第217話 それぞれの戦い

「グルアアアッ!」


 王宮内部で赤色の竜が叫ぶ。

 びりびりと空気を震わし、地面を揺らしてこちらに走った。


 俺はドラゴンによる突進を横に跳んで躱す。

 背後にあった建物が盛大な音を立てて崩れた。


 生物の頂点、竜種といえども、その知能は他の魔物と大して変わらない。

 大きな力を持つ分、暴れ回った際の影響は想像を絶していた。


「さてと……こいつをどう倒すか」


 恐らく勝つこと自体は難しくない。

 相手が成体の竜だったら勝てなかっただろうが、子供であればステータスは大して高くないだろう。


 問題は、それでも討伐するのに時間がかかる点。


 ちらりと上空へ視線を向けると、その先には小さな鳥が飛んでいた。

 あれはスカディが使役する動物だろう。

 俺とドラゴンの戦いを見守り、スカディとの連絡役にもなっている。


 鳥を介して喋ることはできないが、鳥に動きを指示することはできる。

 それによって俺を追跡中の悪魔や偽物の聖女の場所へと案内する役目を担っていた。


「できるだけ最短で倒したいが、無理してもしょうがないしな」


 とりあえず剣を構える。


 建物を粉砕したドラゴンは、土煙を巻き上げてこちらを向いた。

 その殺意に満ちた瞳が、もう一度俺を睨む。


 そのタイミングで地面を蹴った。


「グルアアアッ!」


 ドラゴンは吠え、鋭い牙を剥き出しに走る。


 お互いが交差し、俺の剣が竜の鱗を剥いだ。


 まともに攻撃が命中してもこれだ。

 致命傷を与えるには、最強のスキル〝天剣〟でないといけない。


 片やドラゴンは、図体こそ大きいが、それゆえに攻撃パターンが単純で避けやすい。

 冷静に対処すれば無傷で討伐可能かも?


「心底よかったよ、お前の相手が俺で」


 手にした剣に膨大な魔力が籠められていく。

 一発、天剣をお見舞いしてみることにした。

 そのダメージで相手への対処方法を変える。


 再び地面を蹴った俺に、ドラゴンは大きく口を開いた。

 今度は噛みつき攻撃じゃない。口の中にわずかな火の陰が。

 咄嗟に横へ跳んだ。


 直後、俺が立っていた場所に業火が吐かれた。


「ブレスか」


 そりゃ使えるよな。ドラゴンだもの。


 あのブレスは魔法攻撃に属する技だ。火属性の攻撃で、まともに受ければ今の俺でも結構ヤバい。


 だが、ブレスには隙が生まれる。発動までのラグもある。

 よほどのミスを犯さないかぎり、あんなトロい攻撃に当たるほうが難しい。

 むしろどんどんブレスを使ってほしいとさえ思った。


 そしてドラゴンに接近する。


 俺の天剣が、煌めく光とともにドラゴンの——腕を斬り裂いた。

 予想どおり、スキルによる攻撃なら竜の外皮を断ち斬ることができる。


 その時点で、俺は勝利を確信した。




 ▼△▼




「あちらですね」


 王宮内で、悪魔が連れ込んだドラゴンとネファリアスが激闘を繰り広げる中。

 追跡用に鳥を飛ばし、近くを複数の動物たちで固めたスカディたちは、どんどん王宮から遠ざかっていった。


 その先は恐らく街の外。


 悪魔に抱き上げられ、屋根を跳びながら逃げていく偽物の聖女を彼女たちは追いかけていた。


「一体どこまで行くのかしら」

「このままだと首都を出てしまいますね」

「たぶん、それが狙いかと」


 リーリエの呟きを拾い、スカディが答えた。


「え? 街の外には大量の魔物が……あ」

「そうです。あの魔物たちは、ネファリアス様の予想では悪魔や偽物の聖女が引き連れている可能性がある。ならば、あの二人が襲われる心配はないのでしょう」

「どうするの? さすがにネファリアス様なしで外の魔物に対処するのは難しいわよ」


 クロエが他二人の心配事を代弁する。

 やや考えて、スカディは結論を出す。


「追いかけましょう、このまま。確かに我々にとっては不利な状況ですが別に戦う必要はありません。この子たちが魔物を遠ざけてくれるはずです」


 スカディは周りを囲む犬やら狼やら熊やらの動物たちを見る。

 全員、スカディの能力で強化された神聖なる獣たちだ。普通の魔物に後れをとったりはしない。


「その子たちに魔物は任せて私たちは悪魔を追う、と」


「はい。ドラゴンは必ずネファリアス様が倒してくれます。そうなると、我々の役目はいかに悪魔たちを追いかけられるか。現在位置をネファリアス様にさえ教えられれば勝機はあります」

「解ったわ。スカディの案に乗る」

「頑張りましょう! 追いかけながら時間さえ稼げればいいんですから!」

「まあ、悪魔が出張ってきたら私たちは確実に殺されるでしょうけどね」

「逃げる隙くらいは作りますよ」


 そうは言っても、スカディの表情から不安は消えない。

 自分がそれなりに強力なスキルを持っているとスカディは自覚しているが、悪魔はそれを超える能力を持つ。


 正面からぶつかれば間違いなく負けるだろう。

 それは相手も解っている。


 追いかけていることがバレたら、位置が特定されたら……スカディたちは一気にピンチになる。


 ゆえに、最悪の事態を想定してスカディは動く。

 切り札と呼べるネファリアスが来るまでの間、できるかぎりのことをするために。


 他の二人も同じだ。

 不安や恐怖という感情を捨てきれないものの、それを超える希望がある。

 歩みを止めず、ただ悪魔の背中だけを見つめ続けた。


———————————

あとがき。


『俺の悪役転生は終わってる』

『最強の悪役が往く~実力至上主義の一族に転生した俺は、前世の知識を使って世界最強の剣士へと至る~』

新作二作も面白いのでぜひ見てください!

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