ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第18話『面倒事は嫌だが見過ごすことはできない』
第18話『面倒事は嫌だが見過ごすことはできない』
自分が起こした行動ながらに、随分と自分らくしくないと理解しているつもりだ。
ゲームで目的のために初心者を切り捨てることをした俺が、ダンジョンで人助けをするために駆け出している。
俺を知っている人がそんなことを知ったら、たぶん笑われるだろうな。
冷たいことを言うが、ダンジョンでの生死というのは全てが自己責任になっている。
そのためにも自分でトレーニングしたり、優秀なアシスタントAIが補助についていたり、補助具というものだってあるんだから。
しかし、面倒事は嫌だが見過ごすことはできない。
だって、次の日にその助けられたかもしれない人達の死亡ニュースなんて目にしたら、寝覚めが悪すぎるからな。
『そろそろ声がした場所へ辿り着きます』
視界内に予測線が引かれていて、その先にはモンスターに襲われて怪我を負いながら逃げる少女の姿が。
このままでは危ない。
「なにも考えずに従って! 口頭で感覚共有モード開始って言って!」
「えっ……か、感覚共有モード開始!」
俺はそれだけを伝え、突然に動きがよくなってスムーズな回避行動をとり始めた少女とモンスターの間に滑り込んだ。
『暁様、あいつらは棘を飛ばしてくるのが主な攻撃手段です。お気をつけください』
「わかった。危ない時はまた頼む」
『いつでも準備はできていますので、思う存分戦ってください』
思う存分、か。
そうしたいところだが、生憎と自力で走っていたもんだから息が上がっている。
「ふぅーっ」
剣を正面に構え、飛んでくるであろう棘に警戒する。
目の前に居るのは【ザングルス】。
動き自体は素早いということではなく、小さめの四本足で小走りしている。
見た目は簡単に言うと針鼠。
カナリアが忠告してくれた通りで、主な攻撃手段は背中の無数に生えているのではないかと錯覚してしまうほどの棘を飛ばしてくる攻撃。
基本的には距離を詰めきらずに中距離ぐらいから攻撃してくるのだが、ああやって棘を命中させると必死に距離を詰めようと走り、棘団子になって突進してこようとしてくる。
「あの子は……とりあえずここからは逃げ出せたようだな。なら」
後はこいつを討伐して、どこかで座り込んでいるであろう少女の元へ駆けつけるだけ。
『キュゥッ』
小さくも甲高い泣き声の後、【ザングルス】は前足を少し曲げて前傾姿勢に。
そして、棘を飛ばしてくる――その数、3。
「はあぁっ」
カナリアの演算によって予測された軌道を、剣で順番になぞって溶かし斬る。
当然、そんなことをすればザングルスは追撃してくるんだろうが……攻められる前にこちらから行く。
「ふんっ」
地面を勢いよく蹴って、ザングルスの後方へ移動。
通過するのと同時に剣で真っ二つに切り裂いた。
『暁様、お疲れ様です。先ほどの少女はここからそう遠くない場所で壁に横たわっています』
「わかった。急ごう」
アシスタントAIの追跡能力は冗談抜きで凄い。
相手がこちらの方向へ行ったと思う、という予想ではなく、相手がこの道を通った、という確定された情報だけが主に提示される。
もしもこれがストーカー紛いの用途で使用された場合、とんでもないことになってしまうだろうな。
そんなことはさておき、そろそろさっきの人が居るはずだが。
『暁様、あちらです』
視線を誘導されるように青い点に誘導されると、壁にできたくぼみにすっぽりと体を隠している少女を発見した。
他人のアシスタントAIとはいえ、その知恵を有効活用したのだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
「へっ! あ、あ! 先ほど助けていただいたお方ですね」
「すまない、驚かせるつもりはなかったんだが……それより、回復系のものって持っていたりしますか?」
「それが……全部使い果たしちゃったんです」
「わかりました。ではこれをどうぞ」
俺はしゃがんで目線を合わせ、腰のポーチからタブレットが入っている容器を取り出す。
「手を」
「あ、はい!」
手袋を外し、慌てて出された手にタブレットを2粒ほど落とした。
「そんなに焦らないで大丈夫だと思いますので、ゆっくりと口に運んでください」
「ごめんなさい。そうします」
「少しだけ休憩して、このままダンジョンセンターまで一緒に戻りましょう……と、言いたいところなんですが、初対面の男と一緒になんて嫌ですよね」
「えっ! いえいえ! そんなことはありませんよ! むしろ一緒に来てくれる方が心強いですしありがたいですので是非ともこちらからお願いします!」
「え、あ、はい」
なんだかとんでもないほどの早口でたたみ込まれたものだから、反応に困る。
でもよかったな。
さっきの様子だと、あまり戦闘慣れしていないみたいだったから、ここで拒否されたら本物のストーカーをしなきゃいけないところだった。
「カナリア、索敵モード」
『かしこまりました』
「ほえ~、アシスタントAIってそんな使い方があるんですね」
「え? ……まあ、そうですね」
「ごめんなさい。私も探索者だっていうのに、そういうのを全然知らなくって。だというのに、レベルアップというものに囚われてこんな場所まで無計画に来てしまい……助けてもらわなかったら、今頃死んでいました。本当にありがとうございます」
「ま、まあまあ。誰しも最初はいろいろと不慣れなものですから、戦闘とかアシスタントAIに関しては時間を掛けて慣れていけばいいんじゃないですかね」
おいおい、失礼かもしれないけど、なんでこんなにネガティブ思考っていうか、卑屈っていうか、自分を卑下しているんだ?
「たぶん、俺にはこういうのを紐解くっていうか、構造分解して考える癖があるから得意なだけで、1人だったら最初は誰でも苦労をするものですよ。あと、誰かと一緒にいるかとか意見交換ができるかとかあるだろうし」
「そ、そうなのですか……?」
「そうですよ、たぶん」
最後の「たぶん」は目線をこれでもかと逸らして小声で伝えた。
なんせ、俺にもそんな相談とかをできる相手なんて居ないから。
「俺もちょうど狩りを終わろうとしていたところなので、タイミングがよかったのですよ。なので、帰り道を一緒に行く、ってな感じで気楽に捉えてください」
『暁様、嘘はよくありません。目標ではスコーツオンを後――』
「カナリア、今は静かにしていてくれ」
「ほえ? どうかされましたか?」
「いえ、こちらの事情ですのでお気になさらず」
それにしても、この人はかなり俺と歳が近そうだな。
若くあってほしい、という願望があるのは若干あるけど、声やおどおどとした感じに柔らかそうな肌がそう思わせる。
まあもう1つの要因は、歳が近い人と話しができるかもしれないというのもあるんだが。
「さて、そろそろ動けそうですか?」
「あ、はい! おっ、痛みが感じないです! もしかしてもしかして回復する時間もわかっちゃうんですか!?」
痛みの確認をするのにガバッと立ち上がったのだろうが、無茶苦茶だな。
「そんな大それたことはできないですよ。なんというか、ただの勘です。探索者として無茶をしていると回復する機会も多いですから」
俺は右膝に手をついてゆっくりと立ち上がる。
「す、凄いです!」
「なので、こういうのも試行錯誤っていうか試行回数っていうか、そんな感じです」
「なるほど。物凄く説得力のあるご鞭撻、ありがとうございます!」
これはあれだ、たぶんこの人はものすっごく歳が近そうだ。
もしくは若い。
ストンとしている栗色の長髪が何度も跳ね上がるほど、感情を全身で表現している。
可愛らしくてわかりやすいとは思う反面、どこか女子学生ってこんな感じだよなぁ、という考えが勝手に巡ってしまう。
「一応ですが、武器は落としていませんか?」
「はいっ! ここに!」
「では、自分のアシスタントAIには指示をそのままに、辺りを警戒しながらできるだけダンジョンセンターへ戻りましょう」
「わかりました!」
落ち込んでいたと思ったら、急にピッチピチな感じに急変するの、俺からするとあんまり理解できない。
だがそこまで元気が回復したというのなら好都合。
言い方は悪くないが、足を引っ張られないで済みそうだ。
「では行きましょう」
「はいっ!」
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