第204話 兄の行方

 マリーゴールドとメイドのミラは揃って王都に入る。


 馬車の荷台から下りると、賑やかな街並みを眺めた。


「ここが……王都」


「凄い賑やかですね。アリウス男爵領とは全然違う……」


「王国の首都だもの。けど、これだとお兄様を探すのに時間がかかりそうだわ」


「どうしますか、マリー様」


「うーん……とりあえず、お兄様が接触したと思われる人たちの下へ行きましょうか」


「ネファリアス様が接触した人?」


 メイドのミラが首を傾げる。


「ええ。名前までは聞いてないけど、この街にいる騎士よ」


「騎士とネファリアス様が?」


「勇者様経由でね」


「ゆ、勇者様!? 勇者様ってあの勇者ですか!?」


 誰だってその名前は知ってる。王国で最も名高き人間だ。


 分かりやすくミラは目を見開いた。


 マリーゴールドが頷く。


「そう。王国に生まれた勇者様。私がミラと出会う前の話ね。パーティーに出席したお兄様が、勇者イルゼ様と仲良くなったの。それで観光とかして、そのあとにあなたを購入したのよ」


「はぁ……そんなことがあったんですね」


「それ以降は接触していないと思ったけど、もしかすると勇者様の下にいるかもしれない。お兄様くらい優秀な人間なら、勇者様や騎士団が放っておかないでしょうし」


「そこで騎士たちに話が繋がるんですね」


「勇者様は第三騎士団に所属しているらしいからね。勇者様に会うことは無理でも、第三騎士団になら会えるでしょ?」


「確かに……」


 歩き出したマリーゴールドの背中をミラは追いかける。


「問題があるとしたら、私は第三騎士団の宿舎がどこにあるのか知らないってこと。王都には詳しくないから」


「私もほとんど外には出ていないので、全く詳しくありませんね……住民の方に聞くのが一番かと」


「そうね。手当たり次第に訊きましょうか」


 マリーゴールドはミラの意見を採用。近くにいた人たちに声をかける。


 さすがに王都に住む住民なだけあって、第三騎士団の宿舎がどこにあるのか、すぐに分かった。


 二人は足早にそちらへ向かう。




 ▼△▼




 王都の南通りからまっすぐ北上すると、やがて大きな建物が見えてきた。


 そこが住民たちから聞いたマリーゴールドたちの目的だ。


 建物を見上げてマリーゴールドは呟く。


「あそこが……第三騎士団の宿舎なのね」


「立派な建物ですね」


「勇者様が組織する騎士団でもあるし、そうでなくても第三騎士団といえば王都でも有名よ」


「そうなんですか?」


「他の騎士団より功績を挙げた優秀な騎士が在籍しているからね。特に騎士団長のエリカという人は、王国最強と名高いとか」


「へぇ……詳しいですね、マリー様は」


「お兄様に教えてもらった話よ。お兄様が詳しかった理由は知らないけど、もしかするとそれも繋がりがあるかもしれないわね」


「では中に入ってみましょうか。騎士の方に話を聞けば、いるかどうかは一発で分かりますし」


「そうね」


 ミラに言われてマリーゴールドは第三騎士団の宿舎に足を踏み入れる。


 妙に静かな雰囲気だが、あまり人はいないのだろうか?


 そう思いながらも建物の中へ。


 すると、入り口の近くに一人の男性騎士がいた。


 彼もマリーゴールドたちに気付く。


「——ん? 君たち、騎士団の関係者……じゃないよね? 誰かな」


 マリーゴールドとそのメイドであるミラの容姿を見て、青年騎士は首を傾げる。


「いきなり訪ねて来て申し訳ありません。私、マリーゴールド・テラ・アリウムと申します」


「マリーゴールド……あ、アリウム? 確かその名前、ネファリアスさんと同じ家名だったような……」


「ッ!? 兄をご存知なのですか!?」


「うおッ!?」


 青年騎士の口から兄の名前が出てきて、マリーゴールドは食い気味に彼へ近付く。


 真剣な表情に青年騎士は驚いていた。


「え、えっと……妹、さん?」


「はい。私はネファリアス・テラ・アリウムの実の妹です。兄を探しているんですが、いまどこにいるのでしょうか?」


「あー……それは災難だったね。お兄さんはいま、この街にいないよ」


「どういうことですか?」


「いろいろあってね。ネファリアスさんがどこにいるのかは俺も知らないんだ」


「詳しく教えてください!」


「えぇ!?」


 更に一歩前に出てマリーゴールドは青年騎士に詰め寄る。


 だが、青年騎士は首を横に振った。


「わ、悪いけど、エリカ団長から他言無用って言われてるんだ。いくらネファリアスさんの妹であっても、さすがに話せないかな」


「そんな……」


 せっかく掴んだ兄の手がかりだったのに。


 マリーゴールドは悲しみに暮れる。


 その様子を見た青年騎士は、酷い罪悪感を抱くことになる。


 彼女の兄を想う気持ちは本物だと、直感的に理解した。


 理解して、彼は小さく呟く。




「聖王国」


「え?」




 マリーゴールドの視線が再び青年騎士へ戻る。


 青年騎士は視線を逸らして更に続けた。


「もしかするとネファリアスさんはそこにいるかもしれないね」


 それだけ言うと、青年騎士は手を振ってどこかへ立ち去って行った。


 その背中をしばし見つめたあと、彼女はミラに訊ねる。


「ねぇ、ミラ。聖王国って……王国の上にある国よね」


「はい。宗教の盛んな国だと聞いてます」


「なんでそこにお兄様が?」

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