第210話 油断大敵

 悪魔たち四人との戦いが始まる。


 相手は女性一人に男性が三人。見るからにパワー系の悪魔が二人。搦め手が得意そうな悪魔が一人。バランスタイプが一人といった編成だ。


 対する俺は、バランス一人のみの編成。街中なので相変わらずスカディは戦力が削られていた。


 できることと言えば、上空に待機させた鳥を使って相手の妨害をするくらいだ。


 あとは他の鳥に偽物の聖女の追跡をしてもらっている。


 恐らく逃げる場所は王宮だろうが、それでもどこに行ったのか調べる必要があった。




「死ね、人間!」


 そうこう考えている内に悪魔たちが攻撃してくる。


 真剣が俺の眼前すれすれを通り過ぎていった。


「乱暴な奴だ——な!」


 相手の攻撃を躱し、全力で蹴りを入れる。


 剣を振った悪魔は腹部に蹴りを喰らい、ボールのように吹き飛んでいく。


 そこへ左右から男性悪魔の二人が挟み込む。


 片方は剣。片方は槍。


 お互いの攻撃が当たらないように計算しながら攻撃を放つ。


 剣は俺も剣で防いだ。槍はヒット範囲が狭いので避ける。


「先に狙うべきは……こっちか」


 剣を弾いて地面を蹴った。


 俺が次に狙うのは槍を持った悪魔。


 騎士団長エリカと同じ。槍の弱点は近接戦闘。俺はその近接戦闘が得意だ。剣を引きながら一足で悪魔の懐に入り込む。


「くっ! 舐めるな!」


 悪魔は咄嗟に蹴りを放つ。


 さすがに身体能力が高い。武器を使わなくても驚異的な威力が出る。


 まあ、当たらなければどうということはないがな。


 俺は最低限の動きで悪魔の攻撃を躱すと、最速の一撃——突き技を繰り出す。


 その直前、スキル『悪魔の手』を発動。


 後ろへ体を引いた悪魔の退路を無理やり塞ぐ。


 それ以上後ろに下がれなくなった悪魔は、異常事態に動揺した。


「なっ⁉ 壁だと⁉」


「手だよ」


 もう遅い。


 必殺の距離まで縮んだ。


 あとは的確に眉間を狙って剣の切っ先を突き出す。


 それだけで悪魔の頭部に俺の剣が深々と突き刺さり、瞬時に貫く。


 衝撃により悪魔の頭部は吹き飛んだ。


 ぐちゃぐちゃに周囲を血で染め上げ、断末魔の叫びを上げる間もなく絶命する。


「馬鹿な⁉ 一撃だと!」


 仲間の悪魔たちも同じように動揺していた。


 額から汗が滲んでいる。


 ポーカーフェイスを覚えたほうがいいな。自分たちもああなるのでは? というのが手に取るように解る。


 つまり、他の連中も大したことないってわけ。


「お前たち、前に戦った悪魔より弱いな。仲良しこよしでつるんでるからじゃないか?」


 これならノートリアスで戦った悪魔のほうが強かったな。


 俺が日々成長してるってこともあるが、それにしても弱い。


 もう少し時間がかかると思っていたが、これなら問題なく討伐できそうだ。


 俺はにやりと笑って剣を構える。


「くそっ! まさかこれほど強いとは……」


「あの女の言うとおりだったな。連携しなければ我々も勝てんぞ!」


「任せて! 私が援護するわ!」


 紅一点の女性悪魔が、急に紫色のオーラを周囲に放つ。


 なんとなくそのオーラからは不気味さが見て取れた。


 この感覚は……そう。前にも味わったことがある。


 試しに女性悪魔のほうへと突っ込んだ。紫色のオーラが俺の体にまとわり付く。


 直後、


「!」


 体ががくりと重くなった。


「やっぱりか。毒だな、これ」


「正解。解っていたのに突っ込んできたの? お馬鹿さんね、あなた」


 動きを止めて膝を突いた俺の前に、堂々と女性悪魔が近付いてきた。武器を掲げる。


「実力は認めてあげるけど、警戒心の低さが問題だったわね。来世ではその辺りも学習しなさい?」


 無慈悲に振り下ろされる刃。


 俺はにやりと笑った。


「——いや?」


 女性悪魔の剣が俺の頭上に落ちるより先に、俺の刃が女性悪魔の体を横から真っ二つに両断した。


 スキル『天剣』を使用したので、その威力は相手の防御力を容易く貫通する。


 何が起きたのか一瞬理解の追いつかない女性悪魔。鈍い音を立てながら地面に転がる彼女へ向けて、俺は懐かしい気持ちを抱きながらあの時と同じ言葉を投げる。


「悪いけど俺には毒の類は効かないんだ。お前こそ、警戒心を持ったほうがいいぞ?」


「う、そ……」


 全てを理解した女性悪魔。しかし、理解した時にはもう遅かった。


 俺がわざと隙を見せて彼女を近づかせる作戦だったとは思うまい。


 悪魔ってやつは、自分が強者だと思ってる奴は、隙を見せれば平気で近づいてくるからな。


 傲慢なのはいいが、せめて反撃された時のことくらい考えておけばいいのに。


 そう思いながらも俺は立ち上がる。


 振り返り、残りの悪魔を見た。


「さて……あとは二人か」


「ッ⁉」


 残った男性悪魔二人が、俺と目が合うなり顔を青くする。


 あの様子なら残り二体の悪魔も殺した二人の悪魔とそう実力は変わらないだろう。


 俺はにやりと笑みを刻み、剣を構えた。


「同時にかかってこい。もう、お前らに割く時間はない」


 そう言って地面を蹴ろうとした——瞬間、二人の悪魔が反射的に背後を向いた。


「?」


 なんだ、と思う間もなく、二人の悪魔が全力で明後日のほうへと逃亡を始めた。


「……は?」


 まさかの展開である。




———————————

あとがき。


新作投稿したよ~。

『冤罪で追放された元悪役貴族は、魔法で前世の家電を再現してみた~天才付与師はスローライフを所望する~』

毛色の異なる悪役転生もの?だからよかったら読んでね!

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