09第九幕『忘れられた巡礼路を照らす星』
「
「うむ。それはそれで今後の修行次第ってとこなんじゃが、例のほら、あれだ、丸っこい跡を残す術。あれは非常に特殊で、操る者は滅多におらん。いや待て、早まるでない。ここで放ったらいかん」
老師は耳も遠く前歯も欠けて
「前に見たのは、そうじゃな、余が絶世の美少年と謳われて、大きな戦もなかった平和な時代。この街に突如現れた背の低い、やはり黒魔道士を名乗る者が、もっとも彼は男じゃったが、芸を見せるように披露して、街の人を沸かせた。手品のようでもあったが、威力は確かで、掌から冥界の如き闇を生み出すんじゃ」
一部不必要な情報もあったが、冥界のような闇を生み出すという表現は巧みで、サフィは気に入った。是非とも今後、拝借して使ってみたい。お礼代わりにと掌の上に、小さな
「おっと、娘さん、それは危ない代物だ。早う仕舞いさなれ。そいつは物を壊すのじゃなく、何でも呑み込む危ういものかも知れん」
言われた通り、サフィは直ぐに消滅させた。艶の全くない
老師はそれ以上、黝き球体にはついては言及せず、燃え盛るような虹の石を台座に置いた。秘宝に相応しい鎮座の仕方だ。石を据えた瞬間に一条の光が伸びて謎の古代文字が浮かび上がる…といった神秘的な現象は起こらず、赤から橙色、そして黄色へと七色に変化しただけだった。
サフィは落胆したが、七変化でも周りの者を驚かせるには充分だ。老師が語った通り、鮮烈な赤色は初のお目見えで、白装束集団の誰もが今まで観測したことがなかった。虹の石は七つ目の
そうは言っても派手に輝くのみで、眺めて面白い程度だ。周囲の歓喜の声を
大きな石板だ。山や河を示すピクトグラムに、意味ありげな星印。間違いなく何かを示す地図で、サフィには見覚えがあった。
「ご興味がありますか? それは三百年くらい前に発掘された石板で、とても貴重な遺物だと伝えらていますが、わたくしどもは詳しく知りません。古い大きな
案内役の白装束が説明する。サフィは石板右端の山河に見覚えがあった。ローブの裾から巻き物を引っ張り出し、目の前のピクトグラムと照合する。サフィが隠し持っていた巻き物には地図が描かれ、たくさんの暗号に似た書き込みがあった。
「似ているようでもあるし、うん、全然関係ないように見えるところもあるよね…」
気になるのは星印だ。それは山の中腹にあったり、河の源流附近にあったりと統一感がない。取り敢えず、石板を参考にして巻き物に印を刻む。周りの白装束は、老師も含めて不思議そうな顔で、黒魔道士が広げた巻き物を覗き込んだ。
そこには山や河に加え、大小の湖や集落を示す書き込みがある。特徴的なのは、太い一本の線だ。複雑に蛇行し、途中で直角に折れ、一部破線になっている箇所もあった。
「それはいったい何の地図なんじゃ?」
「巡礼路って言うんだよ。昔、巡礼者が歩いた道なんだって。失われた巡礼路。とても大切で、昔は大勢が競って歩いた道だとか。今は、もう誰も覚えていないらしいけれど、この都市だって、順路の途中にあるんだよ」
聖職者は顔を見合わせ、巡礼について知っている者がいないかと互いに尋ね合ったが、関連する記録も伝承もなかった。失われた巡礼路とは、いったい何なのか。
「すると娘さんは、その巡礼の道を独りで旅してるってことなのかい?」
「うん、そんなところかな。私は旅人でもあるけれど、もうちょっとスタイリッシュに言うと、そう、巡礼者。失われた巡礼路を取り戻すための、そんな旅かな」
サフィは手際よく描き写すと地図を丸め、ローブの裾に仕舞った。
聖職者たちが興味を示す話ではなかったようだ。彼らは骨を埋める覚悟でこの城塞都市に住まい、城外に赴くことも
失われた巡礼の道。そこはかつて老いた魔道士までもが杖を
長く果てしなく、終点があるのかさえも分からない巡礼の旅路。黒魔道士の少女サフィは、未だ始まりに近い場所で爪先立ちをしているに過ぎなかった。
<第一話『螺旋城の捕囚は太古の地図に印を刻む』完>
❁❁❁〜作者より 🔮〜❁❁❁
プロローグは、こんな感じで閉幕。「失われた巡礼路」を歩み、それを取り戻すことが旅の目的になります。
この後、慟哭宮で接待を受けますが、夜も更け、起きているのは不眠症のサフィと異様に元気な老師だけ。声が大きいです。宝石を渡したお礼に土産物を色々貰ったりもしました。
第二話は城塞都市から西に進んだ先の道中から始まり、ヤバい奴と遭遇します。
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