしながら、鈴城の動向を観察。
しかし大きな動きをする気配はない。
このままじゃダメだ。
行くしか――。
「え」
ここら辺のモンスターは自身で考えるということができない部類だが……。
「やったよ暁くんっ」
「お、おう」
まさかのまさか。
フィーウルフは真正面からの突進をしてきたのだが、動かずに剣を構えているところへ自ら突き刺さりに行ったのだ。
まるでンなにかのコントでも観ているかのような気分になってしまったが、鈴城が嬉しそうにジャンプしているからよしとするか。
「てか、アシスタントAIはなにも指示を出さなかったのかよ」
「ううん。一杯指示を出してくれてたよ。『後ろに跳んでください』『横にステップを踏んでください』『お仲間に助けを求めてください』とかとか」
「じゃあなんでそれに従おうとは思わなかったんだ?」
「うーん、なんとなくこのままで大丈夫かなって思ったの」
「なんとなくねぇ……」
アシスタントAIはしっかりと役割を果たしている。
まあでも、そういう勘も大事なのが探索者だからな。
「とりあえず、その考え方自体は正解だ。全てをアシスタントAIに頼り切ってしまうと、思考停止してしまいミスを多発してしまう。そうなってしまった末路は語るまでもない」
「わかった。肝に銘じておくね」
「次が来たぞ」
鈴城は振り返り、構え直す。
今度は2体。
さっきと同じような展開にはならないだろう。
さて、どう出るか。
俺もさすがに跳び出す準備はしておかないとな。
『ガァッ』
『グルッ』
両サイドから湾曲の線を描いて駆け寄ってきている。
「はぁあ!」
鈴城は右からくるフィーウルフへ自ら跳んで攻撃を仕掛けた。
結果、消滅。
互いに勢いがあったからこそ、剣にも勢いが加わって殺傷力の高い攻撃を行えたのだ。
残り1体。
『ガルァ!』
完全に背後を取られてしまっている。
このままでは危ない。
行くか――。
「はっ!」
――と、俺は走り出したのだが、鈴城は振り返りざまに剣を横薙ぎ、フィーウルフは空中で灰となった。
「わーお、やるじゃん」
おう……それが最初からできるんかい。
「やったよ暁くん! 今の戦闘はどうだった? 私、ちゃんと戦えていたかな?」
「正直に言うが、あれは初心者ができる動きじゃない。考察するに、1体目は鈴城が自分で考えて行動し、2体目はアシスタントAIの力を有効活用した。ってところか?」
「うんうんっ、その通りっ。さすが暁くん」
剣の光を収め、鈴城は嬉しそうに万歳したり飛び跳ねたりしている。
その満面の笑みは、まず学校では拝めることはできない。
こういうのを目の当たりにすると、学校で作業をしてた時に鈴城が言っていたことも少しは理解できた。
たしかに、こういう喜びを分かち合うっていうのはいいもんだな。
「じゃあ最後に連携……なんだが、これに関しては俺も鈴城と経験値的にそう大差はない」
「そうなの? でもゲームではパーティを組んだりしているんだろうし、そこまで勝手が違ったりするの?」
「おい鈴城、それ以上はやめてくれ。俺の心が途轍もなく抉られる」
「え、もしかして暁くんって現実でもゲームでもソロプレイヤーってやつなの?」
「そ、そうだ」
くっ……ソロプレイのなにが悪いって言うんだ。
ここからイジってくるなら反論できるんだが、そんな純粋に「でもそれって凄い」って言いながらキラキラさせた目で俺を見たいでくれ。
「でも、物は試しってことだよね。やってみよーっ」
「おう」
完全に2人だけの空間に入っていると。
『暁様、本日は随分と楽しそうですね。ですが1つだけもの申し上げますと、暁様は私という存在がいるので、ソロプレイヤーという枠組みにはあてはまらないのではないでしょうか』
「カナリア、なんか怒ってる?」
『そんなことはありません。私はアシスタントAIですから、そういった感情的なものは持ち合わせておりません』
「お、おう」
そして、思い出す。
「そういえば、現実世界にパーティシステムってのはないが、一緒に狩りをする場合は互いのアシスタントAIの音声を出力してもいいってのがあったよな」
「そうだね、授業で習ったのを憶えているよ。まだ記憶に新しいかも」
「俺は完全に必要がないと思っていたから今の今まで忘れてた。にしても、そうなんだよな。あんなに戦えているから一瞬でも忘れていたが、鈴城は探索者になりたてだったんだ」
『それでは、音声をONにします』
「えーっと、こういう時ってどうすりゃいいんだ」
『まずは自己紹介ですね。私は【カナリア】と申します。以後お見知りおきを』
「はっ! 凄いね、実体は見えないのにしっかりと声は聞こえて。しかも見えていないだけで実際に居るみたいな不思議な感覚」
鈴城は俺ではない、しかし誰がいるわけでもない空中に向かって頭を下げた。
『鈴城様、そこまでかしこまらないでください』
「は、はいっ!」
「んで、鈴城の方はどうする? 今回はこっちだけにしておくか?」
「そ、そうだね。私の方は索敵モードに切り替えて、暁くんとカナリアさんの声に集中するよ」
「そうだな、それでいこう。んじゃもう少しだけ効率を上げるために奥へ進むか」
「了解であります」
戦闘が上手くいきすぎて調子付いているのか、いつもの鈴城よりテンションが高めに見えてしまう。
勘違いかもしれないが、まあ、気落ちされるよりはよっぽどこっちの方がいい。
「鈴城、剣は出しておくんだぞ」
「ああいっけない」
『鈴城様は、暁様と親し気な関係と推測しましたが、どれほどのお付き合いなのでしょうか』
「私が暁くんと出会ったのは、同じ学校に入ってからですね。だから、大体2ヵ月目って感じです」
『なるほど、そういうことだったのですね。ご学友とのことですが、暁様のゲーマー特性は把握済みなのでしょうか』
「はい、それはもちろんです。基本的に暁くんはゲームの話はしてくれませんが、なにかを理由付ける場合はほぼ必ずゲームという単語を出してきますので」
『それは随分と暁様らしいですね。私も一緒で、ダンジョンでは学校の話を一切してくれないのです。そして、同じくなにかの理由付けをする場合は、必ずゲームという単語が出てきます』
「なるほど。なんだか私達、気が合いそうですね」
『私も今、同じことを考えておりました』
俺だけを置き去りに、俺の話題を、俺抜きで楽しそうに話すのか。
なんだか複雑な気持ちだが、ここで俺が割り込めば変な話題へと移ってしまいそうだから、静観を決め込むとしよう。
『暁様、この先にフィーウルフが5体出現しております。いかがなさいますか?』
「5体か……」
俺単体であればなんら問題ないが……。
「暁くん、戦ってみようよ。だって探索者として1人でダンジョンに来たら、こういう状況を対処しなくちゃいけないんでしょ?」
「それはそうなんだが」
「それに、今は暁くんが私を護ってくれるんでしょ? なら、大丈夫だよ」
「……わかった。じゃあ行こう」
俺達はその方向へと向かう。
確かにそうだ。
知り合いだからといって少しばかり過保護になっていたかもしれない。
俺達は仲良しこよしで探索者をしているわけではないんだ。
毎回一緒にダンジョンに来るわけでもないんだから、自立の支援をしなければ意味がない。
しかし念のため、補助具を使用することを頭の中に入れておこう。
目的地にはすぐに辿り着いた。
「先手必勝。俺は1体、鈴城も1体だ。行くぞ」
「うんっ」
俺達は、未だこちらに気づいていない無防備な背中へと駆け出す。
足音までは消せないため、途中で気づかれてしまうが関係ない。
こちらが足を止めなければ、フィーウルフは勢いそのまま葬ることができる。
「――っ」
なにか行動しようとしていたが、このスピード感では意味がない。
目の前の1体は消え去り、鈴城の方へ視線を向けるも同じく1体討伐できたようだ。
残り3。
ああダメだ。
さっきは鈴城の自立を支援するとか思っていたが、こう体を動かしてしまうと込み上げてくる熱を抑えきれない。
「カナリア、俺がやる」
『かしこまりました』
補助具を起動し、跳ぶ。
圧倒的な加速により、警戒体制に入ったフィーウルフ達の目の前に勢いよく滑り込む。
そして、勢いそのままに剣を振り、1体、1体、1体と切り裂いていく。
この間、数秒。
あっという間にフィーウルフの群れは灰となって消え去った。
「え……なに今の」
俺の元へ駆け寄ってきた鈴城は、俺を人間じゃないと訴える目線と声でそう問いかけてきた。
「すまない。鈴城に戦闘の経験を刺せようと思っていたんだが、つい熱が入り過ぎてしまった。――そしてこれが補助具をしようした戦闘になる」
「学校では1度も使えなかったから、実際に見るともうわけがわからないね」
「これは慣れってのもあるし、後はレベル依存になっていて1回で使用できる時間が変わってくるから、今の鈴城は使用しても0.5秒ぐらいだと思う。そして、めっちゃくちゃヤバい筋肉痛が襲ってくる」
「なるほど……つまり、レベルが低いと実用性に欠ける。だから学校では使用させてくれなかったんだ」
「まあそういうことだ。まあ後、探索者になる前はアシスタントAIの制限が掛けられているからってのもあるな」
とかなんとか言っている俺は、今の戦闘でカナリアのアシストを受けていなかったが。
「どうせなら俺も居ることだし、最後の戦闘で補助具を使用して戦ってみるか?」
「い、いや。もう少しだけレベルが上がってからにしようかな。私、筋肉痛ってものすっごく嫌いなんだよね」
「なるほどな、わかった。その気持ちは俺もよくわかる」
「よーしっ、今日は後フィーウルフを30体は討伐するぞぉ~っ!」
「わーお。おっけー、最後まで付き合うとしよう」
「師匠、よろしくお願いしまーすっ」
ここまで鈴城が生き生きしているのを初めて観る。
直接顔を合わせた回数は片手で数えられるぐらいしかないが、楽しそうでなによりだ。
『暁様、さっそくあちらの方でフィーウルフが5体出現しております』
「よし、じゃあ行くか」
「レッツラゴーっ」
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