ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第19話『そうだな、これは俺らしくなかったかも』
第19話『そうだな、これは俺らしくなかったかも』
「先ほどは、本当にありがとうございました」
俺達はダンジョンセンター内にあるカフェテリアにて、ホットミルク片手に向かい合っている。
丸めのテーブルに丸めの椅子、というかわいらしい見た目は俺もお気に入りだ。
「いえいえ、そこまでかしこまらないでください。俺は16歳の若造なんで」
「え、そうだったんですか? 私はてっきり、強いだけでなくあんなに怖い状況でも冷静でいらっしゃったので年上かと思っていました」
「あはは……俺って、そんなに老け顔だったんですね……」
場の雰囲気が和むなら、と、あえてわざとらしくため息を漏らすと同時に肩を落とし、気が沈んだ風にしてみせた。
ここで返ってくるリアクションは気楽な笑い声、だったのだが……。
「ご、ごめんなさい! 私、そういうつもりで言ったわけではないんです! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「え」
チラッと目線を上げてみると、何度も何度も頭を下げられていてなんだか心が痛い。
だから、俺はすぐに顔も上げて弁明を図る。
「こちらこそごめんなさい。気にしていませんので」
「あ、へ? よかったです」
胸に手を当てて一息。
そんなわかりやすい感情表現あります?
「実は私も16歳なんです。高校1年生です。学校は――」
「ストップ。そこまで言う必要はない。っと、同い年とわかったのならもう敬語は使わないけどいいよね?」
「は――う、うん。じゃあ私も同じく」
「個人情報は、本当に心を許せる相手にだけ伝えるよう心掛けた方がいいよ。世の中は悪い人ばかりではないと同時に良い人ばかりでもない。探索者がストーカーになったらかなり厄介だから。特に若いと」
「たしかに、そうだよね。うん、わかった。今後は気を付けるよ。いろいろとありがとう。キミって、本当にいい人なんだね」
「い、いや別に」
そんな、真っ直ぐな笑顔を俺に向けないでくれ。
こうやって対面して話をするなんて、滅多な機会がないもんだからどういう表情をすればいいのかわからない。
だから俺は、向けられるキラキラした目線から逃れるように顔を斜め上に向ける。
「あ、そういえば時間って大丈夫?」
「もうこんな時間なんだね」
時刻22時30分。
「私は1人暮らしだから、門限とかはないよ。なんならこのまま深夜まででも」
「なるほどね。俺は帰りたいからそこまで付き合えないけど、やるなら頑張って」
「え、急に冷たくないかな? かな?」
「いやだって今日は平日だし、明日は学校だってあるでしょ」
「今日は、帰りたくないの……」
「わざとらしい演技すぎるでしょ。家庭の事情とか考えたいところだけど、さっき1人暮らしって自分で言ってたじゃん」
「ちっ」
「聴こえているぞー」
「あ~、飲み物を受け取りに行かなきゃ~」
話の腰を折った彼女は、席を立って鼻歌交じりのるんるんで飲み物を取りに行った。
『それにしても暁様、随分とらしくない振る舞いに思いますが、なにか彼女へ思うことでもあるのですか?』
「そうだな、これは俺らしくなかったかも。だが特別な感情を抱いたというわけじゃない。なんだろうな、上手く説明できないが贖罪ってところなんじゃないかな」
『以前にそのようなことがあったのですか?』
「まあ、な」
ゲームが始まった当初に出会った、ミヤビさんを思い出す。
元々知り合いではなく、たったあの時だけの関係であったが彼女は初心者だった。
そんな人を、俺は自分の欲のためだけに切り捨てて先に進んだ。
レベルが低い同士だったからとはいえ、真剣に戦闘したり、笑い合ったり、楽しい時間を共有したっていうのに。
「深くは詮索しないでくれ。俺はどうやら人でなしというのを演じていただけだったようだ」
『わかりました。では、私はお先に失礼しようと思います。お疲れ様でした』
「お疲れ様。今日もいろいろとありがとうな」
カナリアがログアウトしたところで、彼女は戻ってきた。
「お待たせ~。ねえねえ、思ったんだけど自己紹介……名前ぐらいなら大丈夫そう?」
「まあそれぐらいならいいんじゃないかな。フルネームじゃなくて名字だけとか名前だけとかなら」
「じゃあ、私は夏空雅輝。よろしくね」
「俺は旭加沢暁。俺のことは暁でいい」
「私のことも雅輝って呼んでくれると嬉しいな」
「まあ、それでいいなら」
握手をしよう、感じに手を差し出される。
こういうのはあまり得意ではない。
手汗をズボンで拭き、ソッと手を出して握手。
力加減がわからないから優しく握り、すぐに戻す。
「だらだらと話をしていても時間がもったいないし、本題に入ろう」
「よろしくお願いします」
「アシスタントAIを有効活用するためには、自分の中でこういう風に戦えたらいいなっていうビジョンを持つのが大事になってくる。例えば、俺がさっき咄嗟に言った感なく共有モード。あれは自分では判断が遅くなってしまうことをアシスタントAIに処理してもらうんだ」
「ほぉ~、だからそれを言った後はなにも迷わずに行動できただけじゃなくって、難しいことを考えなくても体が自然と動いたんだ。あのくぼみだって、自分では絶対に見つけられなかったもん」
「そういう感じだ」
この人を馬鹿にする感じになってしまうが、こういうのって探索者試験を受ける前に勉強したと思うんだが……。
まあ、勉強ができるのと実戦に活かせるかどうかは全くの別問題でもあるから、この人を非難することはできない。
「例えばだけど、さっき戦闘していたザングルスとかは自動迎撃モードとアシスタントAIに指示を出せば、自分の目で針を追えなかったとしても自然と腕や体が動いてくれるようになる」
「ほえ~! なにそれすっごい!」
「こういう感じで、補助してほしいことを指示に出すといいんだ。そして、感覚共有モードというのは自分のほとんどをアシスタントAIに預けている状態だから、便利な反面、注意しなければならないこともある」
「え? 今のを聞いている感じ、私みたいな戦闘慣れしていないよわよわ人間は、アシスタントAIにほとんどを任せた方がよさそうだけど?」
指を頬に当てて首を傾げている。
その質問は至極真っ当な疑問。
しかし、それこそが気を付けなければならない。
「感覚共有モードというのは、戦闘時に最適解を導き出して人間の体をコントロールする。例え、あえてダメージを食らいながらモンスターを倒すことになったとしても」
「あぁ……それは確かに、嫌かも。痛いのは嫌だもん」
「そういうことだ。俺もできることならこのモードだけは使わない。自分には想像もできないような体の動かし方をしたりもするから、戦い方によっては次の日にめちゃくちゃ影響が出る」
「うぅ~それも嫌だね」
自分で体を抱いて震えている。
その気持ち、痛いほどわかるからおちょくれない。
「まあざっとこんな感じで、後はどれだけ応用できるかって感じ」
「ものすっごくためになったよありがとうっ」
「そして最後に、補助具のことはしっかりと活かせてる?」
「えー、補助具ね。うん、ちゃんと活用をしているよ」
「ほーう」
その言葉を信じてほしくば、しっかりと俺に目線を合わせて言ってくれよ。
「補助具を使うと、筋肉を活性化させて自分の体を痛め過ぎずに済む」
「ほぉほぉ」
さっきの演技はどこにいった?
「……だが、補助具には駆動時間というのが存在する。ずっと使えたら誰でも最強になれるからな」
「え、最強でいいじゃなん? みんな補助具を使えば危ない目に遭わなくて済むし」
「それには俺も賛同する。が、政府はそれをよしとしない。なぜなら、そうしてしまえばダンジョンで狩りをするのに飽きがきてしまうからな」
「え? そんなことのために補助具を制限しているの?」
「こればっかりは俺の偏見で喋っているが、まあ大体そんなもんだろうと思う。だから、ダンジョンでモンスターを討伐するとアシスタントAIを通して経験値という情報を収集し、レベルアップするんだと思う」
「ほえ~! レベルってシステムってどうやって計算されているのか考えたことなかった」
「テストで出たよね?」
「あはは……私、テストが終わると内容は忘れちゃうんだよね……」
頭の後ろをポリポリと掻きながら言ってるけど、それっていろいろとマズくないか?
「という感じ、初歩的なレクチャーはここまでかな」
「いろいろと教えてくれてありがとう。こうしていろいろと教えてもらって思うのは、私はダンジョンへ自殺しに行っていたんだなあって反省してる」
「まあ、初心者は知らなくて仕方がないしこれから頑張ればいいと思うよ」
「ありがとう。これからはもっと頭を使って頑張ってみるね」
話も終わったことだし、立ち上がる。
「もしよかったら連絡先――」
「じゃあ俺はそろそろ時間がヤバいし、帰るね」
すまないが、聴こえていないわけではない。
これ以上の関りを続けたくないという、俺の気持ちが先行しているから話を遮った。
「う、うん。今日は、助けてくれて本当にありがとう」
「いいえ、困った時はお互い様ですから、気にしないでください。あ、気にしないでいいよ」
「え、う、うん。じゃあ、またね」
俺は時間を確認し、急いでバス停まで向かった。
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