ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第22話『探索者の資格を取りましたってマジ?』
第22話『探索者の資格を取りましたってマジ?』
「ん-くぅ~、終わった終わった」
俺は大袈裟に体を伸ばす。
「もう、体は全く使っていないんだから疲れはしないでしょ?」
「それはそうなんだが、なんだかこう……ずっとじっとしているってが、どうしても耐えられなくてな」
「普段の授業中はどうやって過ごしているの……」
「ずっとゲームのことだったりダンジョン攻略のことばっかり考えてる」
「はぁ……だから赤点ギリギリになっちゃうんだよ」
それは本当にその通りでございます。
あまりにも正論すぎてなにも反論できません。
「ま、まあそんな話はちょっと忘れてもらって。鈴城はなんの武器を最初に選択したんだ?」
「戦闘とかよくわからないし、剣と盾にしたよ」
「それはいい選択をした。剣盾で戦闘慣れすれば、近接戦闘系ならある程度は融通が利く。それに前衛での戦闘経験があれば、後から後衛になった時に立ち回りをいい感じに考えられるようになる」
と、数日前にペアで戦った、弓使いクラキキットの腑抜けた顔を思い浮かべながら発言してしまう。
「鈴城の場合は、物事を紐解いたり関連付けたするのが得意だろうから、試行錯誤を繰り返せばすぐにゲームを理解できると思う」
「そうなのかな? でも不思議と、暁くんにそう言われるとできそうな気がしてきた」
「後はボディコントロールが最後の関門だな。こればっかりはプレイヤーが自分の体をどう動かすかだからなんとも言えない」
「あれね~、本当に難しかったよ。初めてウルフと戦闘した時、ものすっごく緊張したし、武器の扱い方なんて全然わからないからずっと空を斬っちゃってた」
「大丈夫、それが普通の人のスタートラインだから気にしなくていい。俺みたいな探索者をやっているようなやつらは、こういう時に戦闘経験があるからなにぶん思い切りがいいだけだから
鈴城は、椅子に座りながらその時を実践してくれているのであろう。
見えない剣と盾を構えて、「えいっ、えいっ、やーっ」と唱えている。
「できれば1からレクチャーしてあげた方がいいだろうし、ゲームをやめてしまわないためにも楽しさを伝えてあげたいんだが……」
「ううん、そこら辺は全然気にしないでいいよ。元々、私が勝手に勢いよく相談なしに始めたことだから。それに今なら女の子の友達もできたことだし、全然問題なし」
「そうか、それはよかった」
「それにいつ追いつけるかわからないけど、頑張ってみようってその子と話し合ったばかりだから、これからはしっかりとレベルアップしていくよ」
「それはいいな。無理せずに頑張ってくれ」
知り合いがゲームを始めたばかりだというのに薄情な、と責められたらなにも言うことはできない。
なんせ、俺は初心者を一度切り捨て、最強のゲーマーになるという目標の元、運営からの宣戦布告ともとれる告知に乗っかってダンジョンでレベル上げをしている。
きっと普通の人から見たら、俺の行動ってのは普通じゃないんだろうな。
「じゃあそろそろ時間も時間だし、解散にするか」
「そうだね。あっ、そういえば言い忘れていたことがあったんだ」
「なになに、これ以上のお仕事でしたら是が非でも丁重にお断りさせていただきたいのですが」
「いやいやそうじゃないの。えっと、私情で報告があるの」
「え、もしかして彼氏ができたとか? それとも婚約者が決まったとか?」
「もう! なんでそうなるのよ! ――私、
「え――それ、マジ? 聞き間違いかもしれないから訊くけど、探索者の資格を取りましたってマジ?」
「うん。マジ」
「わーお。これまた随分と珍しいというか大胆というか、あまりにも予想外すぎるというか」
いや、だってそうでしょ?
鈴城って、さっき確定したとしても、どこぞのお金持ちの家のご令嬢様。
清楚系クラス委員長で、つい数日前までゲームをしたことがなく、成績は優秀、人当たりもいい。
そんな子がゲームを始めたってだけでも驚いて仕方がないっていうのに、探索者だって?
探索者っていうのは、ゲームと違って一歩間違えば命を落とす。
俺が言えた立場ではないが、それを親が許可したとでもいうのか?
「俺はその鈴城が決めたことを否定するつもりはない。だが、なんていうか家の人は誰も反対をしなかったのか?」
「当然、最初こそは誰1人として賛成してくれなかったよ」
「だろうな」
「でも私は自分の意思を示したの。ちゃんと話し合った。初めてお父さんとお母さん、みんなとちゃんと話し合った」
「……なんだか異次元すぎる話だな」
「まあね。私って今までお父さんとお母さんに言われるがままいろいろとやってきたの。だけど勘違いしてほしくないのが、強制されることは一度もなかった。選択肢はいつも用意されていた。だけど私は、自分の意思で決められないから敷かれたレールの上だけを進み続けていたの」
聴いていれば、失礼かもしれないがどこかの物語にも似たような話を知っている。
全部が全部とまでは言わないが、お金持ちの家に生まれ育った人間っていうのはこういう末路を歩みやすいのだろうか。
そして最後のオチは、金持ちのボンボンに自分の意思なんてなく全て親の力に頼り切っていざ1人になると点でなにもできない。
だが鈴城はそうならず、自分で判断し行動できたということなのだろう。
立派な話じゃないか。
「鈴城は立派だな。親元から逃げるように1人暮らしをしている俺とは大違いだ」
「全然そんなことないよ。だって、私がこうやって行動できたのは暁くんのおかげだもん」
「俺? なにかしたっけ」
「なにかしてもらったわけではないんだけど、暁くんの全部自分のことは自分で決めるっていうのが、私にはとても眩しくて魅力的に映ったの」
「別に偉いことではない。親の反対を耳に入れずに好き勝手にやっているだけだ」
「暁くんからしたらそうかもしれないけど、私にはそう映ったの。憧れちゃったの」
そのセリフ、鈴城の親が聞いたら俺はどうなってしまうんだろう……。
「自分で言うのもおかしいが、間違っても俺みたいにはなるなよ」
「私は私なりに頑張るよ。じゃないと、探索者としての活動を制限されちゃうし、せっかく始められたゲームだってやめなきゃいけなくなっちゃうから」
ここまできて、俺はふと疑問が思い浮かぶ。
「なあ鈴城、探索者になったのはいいが、勉強期間とか試験期間とかいろいろと大変だっただろ。学校のテスト期間だったてあったんだし」
「たしかにいろいろと大変だったけど、短期集中コースで頑張ってみたよ」
「え、マジぃ!?」
短期集中コースとえいば、普通だったら、というか俺が受けたコースは2か月という月日に分けてやるものをたったの2週間でやってしまうコースだ。
なに1つとして端折ることをせず、文字通り詰め込むだけでなく、探索者なのだから戦闘訓練だって授業内容に組み込まれている。
勉強量もさることながら運動量もえげつないと有名なんだが……。
「鈴城、そこまでして探索者になりたかったんだな。あれか、自分で使えるお小遣いってやつが沢山ほしかったとかそういう感じ……?」
「むーっ」
「なにその顔。俺、なにかマズいこと言った?」
鈴城は頬を膨らませ、ジト目で俺を見ている。
「ぜーんぜん、そんなことはありませんけどね。暁くんには、私がお金に目が眩んでしまうような女の子に映っているってことがよーっくわかりました」
「え? じゃあ別の理由が……もしかして、日頃の鬱憤をモンスターにぶつけたいとか!」
「もーっ! 知らなーいっ!」
「あれー」
なにに対してかわからないが、腹を立ててしまったらしい鈴城はアバターをログアウトさせてしまった。
いまいちわからないが、とりあえず鈴城の行動力が凄すぎる。
鈴城をそこまで突き動かす原動力は気になるが、俺もログアウトするか。
俺も負けていられないな。
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