ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第17話『可能性を見出すため、ダンジョンで稼ぐ』
第17話『可能性を見出すため、ダンジョンで稼ぐ』
「よし、頼む」
『音声認証を確認。自動戦闘モードを起動いたします』
俺は、【スコーツオン】が出現するエリアに突入してすぐカナリアに指示を出す。
肩の力を抜いて、息を深くは吐き、全身脱力。
ガラッとした空洞で出来た部屋のあちらこちらから、数体の【スコーツオン】が集まってくる。
「1……2……3……6、か」
6本の足に2本の少し大きい爪、一番警戒しなければならない針のある尻尾。
地上でいうところの蠍が、大きいパソコンぐらいなサイズになった感じ。
外見だけであれば、勢いよく蹴っただけで倒せそうだが、油断すればかなりの代償を支払うことになってしまう。
「うっし――」
自分の意思と連動しているかのように、体が思い通りに動き始める。
まずは正面で孤立している1体から。
飛び込んでいく――と思わせ、寸前で側面へ跳ぶ。
俺が元居た位置にはスコーツオンの尻尾が突き刺さっている。
側面に回る流れで、光剣で3本の脚を斬り落とし――伸びきっている尻尾も斬り落とす。
後は抵抗できなくなったところで体を両断――消滅。
『両側面より来ます』
「任せた」
『かしこまりました』
両側から心臓と頭を目掛けて針が突き刺さろうとするが――両手を地面に突き、腕立て伏せの姿勢から両手へ力を込め、素早く起き上がる。
そこから右に光剣を薙ぎ払い、1体を両断。
右を軸足に左足を回して半回転――そのまま光剣で真っ二つに斬った。
どちらもたったの一撃で討伐できたわけだが、自分の体ながらに人間離れした動きをしていたと思う。
カウント3。
「俺の体もそろそろ温まってきた。補助具を発動させよう」
『ただちに』
上半身――首・両肩・背中に逆三角・両肘・両手首。
下半身――両腰・両膝・両足首。
それぞれに光の点が浮かび上がって熱を帯びる。
「さあここからが本番だ。2――4――7、タイミングよすぎだろ。それじゃっ」
俺の意思で地面を蹴り、前方へ跳ぶ。
次にカナリア。
着地時に地面を滑りながら光剣を振るい、2体を斬る。
そして、次へ跳ぶ。
この時の俺は、文字通り人間離れした身体能力を発揮して風のように跳び回っている。
1体。
2体。
1体。
3体。
加速しつつ、流れるように無駄のない攻撃を繰り出していき、目標の10体をあっという間に討伐し終えた。
「ふう。今日は調子がいいな」
『暁様の成長による成果です』
ダンジョンではよくある光景。
1体ずつちまちま討伐していると、次々とあちらこちらからモンスターが湧いて出てくるんだが、こうして一気に消し去ると恐ろしいぐらいの静寂が訪れる。
『ただいまの戦闘時間は1分になります。この調子であれば後2クエストは消費出来ますが、いかがなさいますか?』
「一応確認だが、それは休憩を挟んだ時間計算だよな?」
『はい。戦闘時間約1分とし、休憩時間が約5分の計算です』
「じゃあそのプランでいこう」
補助具の稼働限界時間は、今のところ約30秒。
レベルが上がると強靭な体になって稼働時間も増えるらしいが、実感を得られるのはまだまだ先のようだ。
ちなみに強靭な体というのは本当にそのままで、モンスターからの攻撃を軽減する役割もあるらしい。
これもまた、確認するためにはモンスターの攻撃を直接受けなければならないんだが。
回復することができるからといって、痛いのは避けたいから検証はできなさそうだ。
『モンスターの出現時は警告いたしますので、体を解しておきましょう』
「そうだな」
手足をぷらぷらと動かしたり、手首足首をぐりぐりと回す。
『そういえば暁様、ゲームは楽しめておりますか?』
「あ~、言われてみればそういう話はしてなかったな。そうだなぁ、ぶっちゃけた話をするなら楽しめてはいないな」
『ゲーム攻略を第一に考えているからですか?』
「まあそれもあるな。普通だったらまずは街並みを堪能したり、NPCとか会話してみちゃったり、友達同士で話に花を咲かせるはずだ。だが、俺はそれらをすっ飛ばしてレベルアップやどれだけ先に行けるかばかりを考えて行動している」
『でも、それが暁様の目的なら問題ないのでは? 私からすれば、とても効率的で自分の欲に従っていていいと思うのですが』
「まあな、俺も自分の意思でそうしている。そして、ゲーマーとしてはそれも一種の愉しみ方でもあるからな」
両手を天井に突き出して体のぐーっと伸ばす。
「こればっかりはどうしようもできない……という言い訳だが、他の人を観たりするとつい思っちまうんだよな。俺も、だれかと楽しく話したりパーティを組んで一緒に戦ってみたいなって」
『大丈夫です。ゲームの世界ではソロプレイで心が窮屈になってしまっても、現実世界には私が居ますから』
「大きく出たな」
『もちろんです。私は暁様の最高のアシスタントAIですから』
もしもカナリアに体があったのなら、自信満々に片手でポンッと胸を叩いているだろうな。
「そろそろ、か」
『さすが暁様。予定していた時間です。そして、そろそろの頃合いだと思いましたが』
「ふっ。たしかに、俺とカナリアは相当に相性がいいんだろうな。わかっているじゃないか。その通りだ」
『では、音声認識モードから感覚共有モードへと移行します――』
すると、目の前に広がるモニターが背後まで展開。
今の俺には見えていないが、モニターは背面で繋がって360°の球体になっている。
ちなみに頭の先から足の指先まですっぽりと入っているようになっていて、バンザイしたり足をピンッと伸ばすとそれに応じて伸縮する。
そして、感覚共有モードはここからが凄い。
展開されたモニターは自動で敵を感知し、そのまま俺の脳内に流れ込んでくる。
それだけではない。
さっき使用していた補助具に関しても、全体を一気に起動させていたのが、動きに合わせて一部分だけ起動することが可能になる。
これが、探索者にのみ解放されているアシスタントAIの本領発揮というわけだ。
「1、2、3――6。まあまあだな。すぅーっ、んっ!」
腰を低くして、足を前後に開いて――跳び出す。
スコーツオンはまだこちらを認識していないだろうが、そんなことは構う必要がない。
俺は普通の人間では到達することができないスピードで接近し、着地で足を滑らせながら2体を斬り捨てる。
自分達はどのように死んだのかわからずに消えていった。
「次」
着地の際にしたスライディングのせいで、さすがに他のやつらは俺の存在に気付いたようだ。
残りの4体は別々の方向からこちらへジワジワと近づいてきている。
当然、それらは既に俺の脳内へ情報として流れ込んで来ているから把握済み……なのだが、あいつらちょっと可愛いな。
俺を舐めているのか、それとも慎重な性格なのか、姿勢を低くしてゆっくりとゆっくと近づいてきている。
「残念だったな」
相手が、一般人であればこのまま逃げ道を塞がれてタコ殴りできただろうが――。
後方に跳ぶ。
背後にいたスコーツオンの上空を通り越して。
俺が通路口まで跳んだものだから、あいつらは俺が移動したことに気づいていない。
滑稽な光景というか……頑張って取り囲もうと前進しているのを後ろから見ている。
このまま事の経緯を静観しているのも、休憩時間に充てられるからと楽観的に考えるのもいいが……そこまで時間の余裕があるわけでもないし。
「行くか」
ちょうどこのまま斬り込めば、ほぼ一列になっている左側のやつらを一網打尽できるな。
この、少し薄暗いダンジョン内でも俺ら探索者には、アシスタントAIの補助によって見えている。
そして、今は予想進路線まで赤い線になって視界に表示。
これに沿って進むだけ。
「ふんっ」
地面を蹴って飛躍する速度は、音速の如く。
一薙ぎで2体。
反対側の壁まで勢いそのままに突っ切り、両足で壁を蹴って反転。
右から左に1体、左から右に斬って1体を消滅させた。
スライディングをしてやっと止まる。
「きたか」
ちょうどよく4体のスコーツオンも湧き出てきた。
だが、次の休憩に備えて時間を掛けたくない。
再び跳び出し、1体、1体、1体、1体と次々に斬り裂いて縦横無尽に立ち回ってものの数秒程度で葬り去った。
額の汗を拭う。
「さすがだな」
カナリアからの返答はない。
だが、すでに5分のタイマーが作動していた。
後1セットで終わりか。
この調子で戦えば、予定の時刻より早く帰ることができそうだ。
ちょっと座って休憩でも――。
「きゃああああああああああっ!」
腰を下ろそうとした時だった。
唐突にそんな悲鳴がダンジョンに響き渡ってくるものだから、俺は動きを止める。
「な、なんだなんだ」
俺はそんなものを初めて耳にした。
探索者は俺だけではない。
だから、ダンジョン内に他の探索者が居るのは珍しいことではなく、時々入り口前通路で何人も目にしたことがある。
しかし、こうして遠くからでも声聞いたことがないから、正直びっくりした。
「穏やかではないな。――感覚共有モード停止」
『一旦、お疲れ様です。ただいまの声は悲鳴というものに属されるものかと思います』
「だろうな。なあカナリア、俺はどうすればいいと思う? やっぱり、助けに行くべきか?」
『暁様の目的達成を優先するのであれば、知らぬ存ぜぬを貫き通してこのまま狩りをするべきだと思います。ですが、そこは暁様のお気持ち次第かと』
「――カナリア、アシストよろしく」
『かしこまりました。さすが暁様。私はその行動を誇りに思います』
「そういうのはやめてくれ。で、声の方向へ導いていくれ」
『お任せください』
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