第219話 非道な方法
悪魔とスカディたちがぶつかる。
「さあ、たっぷり苦しみなさい!」
悪魔の手から伸びる紫色の鞭。
それを横に躱し、スカディはあえて前に出た。
「皆さん!」
「グルアア!」
「ピ——!」
スカディの声に呼応して、素早い動きで二匹の狼と鳥が先行する。
一瞬にして状況は三対一だ。
それでも地面を弾いて鞭がスカディたちを自動追尾する。
「ふんっ。私の鞭からは逃げられないわよ」
「グアアア!」
背後から迫る紫色の鞭。
それを咄嗟にスカディの使役する熊が受け止めた。
間に入って全身で防御する。
「ッ! 邪魔!」
熊の強靭な肉体によって攻撃が妨害されると、悪魔は伸ばした鞭を引き戻そうとする。
しかし、鞭は熊が掴んでしまった。
鞭そのものに魔力が流れている。
触れるとやや熊の手が焼けてしまうが、それでも熊は鞭を放さなかった。
「この!」
苛立つ悪魔。
その間にスカディが目の前に迫っていた。
鞭を消滅させ、拳を握り締めて対応する。
女性二人の殴り合い——にはならなかった。
先にスカディに並んだ小さな鳥が速度を上げる。
鋭いクチバシにわずかな魔力をまとって悪魔に突っ込んだ。
悪魔は構えた状態からばっと半身になって鳥の突進を避ける。
「さすがに一撃で仕留めるのは無理でしたか」
鳥の攻撃が躱されてスカディはやや焦った。
だが、それも想定内ではある。
そのための狼たちだ。
今度は狼たちが悪魔に迫る。
鋭い牙と爪で悪魔に襲いかかった。
それを悪魔は、
「私がこんな雑魚にやられるわけないでしょ」
素手で殴り飛ばした。
強化された動物とはいえ、さすがに正面から悪魔に勝てるほどのポテンシャルはない。
「キャウン!」という高い叫び声を上げて地面を転がる。
そんな彼らを見ることもなく、さらにスカディは前に出た。
懐から念のためにとネファリアスから渡されていた短剣を取り出す。
それを見た瞬間、悪魔の表情が引き攣った。
大袈裟に後ろへ跳ぶ。
「ッ! 逃げるなんてらしくありませんね。これが怖いですか?」
にやりと笑ってスカディは短剣を構える。
悪魔の苛立ちは募る一方だった。
「面倒な物を盗んでくれたわね……。いいの? 聖女が教会から聖遺物を盗んで」
「今は状況が状況ですからね、仕方ありません。それに、もう私は聖女ではないですし」
「罰当たり。天罰が当たるわよ!」
「先に当たるのはあなたでしょ!」
復帰した鳥、狼、熊の魔物がスカディの周りを囲んだ。
悪魔は内心で考える。
今のスカディは相当に危険だ。強さで言えば負けることはないが、彼女の手にした短剣が厄介すぎる。
あれは言わば悪魔への特攻武器。
仮に急所に短剣を刺されてしまえば、いくら実力差があっても悪魔のほうが死ぬ。
スカディは悪魔の防御力を貫く攻撃力を有しているがゆえに。
「本当に、面倒ねぇ」
あの短剣を躱しながら近接戦闘を挑むのはリスクがある。
なにせ相手は一人じゃない。他にも周囲に動物を隠し潜めている可能性すらあった。
普通なら遠距離攻撃一択だ。悪魔は魔力が充分に残っている。
相手は遠距離攻撃をほとんど持っていない。ほぼ一方的に蹂躙できる。
しかし、スカディの身体能力が思ったより高い。遠距離攻撃を避けながら時間を稼がれる恐れもあった。
そうなると今度はネファリアスがネックになる。
ドラゴンが簡単に倒されるとは思っていないが、ネファリアスに合流された時点で敗北が決まるのだ。
できるだけ急いで、かつ安全に殺す方法は……。
そこまで考えて、悪魔の女性はにやりと笑った。
ちらりと背後にいる偽物の聖女へ視線を向ける。
「ちょっと彼女を捕らえるために協力してくれないかしら?」
「協力?」
偽物の聖女は首を傾げる。
「ええ。スカディを殺すのに時間がかかりそうだわ。下手するとネファリアスが追いついてきて終わるし、あなたが洗脳した住民たちをここに集めて。向こうが数で対抗してくるなら、こちらも数で対抗しましょう」
「ああ、なるほどね」
偽物の聖女はすぐに理解した。
まさに悪魔のような作戦だと思いながらも、偽物の聖女は悩む素振りもなく魔力を解放する。
彼女の魔眼は、一度でも支配下に置いた者たちをある程度操れたりできる。
もちろん強制的に操るには大量の魔力が必要になる。
ネファリアスに比べればここで出し切るべきだ。そう考え、全ての魔力を放出して住民たちにここへ集まるよう指示を出した。
これで少ししたらスカディたちを捕まえるべく、たくさんの住民たちが集まってくる。
そうなったら悪魔たちの勝ちだ。
スカディたちはきっと住民たちを攻撃できない。
兵士を攻撃するのとではわけが違うから。
事実、二人の話を聞いていたスカディは、顔色を悪くしながら叫んだ。
「何の関係もない住民たちを利用するなんて……!」
「関係ない? あるわよ、立派に。だってあなたは罪人。罪人を捕まえる協力をしてもらうだけ。立派なお手伝いじゃない」
徐々に、一番近くにいた者たちから姿を見せる。
スカディはまたしても究極の選択を強いられることになった。
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