第四章

第21話『仕事はそこまでないと聞きましたが?』

鈴城すずしろさん、仕事はそこまでない聞きましたが?」


 俺は学校――仮の体で教室にて、2つの机を合わせて俺と鈴城だけがいる教室にて作業を行っていた。


「こればかりは仕方がないよ。1学期のクラス行事だから、委員が決まってすぐに取り掛からないといけないことだから」

「ん~なんだか解せぬ」


 背もたれに体重をドンと乗せ、思い切り背伸びをする。


「お疲れの様子だね。遅くまでゲームをやってたの?」

「ああそうだ。と、いつもの俺なら言っていたが、この疲れはダンジョンでめちゃくちゃ体を動かしまくった反動だ」

「そうだったんだ。もしかしてお金に困ってたりするの? そこまで贅沢はできないと思うけど、数食ぐらいだったら奢ってあげられるよ……?」

「それは随分とありがたい申し出だが、普通の女子高生がただの友達にご飯を数食も奢るってなかなにヤバいぞ」


 その、純粋な眼で「え、そうなの?」と言いながら首をかしげないでくれ。


「ちなみに訊くが、女友達相手にもそういったことをしたことはあるか?」

「ううん、ないよ。私、この年になるまで友達と外食とかお買い物とか行ったことがないから。ちなみに、初めてはこの間3人でショッピングモールに行った時だよ」

「わーお、マジかよ」


 冗談交じりに鈴城がお金持ちのご令嬢様とか思ってたけど、マジもんの箱入りお嬢様ってわけか。


「そんな貴重な初めてをいただいてしまったわけだが、楽しめたか?」

「うん。メイドさん達は物凄く心配していたけど、お洋服選びを手伝ってくれたりいろいろと手伝ってくれたの。みんなすっごく慌ていたから新鮮だったよ。それに、他の誰でもないあかつきくんと奈由なゆちゃんとだったから楽しかった。ずっとドキドキしてたけど」

「楽しめたのならなにより」

 とか澄ました顔して返したけど、今サラッとメイドさんって言ったよね?

 かもしれないでいろいろと考えていたけど、これはもう確定だ。


 たぶん、実際の家とかに行ったらヤバいほどデカいんだろうな。

 たしかにそういうことならゲーム機とゲームをセットで一気に買ってもらうこともそこまで難しくないんだろう。


「そういえば、ゲームって今までやったことがなかったのか?」

「うん。今回のやつが初めて」

「それで、やってみてどんな感じだった?」

「すっごく楽しい――と言えるほど遊んではないんだけど、ゲームの中でお友達ができたの。しかもその人と気が合いすぎて、その人とお話ばかりしてるの」

「まあいいんじゃないか、それはそれで。ゲームの楽しみ方っていうのは人それぞれだし」


 少しだけ心配なのは、その相手がもしも男の人でやましいことを考えていないかどうか。

 鈴城は楽しく話をしているから今のところは害がある感じはなさそうだが。


「今時、ネットリテラシーなんて授業でやっているからわかると思うが、一応注意だけはしておくんだぞ」

「だよね~。でもなんだか話も考えも似すぎてて、その人も女子高生らしいんだけど、話してる内容も共感できてつい気を許しちゃうんだよね」

「それだったら信憑性はありそうだが……逆にその人のことが心配になってきたな」

「ふふっ、大丈夫よ。私達はまだ他の誰ともパーティを組んだりしていないから。でもその人はゲームを始めた時に、男の人に危ないところを助けてもらってパーティを組んだことがあるって言ってた」


 なんだろうな、そのいかにも物語の主人公がヒロインを助けるようなシチュエーションは。

 そんでもって、自画自賛ではないがどこかで似たような話を経験しているような。


 まあでも始まったばかりのゲームだから、他ゲーの玄人と初心者ゲーマーが開始地点で出会うなんてそこまで珍しくはなさそうだ。


 とかなんとか考えながら、もしかしたら男かもしれない、だが短い時間でも一緒の時間を共有したミヤビさんのことを思い浮かべてしまう。

 もしもまた一緒にパーティを組めたのなら、無言でパーティを解散してしまったことを謝りたい。

 そして、また一緒に組んで笑い合ってみたいな、なんて叶いもしない想いを抱いてしまう。


「それは後々で話すとして。今のこの時代に現実で顔を合わせて遠足だなんて、ぶっちゃけて言ったらだりぃ」

「駄目だよそんなことを言っちゃ。暁君が言いたいことはわかるけど、こういう直接顔を合わせなくてもいいような時代だからこそなんじゃないかな」

「将来どんな仕事に就くかによってはたしかに必要だからわからなくもない。だがしかし、ゲームはできないしダンジョンにも行けない。俺にとっての自由が全て奪われてしまう」


 屁理屈だっていうのは理解しているが、ここで折れたらなんだか負けた気がするから嫌だ。


「私は暁君とまた顔を合わせてお話したいけどね」

「え? 今なんて?」


 声が小さかったから、うまく聞き取れなかった。


「早く旅のプログラムを作り上げてゲームの話をしようって言ったの」

「そりゃあいいな。鈴城もゲーマーに覚醒したのか。よーっし、やる気が出てきた!」

「はぁ……暁君って、本当に根っからのゲーマーだよね」

「お? 褒めてくれてありがとうな」

「褒めてません」


 ゲームの話か。

 作業と並行して、初心者にお勧めできることを考えないとな。

 金策は大事だし、経験値稼ぎも大事だ。

 ゲームならではの交渉術も大事だし、スキルについてもいいな。


 よしよしよしっ、楽しくなってきたぁ!

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