第三章

第15話『運営のこんな告知って、随分と珍しいな』

 よしよしよし、今晩もゲームゲーム。


 俺はログインして早々に街から飛び出して狩場へと向かう。


 昨日はあの後、通話――もとい、互いのアバター同士で会うことになった。

 俺がメッセージを送ったタイミングがあまりにもよかったようで、そこからゲーム端末の設定などを手伝うことに。


 しかし、ゲーム初心者にありがちな、現実の自分と瓜二つのキャラクターを生成したがるのは、一体なんなんだろうか。

 後はゲームを始めるだけになったわけだが、そこからなぜか雑談タイムへと突入して30分ぐらい過ぎてしまった。

 副委員長としてよろしくね、とか、もしかしたらいろいろとお手伝いをお願いすることになる、とかとか。


「今日はここら辺で試してみよう」


 今日の狩場といて目論み立てていたのが、ここに出現する【スターフォックス】が狙いだ。

 面白いことに、スタート地点に出現したフォックス種と同じなんだが、名前から印象しやすいほど真っ黄色の毛並みに、圧倒的スピードを有している。


 だからこそ、戦闘の練習するにはもってこいということだ。


「さてさて」


 剣を抜刀。


 途轍もなくありがたいことに、スロットのプリセットを登録できることがわかった。

 全プリセットを記憶して即時に交換すれば最強なのではないか、と思ったが、さすがにプリセットの切り替えをしたら数秒間の不使用時間が設けられていて、それはできないようだ。


 ――ピピピッ。


「ん?」


 聞き馴染みのない音に、足を止める。


 しかし大体の予想はつく。

 こういう音がある時っていうのは、今までの経験上システム的なものだ。


 空いている左手でウィンドウを展開すると、運営システム欄に赤い1の数字が表示されている。


「珍しいな。――あ~、ついに不具合の報告か」


 さすがに運営も気づいたってことだな。

 少しだけドキッとする。

 悪事を働いたわけじゃないんだから、お咎めだけは無しでお願いしたい。


 システム欄を展開。


 いつもの挨拶文面が続き、重要な場所は……。


『――最強の冒険者を目指している方々へ向けてお送りいたします』

「ん?」

『当オンラインゲームにおいて設けられている特許は、永続的に切れることはありません。ですので、その資格を持ち合わせている方は、奮って戦いに挑んでください』

「んんん?」

『それではプレイヤーの皆さん、良き冒険者ライフをお送りください』


 最強の冒険者を目指す人へ?

 このゲームの特許が永続的? 

 その資格を持っている人?


 公式の挨拶にしては随分と言葉遊びというか謎が仕込まれているんだな。

 面白い。

 せっかくだし、戦闘する前に頭の体操をするか。


「最強の冒険者を目指す人」


 これに関しては難しいことはない。


 俺のような、ガガッドさんのような人を指しているんだろう。


「このゲームの特許が永続的」


 ん~……。

 このゲームの特許といえば、1つだけある。

 それは、現実世界のレベルとの同期。

 失礼なことだとはわかっているが、これぐらいしか思い浮かばない。


 だけど、これに関してはゲーム開始前のマニュアルに記載されていた通りで、最初に終わらせてしまっている。

 その特許が永続的にってどういうことだ?

 だってこんな便利な機能は一度切りな……は……ず……。


「嘘だろ」


 記憶を辿った先に導き出された答えに、目を見開く。


「このシステムが一度しか使用できないなんて、どこにも書いてなかった。マジかよ」


 つまり、現実世界のレベルが同期するのは一度きりではない、ということだ。


 この考えには納得できる。

 なぜなら、つい昨日にこのシステムを使った結果、上がったのはレベル2。

 これは、ゲーム世界ではレベルアップしていないが、現実世界のダンジョンでレベルアップした2がゲーム世界のレベル25に足された。

 だから、今の俺のレベルが27。


 自分で体験していることなのだから疑いようがない。


「ま、マジかよ……」


 なら。


「資格を有している者」


 これが意味するのは、現実世界で探索者として活動をしている人ということになる。


 なるほどな……。


 そして、これら推測が再考する必要ないのが、今の運営からの告知が証明している。

 あの文面は、不具合を示唆するものではなく、完全にプレイヤーを煽っていた。

 メンテナンスの告知ではなく。


「これはヤバいだろ……面白くなってきたな」


 俺は振り返り、モンスターとの戦闘を後回しに安全地帯である壁の方へ向かう。


 今の告知を目にしたプレイヤーは多いはず。

 しかし意味合いを理解できるのはそこまで多くないはず。


 だったら急いでレベルアップをしながら、マップを進む必要がある。

 でもここで焦って考え無しに進んでしまえば、どこかで行き詰ってしまい、足を止めるどころか誰かに追い抜かれてしまうかもしれない。


 だからこそ、今は考えるんだ。


 こういうMMORPGやらハクスラ系のゲームは、ボスモンスターを討伐したりダンジョンを攻略することによってレアドロップを入手可能。

 ドロップした装備というのは、当面の間はかなりの力を発揮する。

 だからそれを狙って攻略をするのはとても効率的だ。

 そうではあるんだけど悲しいことがあって、この手のゲームはドロップ率というものがある。

 この必ずドロップしない装備を狙い続けるというのは、経験値も入るからお得感があれど、出るまで戦い続けたら気づいたら抜かされているなんてことになってしまう。


「んー……なら、何が一番効率的か。疲れることがないゲームの世界でレベルアップした方が最適解――」


 ん、待てよ。


 疲れることがないからという点に絞ればそうなんだが、視点を変えれば話は変わってくる。

 だって、現実世界にはアシスタントAIのカナリアが居るんだ。

 ゲームの世界で自分だけで考えるより、よっぽど効率的なんじゃないか。


 しかも、探索者用の補助具もある。


「ははっ、面白いな。ゲームで最強を目指したくば、現実世界のダンジョンでレベルアップ、か」


 他の人もこの答えに辿り着くだろう。

 だが、これには罠もある。


 現実世界のダンジョンでレベルアップを必死に行えば、気持ちが逸れば"死"へのリスクが限りなく上がり続ける。

 ゲーム世界とは違って、現実世界の体は疲れるし痛みも感じるんだ。

 一種のデスゲームでしかないが……。


 最強という名を我が物にするには、うってつけというわけだな。


「イカれてやがるぜ」


 よくもまあ、こんなものが特許を獲得できたもんだ。

 だからこそのさっきの文面ということか。

 直接言わず、意味を解かせ、実行させる。


 死を助長させるわけでもなく、あくまでも選択肢の一つとして与えるだけ。


「じゃあ、現実世界8・ゲーム世界2……ぐらいが効率的なのか? いや、ここで答えを出す必要はないか。だって、あっちに戻ってカナリアに相談すればいいんだから」


 俺はこの安全地帯を利用し、ログアウトを選択した。

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