第225話 終幕

 スカディ、クロエ、リーリエたちの下を離れて、ぶっ飛ばした悪魔たちを追いかける。

 悪魔たちは壁に埋まり、起き上がろうとしていた。その前に俺が立つ。


「くっ……よくも私を蹴り飛ばしてくれたな、人間!」


 長髪の男が瓦礫を崩して立ち上がった。遅れて女のほうも立ち上がる。


「エイミー、私に合わせろ。奴は人間だ、急所を突けばそれで終わる」

「了解。ただ、片手がないからそれだけは気をつけてちょうだい」

「わかっている」


 男たちは剣を構える。俺は無防備な状態でそれを見つめた。


 再び交差する。


 エイミーと呼ばれた女性悪魔が俺に接近し、不慣れながらも剣を振る。当然、それを避けながら彼女に攻撃を喰らわせる——直前。

 カウンターに合わせて長髪の男が剣を突き出した。攻撃をキャンセルして後ろに躱す。


 連携はそこそこだな。息は合っていないが、無理やりこちらの動きを見て合わせてくる。地味にウザい。

 が、俺には通用しない。スキルを持った俺には。


 ——悪魔の手。


 性懲りもなく同じように攻撃してきた長髪の男の攻撃を、不可視の手が防御した。敵からしたら俺に剣の切っ先が当たらなくて驚いていることだろう。


「ッ! またあのおかしな能力か!」


 長髪の男は吐き捨てながら剣を持っていないほうの手を突き出す。そこから赤黒い液体のようなものが飛び出した。目の前で爆発する。


 咄嗟に俺は危険な攻撃だと判断して後ろに下がった。おかげでダメージはないが、女の悪魔を殺しそこねる。

 あれさえなければそのままエイミーとかいう悪魔を殺せたのに。


「もはや近づけると思うなよ」


 長髪の男が先ほどの遠距離攻撃を連射する。まるで触手のように赤い液体状のものが伸びた。拡散し、左右上下から俺を襲う。


 悪魔の手を使いながらその攻撃を防御しつつ、鞭に切り替えた女の攻撃をよけていく。


 液体攻撃は火力こそ低いが、さっき見た爆発に注意しないといけない。女のほうも近づいてこない。これじゃあ接近しないかぎりダメージを与えられない。

 やや面倒な状況になる。


「チッ。こそこそ攻撃してないでさっさと来いよ」

「悪いが我々には流儀というものがなくてね。勝てばいいのだよ」

「その意見には賛同するよ」


 だから、俺はなりふり構わず突っ込んだ。


 赤黒い液体が俺の体に突き刺さる。近づけば近づくほどあの厄介な攻撃は避けにくくなる。が、所詮は液体。耐久力はない。

 一時的に俺の体を貫くほどの攻撃力を有していても、刺さった瞬間にへし折ればいい。


 血は流れるし痛みもあるが、最低限心臓と頭、それに両足を守りながら突っ込めばいい。

 いくら腹を刺されようと。いくら腕を指されようと。右胸に穴が開こうと関係ない。攻撃を受けた先から治癒スキルで癒していく。


「なっ⁉ そんな戦法が私に——」

「うるせぇよ」


 ある程度迫ったところで火属性の魔法スキルを発動。視界が真っ赤に染まる。次いで、爆発と煙が起こった。


 これで相手は俺の位置がわからない。俺も相手の位置はわからないが、突き進めばいずれ当たる。


「舐めるなよ、人間風情が‼」


 お互いの距離がほぼなくなる。剣を振れば届く距離だ。構え、俺は剣を振る。

 対する悪魔は、自分ごと目の前をあの謎の液体で爆発させた。


 二度目の爆発。衝撃が発生して盛大に吹き飛ぶ。


「ベレト! 私も援護を……」

「その必要はない」

「は?」


 上から聞こえてきた俺の声に、エイミーが唖然とした顔で視線を向けた。

 お互いの視線が重なる。俺はすでに剣を構えていた。


 反射的にエイミーは防御系の能力を発動した。鞭や剣を作り出した能力で盾を張る。が、——もう遅い。

 それを含めて俺はスキルを発動していた。


 ——天剣。


 俺の持つ最強の攻撃スキルが炸裂する。


 俺の剣はエイミーの防御を超えて彼女の体を斜めに真っ二つにした。

 背後にあった建物、足元の地面が同時に切断される。


 目を見開いたエイミーが、ゆっくりと崩れ落ちた。


「そ、んな……」


 最後に小さく呟いた彼女は、それ以上一ミリたりとも動くことはない。確実に絶命していた。


 背後からベレトと呼ばれた男性悪魔が声を投げる。


「なぜ……なぜ貴様は私の攻撃を受けても平然としている!」


 視線を背後に向けると、自分の攻撃でボロボロになったベレトが膝を突いていた。満身創痍だな。


「なぜも何も、学習しないのな、お前」

「なんだと?」

「何度もお前の前でスキルを見せたじゃないか。不可視の防御。あれを使っただけだ」

「ぐっ……」


 忘れていたのか単純に防御性能を見誤ったのか。どちらにせよ、ベレトたち悪魔の敗北だ。

 俺は治癒スキルで傷を治し、ベレトの前に立つ。


「これでようやく終わる……長い戦いも、気苦労も」

「馬鹿なことを言うな。お前たちは終わりだ。たとえ俺やエイミーを倒してもそれは変わらん。もはやこの国の聖女信仰は地に落ちた! 誰もが新たな聖女の死を嘆き、スカディの背信を疎み、神への疑問と不信感を抱くだろう! 我々の計画は達成したと言っても——」


 ぎゃあぎゃあうるさいベレトの首を切断した。


 鈍い音を立ててベレトが倒れる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る