第14話『現実が辛くてもゲームの世界は最高』

 どうしてこうなってしまったんだ。

 光の破片と化すモンスターを見ながらそう思う。


 鈴城はあのギリギリでとんでもない爆弾を投げてきた。

 授業が始まってからは、恐ろしいほどに委員が決められていった……そう、俺の副クラス委員長という役割も。


「はぁ……」


 学校が終わり、こうしてゲームの世界という楽宴に来ながらも、既に20回はため息を吐いている。


 仕事の内容的にはそこまで難しそうではなく、基本的には学級委員長となった鈴城の補助をするだけらしい。

 アシスタントAIが居る時代に、人をアシストするとはなんとも不思議な気分だ。


 やめだやめだ。

 せっかくのゲームの世界に来てまで現実のことは考えたくない。


「それにしても、レベルがこのままっていうのはどういうことなんだ?」


 モンスターが出現していないことを確認し、ステータスを眺める。


 昨晩、ロールバックを覚悟していたんだが、まさかのレベルが27のまま。

 さすがに昨日の今日じゃ対応できないということなのだろうか。

 それか、気づいたプレイヤー同士の暗黙の了解というやつで、誰も運営に報告していないとかだったり?


 んー……じゃあ俺が報告すればいいじゃないかってわけだけど、文章を打つのは得意じゃないし、失礼があったら嫌だ。

 なら、気づいてくれた誰か大人の人が対応してくれるのを待つとしよう。


「うーん……でもなぁ……このままだと、今日稼いだ経験値やお金までロールバックされるって考えると、うーん……でもなぁ……」


 もしもガガッドさんなら、すぐに対応してくれそうなんだけど。

 なんて、柄にもなくそう思ってしまう。


 ということは、このまま突き進んだとしても戻されるということか……。

 悩ましいな。


「あ、じゃあスキルの練習でもするか」


 ゲームの醍醐味といえば、やはりスキル。


 現実世界で探索者をやっていると、つい癖が出てしまってスキルを使わずに戦闘してしまう。

 実際に前回のボス戦の時、俺はスキルを使わなかったし、ガガッドさんも使っていなかった。


「ちょっと移動するか」


 モンスターが出現しないであろう場所まで移動する。


「では早速」


 スキル一覧を展開。

 移動系【ダッシュ】【バックステップ】【チャージジャンプ】。

 攻撃系【チャージカット】【リカバリーカット】【パリィ】【カウンター】【アクセルカット】。

 強化系【アクセル】【ディフェンドアップ】【アタックスアップ】。

 補助系【プロボーク】【ガード】。


 なるほどな。

 多い。


「使ってみるか」


 スキル一覧から【バックステップ】を選択。


「おっ」


 名前の通り、後方に跳ぶ。


 だが。


「あいたーっ」


 勢いそのままに体を預けていたら、着地は足ではなくお尻。


 実際に痛みは感じないが、視線が一気に動いたことから反射的に言ってしまった。


「なるほどなぁ。スキル+プレイヤースキルが必要ってことか。それと――」


 右上に【バックステップ】のアイコンが表示され、その上に7sと出ている。

 つまり、スキルを連続しようすることはできないということだな。


「よし次」




「なるほどな」


 あれから約1時間ぐらい、空中を相手にスキルの試行錯誤をした。


 わかったことといえば、プレイヤースキルを基準にスキルを組み合わせる戦い方が一番セオリーとなる。

 これに関しては、探索者として活動しようと思った過去の自分に感謝だ。


 そして、次が重要。


 最初の方はスキル一覧からスキルを選択して発動させていたが、動き回っているうちに気づき、スロットというのを発見した。

 そのスロットは一列8個の空欄があり、そこにスキルを設定すると、いちいちスキル一覧を開かずにスキルを発動できるようになる。

 ちなみにここに消耗品や装備も入れることができ、全ての時短を計ることがわかった。

 今のところは5列まで出すことができる。


「なんて素晴らしいシステムなんだ。後は、スキルをどのタイミングで獲得できるかがわかればいいんだが……それはさすがにないか」


 こんな序盤でスキルが多いと思ったが、これから先もレベルアップにつれて増えていくはずだ。

 使いやすいものから使いにくいものまであるわけだが、今後はスキルのコンボというのも出てくるだろう。

 だからその予備練習ができれば、と思ったんだが……まあでもこれはこれでリアリティがあっていい。


「現実が辛くてもゲームの世界は最高」


 なんてことを口に出してしまうほどに、俺は今、物凄く心が躍っている。


 スキルの使い方だけじゃない。

 スロットに入れるスキルの順番を入れ替えることによって、発動速度だって変わってくる。


 やばいだろ、やばすぎるだろ。


「今日の予定、決まったな」


 経験値とかお金とか、そこら辺はもう諦めた。

 今日はとことんスキルを研究し尽くしてやる。


 ……あ。


「危ない。完全に忘れていた。怒られる前に……」


 鈴城がゲームを始めるという話と、今晩は連絡をすると約束した。


 ゲーム内だと、連絡を確認できるが送信はできないんだよな。

 不正を防止するためには必要な処置だとはわかるが、ちょっとめんどくさい。


「仕方ないな」


 システムを操作し、ログアウトを選択。


 モンスターが出現しない安全地帯ではないため、ログアウトまで30秒攻撃を食らわない状況で待機しなければならない。


「……なんて連絡しようかな」


 自分から誰かに連絡をする頻度は限りなく低いから、なんて送ればいいのかわからない。


 ……まあ、いつもの感じでいいか。

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