ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第16話『こういう時は、やっぱクエストマシマシ』
第16話『こういう時は、やっぱクエストマシマシ』
ダンジョンセンターにたどり着いた俺は、通路前のベンチに腰を下ろす。
時刻は21時。
今日は平日だから、そこまで遅くはダンジョンに潜れない。
できたとしても1時間半ぐらいか。
「よし、行くか」
ダンジョンへ繋がる通路を進み、いつも通りに門番の人とすれ違いざまに会話をし終え、ダンジョン内部へと入る。
「カナリア、急用だ」
『お疲れ様です。こんな時間にダンジョンだなんて、随分と珍しいですね』
「ああ、ビックニュースが舞い込んできてな」
『よろしければ、教えていただいてもよろしいでしょうか』
日頃の俺からはあまり想像できないほど嬉々としているから、カナリアも気になってしまうか。
「最近始めたゲームの話は憶えているか?」
『はい。ファゼロスオンラインという感じの名前だったかと記憶しています』
「そうだ。んで、そこのゲームには現実世界のレベルを加算できるという画期的なシステムがあるんだ」
『たしかにそれは素晴らしいですね。スタートダッシュをするにはうってつけというわけですね』
「そういうことだ。んで、それが1回だけだと思っていたんだが、2回目もできたんだ。不具合だと思ってロールバック覚悟でいたんだが……なんと、ついさっき運営から告知があってな」
『緊急メンテナンスに移行するから、時間ができてしまったからダンジョンに来た、というわけですね』
本当に、その理解力と思考力が恐ろしいよ。
「だが残念ながらそうではないんだ。今もゲームは通常運行している」
『それではなぜ、こんな時間にダンジョンへ? まさか、私と2人きりで話をしたいから、なんてことはありませんよね』
「そうではないんだが、しかし、ゲームをしている時はカナリアと喋ることができなくて寂しかったのは本当だ」
『えっ』
「おい、なにいっちょ前に頬を赤らめています、みたいな反応をしているんだよ」
『いやだって嬉しいじゃないですか。私と暁様は主従関係。主様にそのような嬉しいお言葉を言っていただけたら……嬉しいから嬉しくなってしまうんです。嬉しいですから』
おいおい、俺の頭脳にして俺よりも頭のいいカナリアが、今だけは俺よりも馬鹿になっちまったぞ。
「とりあえず、本題に移ろう。――そのさっきあった告知で、運営直々にレベル同期が不具合ではないと宣言されたんだ。当然、直接的ではないがな」
『なんと、それは素晴らしいことではないですか。でも、それって安全面を考慮した場合、非常に危険ではないのですか?』
「まあカナリアもそういう結論に至るよな。このシステムを利用できるのは、現実世界で探索者として活動している人だけ。そんでもって、レベルを上げるためにはダンジョンに潜ってレベルを上げなければならない。血眼になって戦い続ければ、いずれは自分の命を落としかねない」
『ですが、暁様はどうしても"最強ゲーマー"という称号を我がものにしたい、と』
「話が早くて助かる。最強にはなりたいが、死にたくはない。だから、カナリアの力を借りたい」
『もちろんですとも。暁様の願いを叶えるのも私の役目ですから』
そうだ、俺が目標にしているのはそう簡単に手に入れられるものではない。
しかも、一度最強になれたとしても、永久的に背中を追われ続ける。
こんなダンジョンで死んでなんかいられないんだ。
「そこでなんだが――」
『クエストの大量受注を完了いたしました。当然、全て効率的かつ金策もできるようになっております』
「さすがだな。ありがとう」
『行きと帰り用にスネーカー討伐クエストを2種。残りも道中で討伐できるモンスターになっております』
「わかった。じゃあ行くか」
光剣を抜刀し、俺は駆け出す。
『左です』
1体目、向かって右のスネーカーを両断し、カナリアの索敵により、体を捻って左から飛びかかってきたスネーカーを斬る。
カウンターを確認すると、残り9。
『暁様、このまま足を止めずにお進みください』
「おうよっ」
スネーカーが出現する場所を抜けるまでに討伐しきれるというわけか。
さすがはアシスタントAIだ。
俺じゃあ少し躊躇ってしまうことを、今までの出来事を計算に加えている。
やはり、ゲームの世界ではなく現実世界を選択して正解だったというわけだ。
――これで10、クエストクリア。
「そして、エリア通過ってか」
『お疲れ様です。そのまま直進すると、次は【バハット】エリアになります』
「はいよっ」
足を止めずにそのまま行くと、3体の【バハット】が羽ばたいて宙に居る。
あいつらは簡単にいえば、少し大きい蝙蝠。
さきほどのスネーカーより小柄だが、早さが桁違いだ。
しかし攻撃手段はタックルと噛みつきだけだから、それほど脅威というわけではない。
1体。
2体。
3体。
耐久値も低く、中央に剣撃を加えれば一撃で討伐できる。
これを、先ほどと同じく10体。
「はぁっ! はっ!」
相手のスピードには、カナリアによる索敵を活かし、回避と武器を右に左に持ち替えて臨機応変に対応する。
『キュ』
『キィ』
甲高い声をあげながらバハットは消滅していく。
『そのまま進んでください。そして、エリアが切り替わる合間で休憩をしましょう』
「わかった」
そろそろ自力では疲労を感じ始めてきたからちょうどいい。
駆ける勢いをそのまま、目的のところまで辿り着いた。
「はぁ……はぁ……」
『お疲れ様です暁様』
俺は壁に寄りかかり、そのままズズズッと服を擦らせながら腰を下ろす。
「さすがに夜は一日分の疲れが溜まってるような感じがする」
『時間も時間ですし、それは仕方がないと思います』
「そうだな。もう21時30分か。これからの予定は?」
『ここより先のエリアに出現する【スコーツオン】を20対討伐し、再度休憩を挟んだ後に来るときに討伐したモンスターを同じ分倒す感じになっています』
「おおう。かなり精密に計算されている計画だな。ってことは、終了予定時刻はどうなっているんだ?」
『全てはスムーズに終われば、終了時刻は22時30分の予定です』
「ははっ、完璧だな。15分でシャワー等を終わらせて、そこから帰って家に着くころには23時ぐらいってか。後は寝支度して寝るだけ、というわけだな」
『はいその通りです。無理をしようと思えばもう少しできますが、それでは明日に響いてしまいます。最強は一日にしてあらず、です』
「くわぁ~、まさにその通りすぎる。これがぐうの音も出ないってやつか」
全てにおいて効率的すぎる。
今だけではなく、これから先のことも見据えて。
『ではそろそろメインのお時間です』
「ああそうだな。ああそうだ――」
『もちろん把握しております。自動戦闘モードの準備は整っております』
「理解力が凄くて笑えてくるな。話が早くて助かる。んじゃあ、行くか――」
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