ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第13話『委員会に所属しないなら副委員長?』
第13話『委員会に所属しないなら副委員長?』
「鈴城、今いいか?」
「暁くんどうかしたの?」
ああよかった。
怒ってないようだな。
あ。
「それで、昨晩はお楽しみだったのかな?」
振り向いた顔は、にこやかに笑っていた。
しかし、そこには楽しいや嬉しいという感情はなく、怒りを押し込めた鬼の仮面を被っている。
「ごめん。ダンジョン攻略中だったから、連絡があったことに気づかなかったんだ」
「ふぅーん。ずっとゲームをやっていて、私の連絡を無視していたわけじゃないんだ」
これってもしかして、なにか動かぬ証拠を示さない限りは信用されないやつじゃないのか?
日頃の行いがどうのこうのってやつ……?
「あ、じゃあこれを見てくれ」
俺は指を空中で動かす。
ウィンドウを表示させ、探索者証明カードをスクリーンショットした後、指を放るようにして鈴城へ送る。
「ふむむ……なるほど。本当だったんだね」
探索者証明カード。
これにはセンターから通路を通り、門番の先にあるゲートを跨ぐと自動的に時間が更新される。
こういう基礎的なことは授業でやるため、鈴城に細々とした説明をせずに済む。
実際、言葉を足すことなく伝わってくれたしな。
「ああ、俺は何においてもゲームが最優先事項ではあるが、意味のない嘘は吐かない」
「ゲーム関連だったら、逃れるために嘘を吐くってこと?」
「そ、それは……」
疑惑が晴れたというのに、怒りの方はどうやら静まっていないようだ。
さすがは優等生というか頭の回転が速いというか……表面的なことだけではなく、様々な情報を整理したうえで答えを出すあたり、頭がいいというのはこういうことを言うのだろうな。
俺には到底できない芸当だ。
「とりあえずそれはそこらへんに置いておいて、話したいことってのはなんだったんだ? 早くしないと休み時間が終わっちまう」
「あ、そうだったね。要件は2つあって、1つ目は暁くんがやってることについて訊きたくて、もう1つが次の授業についてなんだけど」
「ほう?」
俺がやっていることってなんだろうな。
俺が編み出した、授業を受けているようにみせかけて居眠りする技術か?
「暁くんってゲームをやったり探索者をやっていたりするじゃない?」
「ああそうだな」
「探索者って、どんな感じのことをするの? やっぱり怖かったりする?」
「うーん……まあ最初の方は怖いんじゃないんか。地上で生活していたら絶対に遭遇することのないモンスターと対峙するわけだからな」
「やっぱりそうだよね」
脅して怖がらせるみたいで気乗りしないが、探索者というならばやはりこれだけは言っておかないとな。
「もしもだが、探索者になってみたいという話なら、正直お薦めはできない。モンスターからの攻撃は直に自分の体を傷つける。それに、油断をすれば死ぬ」
「……」
「だが、探索者になればアシスタントAIの制限解除できるし、ほとんど全て自分のやりたいようにできる。休憩とか、金策とか。探索者特権として、センターだって無料で使い放題だ。それに、ある程度の毎月課せられるノルマを達成すれば数万円の固定給がもらえる」
「福利厚生はしっかりしているんだね」
「まあそうだな。もしもダンジョンで死にかけても、運よく誰かに見つけてもらえたりすればセンターで即時治療を受けられるだけじゃなく1円も負担しなくていい」
福利厚生がしっかりしている、か。
そういう風に捉えたことは一度もなかったが、確かに言われてみればそうだ。
「込み入った話をしたが、頭の回転が速い鈴城だったらもしかしたら探索者としての適性はあるかもしれないな」
「そ、そうかな?」
「やってみないとわからないが、まあたぶん。んで、ゲームの方も訊きたいのか?」
「そうそう。実は私、ゲームは一度もやったことがないんだ。それでやってみたいなって思てね。1人で始めるより知っている人とやれたらいいなって思っていたから、もしも暁くんがよかったら、一緒にやってもらえないかなって。ダメ、かな?」
そんな、口元を隠して上目遣いでお願いしてこないでくれ。
断られるかもしれない可能性に気づきつつもお願いするってのは、かなり勇気がいることだってことぐらいわかる。
だが、個人的な感情を率直に言うのなら……。
「ごめん、無理だ」
「え……そ、そうだよね。私みたいな初心者と一緒に遊ぶなんて面倒だし嫌だよね。暁くんにも予定があるし、やりたいことだったあるだろうから、全然気にしないで。足を引っ張るぐらいなら、私も1人でいろいろと試行錯誤した方が自分のためになるからね。――大丈夫大丈夫。私、勉強したりするのは得意だから、すぐにいろいろと学んで活かして少しでも暁くんに近づけるよう頑張るから。そして、私も上手になった頃にもしも暁くんがよかったら一緒にゲームをして欲しいなって――」
「おいどうした鈴城、落ちつけ」
「いいのいいの私のことは気にしないで。暁くんに迷惑を掛けるぐらいだったら、1人でやった方が絶対にいいもん。難しくたって頑張るから。だから、暁くんが暇で暇で仕方がなくなったら一緒に遊んでね。あっそうだ、ゲームにはフレンド機能っていうのがあるんだよね? 暁くんさえよければ、それだけでもやってもらえたら嬉しいなって……」
「おいおい、とりあえず深呼吸深呼吸」
かなりハイペースで喋りまくった結果、「ぜぇぜぇ」と苦しそうに呼吸を乱す鈴城。
何がどうして普段の落ち着いた雰囲気から一転してしまったか。
俺が断ったのが起因しているだろうから、意図を伝えないとな。
「言葉を端折ってすまない。なんていうか、ゲームを一緒にやる分には別に問題があるわけではないが、レベル差っていうのがあって、それをどうにかしないといけないんだ。――そうだな、2人で同じモンスターを倒したとしても、鈴城には経験値が20入るとしても俺は1。てな具合だな」
「え、私とゲームを一緒にやるのが嫌だったんじゃないの……?」
「てかそれだと、俺が鈴城を毛嫌いしているみたいになるだろ。俺は鈴城とこうして話している今だって楽しい時間だぞ」
「ひぇ!? そ、それってそういう!?」
「いやどういうことだよ。まあつまり、俺が探索者としての仕事をしている間にレベル上げに勤しんでくれると助かるってことだ。そうすればレベル差がなくなってどんどん前に進める」
「な、なるほど」
なんでそんなに動揺しているのかわからないが、理解してくれたようでよかった。
「てか、まずはゲームを買うところからだろ。そんなに焦んなくてもいいんじゃないか?」
「あ。最初にそれを言えばよかったね。実は昨日、買っちゃったんだよね」
「どえ!? ず、随分と思い切りのいい買い物の仕方をするんだな。安くはないだろうに」
だってさ――俺は端末とソフトを購入するのに、かなり睡眠時間を削ってダンジョンに潜って金策をしたんだよ?
それができたのは発売数カ月前に情報を入手したから貯金できたわけで。
「お願いしてみたら、お父さんが買ってくれたの」
「お、おう」
たしか、両方合わせて20万はするはずなんだが。
それをポンッと出してもらえるってことは、鈴城の家は金持ちか、貯金とかボーナスとかがあったから、か。
いやどれだとしても、この感じからするに即答であったのだろう。
やば。
「じゃあもう今日からできるってわけだから、頑張って」
「うんっ! 全力で頑張っちゃう! 今からやる気がすっごく湧き出てきてるよ!」
「お、おう。まあ俺が言うのは間違っているのだろうが、ゲームはほどほどにな。今までせっかく勉強を頑張って来たんだから」
「大丈夫だよ。私、頑張るからっ」
なんでそんなにやる気もりもりなのかは知らないが、今日の夜ぐらいにちょこっと連絡でも入れてみるか。
「そういえば、もう1つの話しって?」
「あっいけない。話に夢中になってて――」
ここで、チャイムが鳴ってしまった。
「次の授業はクラス委員の話し合いをするじゃない? そこで、私はクラス委員長に立候補するんだけど」
「おお、それは凄いな。鈴城にピッタリな役職だと思うぞ。うんうん、適任だな」
「ええ~。本当に? 私が委員長が似合うって、そんなぁ~照れるなぁ」
「じゃあそろそろ席に戻るから」
座りながら、両手で頬を包み込んでクネクネと体を揺らしている鈴城を置いていこうとしたら。
「あ、そうそう。そのことは先生に言ってあるんだけど、ついでに暁くんを副クラス委員長に推薦しておいたから」
「はい……?」
え、嘘――マジ?
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