第209話 仲間たち

「ん……んん?」


「あ、起きた」


 時間にしておよそ三十分ほど。


 気絶していた偽物聖女が目を覚ました。


 瞳を開けて、きょろきょろと周りを見渡す。最後に俺を見て、驚愕した。


「あ、あなたは! ネファリアス!」


「やあ。気分は良さそうだね」


「全然よくない! なんで私はこんな薄暗い所で両手を縛られてるのよ!」


「それはお前が一番よく知ってると思うけど?」


「ッ。私を殺すの? 殺したところで民衆は納得するかしら」


 彼女は自分の状況、俺の目的を照らし合わせて即座に答えを得る。


 じろりとこちらを睨みながら挑発的な発言をした。


 しかし、俺は構わず腰に下げていた鞘から剣を抜く。その切っ先を偽物聖女の顔へと向けた。


「どうだろうな。もしかすると不満を抱えていた民衆は納得するかもしれないぞ? お前は本物の聖女じゃなかったってな」


「そんな上手くいくわけないでしょ。この国の聖女って地位は疑問視されるわ。今後に響くかもしれないわね!」


「お前のせいでな」


「何よ。謝ってほしいの? 謝ったら満足するの?」


「いや。最終的にはお前が聖女でさえなくなればいい。殺すことも考えている」


「なッ⁉ しょ、正気⁉ あなた、元騎士なんでしょ? 人を殺すことに躊躇いは無いの⁉」


「情に訴えかけても無駄だよ。俺は平気で人を殺す。もう、お前を殺す覚悟くらいはしてきたさ」


 いままで俺が何人もの人間を殺してきたと思ってる。


 スカディを追いやったお前は、俺の中で盗賊と大差無い。殺すのに悲しみを覚えることは無かった。


「くぅッ! でも、私にはまだ仲間が! あの女がいる! どこかで私のことを見てるなら、早く助けなさい! 聖女が死ぬわよ⁉」


 ぎゃあぎゃあと大きな声で騒ぎ始めた偽物の聖女。


 俺もその悪魔を待っているんだが、いまのところ現れる様子は無かった。


 この女、もしかして切り捨てられたのか? この状況で?




「……来ないな、悪魔」


「どうしてよ⁉ 私がいなきゃこの街を支配することはできないわよ⁉」


「さてね。あいつらがお前に依存する作戦を立てるとは思えないが……見捨てる気もなさそうだな」


「え?」


 俺は後ろに跳んだ。


 直後、偽物の聖女を囲むように複数の悪魔が姿を見せる。


 前に見た女の悪魔以外にも男の悪魔が三人。計五人の悪魔が揃う。


「おいおい、どうした? 今日はパーティーでも開催するのか?」


 剣を手にしながらにやりと笑う。


 ここまでは俺の計画どおりだ。まさか仲間を連れて来るとは思わなかったが。


「うふふ。聖女のお披露目っていうパーティーならあるじゃない」


「それはもう潰れただろ」


「いいえ、まだよ。彼女さえ生きていれば問題無いの。返してもらうわね?」


「あなた! よくやったわ! 早く安全な場所に案内しなさい!」


「はいはい。それじゃあ後のことはみんなに任せるわね? 彼、強いから気をつけて」


「分かった。殺せばいいんだな?」


 女性悪魔の言葉に男性悪魔の一人が答える。


 やや考えてから、女性悪魔はその意思を肯定した。


「ええ。仲間にしたかったけど、生け捕りが無理そうなら殺していいわ」


「ほ、本気⁉ 私の意見は聞かないの⁉」


「我慢しなさい。彼を生け捕りにしようとするとリスクが伴うわ。殺そうとして死ななかったら捕まえてあげる」


「……わ、分かったわよ」


 偽物の聖女は残念そうに肩を竦める。


 そんな彼女の手を縛っていた縄を切り、女性悪魔が抱き上げる。


「そう簡単に逃げられると困るんだが?」


「あら、じゃあ追ってきなさい? 彼らを倒せたらの話だけどね」


 そう言って女性悪魔はどこかへ消えた。


 追いかけようにも、四人の悪魔が俺の進路を妨害する。


「ったく……仲間を呼んでくるとか反則だろ」


 それも四人。さすがにここまで多いのは計算外だった。


 しかし、悪魔が増えたことで死体を晒すメリットは増えたな。あとはどうやってこいつらが聖女の仲間だと知らしめるか……いっそ、偽物の聖女が不安に駆られて暴走し、街を破壊し始めてくれたら嬉しいな。


 そのためには、少なくとも目の前の悪魔四人を倒す必要があるが。


「ね、ネファリアス様……どうしましょう」


 背後ではスカディたちが心配そうに俺を見ていた。


 剣を肩に置き、にこりと彼女たちに笑いかける。


「なに、心配はいらないよ、スカディ。こいつらを殺して先に進めばいい。五体の悪魔を聖女の傍に並べてやれば、民衆も少しは納得してくれるかもしれないしね」


 明らかに悪魔が多すぎる。聖女の仕業だと思わせることはできなくても、聖王国自体に疑問の目は向けられる。それは、ひいては聖女スカディの解任への疑問にも繋がる——はずだ。


 そのために俺は剣を構えた。悪魔たちもそれぞれが武器を構える。


「先に言っとくが、一人も生かしておく気はない。死にたくないなら逃げたほうがいいぞ? 逃げても殺すけどな」


 ほとんど同時に悪魔と俺は地面を蹴る。


 お互いの体が交差し、俺の刃が魔族の全身を刻んだ。


 悪魔たちの間に衝撃が走る。


 数で押し切れば勝てると思ったか? こちとら、いくつも修羅場を潜って強くなってんじゃい。

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