第201話 最強の悪役
偽物聖女のいる離宮に、勇者イルゼと団長エリカが姿を見せた。
悪魔はすでに姿を消している。
彼らの相手は俺たちってことになった。
「やっぱり僕の予想通りの展開だね。君とはすぐに会えると思ってたよ、ネファリアスくん」
「そうなのか? 俺はできれば会いたくなかったよ」
鞘から剣を引き抜くイルゼ。
背後ではエリカも槍を構えていた。
遠くからは兵士と大きな魔力の反応——異端審問官と思われる気配まで近付いて来ている。
状況は前に聖騎士たちと戦った時よりまずい。
ここは王宮の敷地内だ。逃げ場ほとんどない。包囲され、どんどん敵は増える。
「やりにくいな……まったく」
俺は愚痴を漏らしながらも剣を抜いた。
現状、戦闘能力の低いクロエとリーリエはもちろん、街中に動物たちを連れて行くことができなかったスカディも役には立たない。
三人を守るようにイルゼたちの前に立ちはだかる。
これから第二ラウンドが始まろうとしていた。
「悪いんだが、用事も済んだから逃げていいか?」
「そんなわけにはいかないよね。ネファリアスくんはここで捕まえる」
「さっきのおかしな反応には気になるところもあるけど……目の前のあなたの方が大事よね」
「ま、そうなるよな……」
件の悪魔はもうここにはいない。
狙いはただ一人。俺だけだ。
俺さえ倒せればスカディたちを捕らえるのは簡単だ。ゆえに、俺は全力をもって彼らを撃退する。
「しょうがない。先に言っとくが……手加減はできないぞ」
「上等。殺す気できなよ、ネファリアスくん。僕たちもそうするからさ」
「知ってた」
お互いに地面を蹴る。
同時に剣が交差した。
けたたましい金属音が鳴り響いた。
▼△▼
お互いの刃が交差する。
「くッ!」
当然、すべてが上の俺がイルゼを圧倒する。
「お——らッ!」
イルゼの剣を体ごと後方へ吹き飛ばす。
隙を狙ってエリカが刺突を放つが、それを避けながら彼女に蹴りを入れた。
横っ腹に足がめり込む。
「がはッ!?」
エリカは離宮の壁をぶち壊して外に転がっていった。
その間に復帰したイルゼが戻ってくる。
「はあぁッ!」
「甘い!」
鋭い一撃を弾く。
逸れた体に剣を振り下ろした。ギリギリ、イルゼのガードが間に合う。
しかし、咄嗟に剣の柄から手を離す。
「なッ!?」
「そこッ!」
身軽になった俺の拳が、イルゼの腹部を抉って強烈な一撃を喰らわせた。
エリカと同じように離宮の壁を壊して外に出た。
いまの内にスカディたちをスキルで移動させ——。
「ッ」
スキルを発動させる直前、体を一歩後ろに下げた。
首の前を何かが通過する。
「透明化……のスキルか」
恐らく相手は異端審問官の一人。
姿は見えずとも、魔力反応までは完全に消せない。
近付いてきたことで気付いた。
「——灰になるがいい!!」
透明化の敵を斬ろうとするが、その背後から巨大な炎が飛んできた。
横に跳んで躱す。
直後、またしても魔力反応。
剣を横にしてガード。金属の音が響いた。
武器は少なくとも金属製。首を狙ったから殺傷性の高い刃物だろう。
「お初にお目にかかる。あんたらが聖王国の特殊部隊、異端審問官か?」
俺の問いに敵は答えない。
ただ殺意と攻撃だけを向けてくる。
それを捌きながら次々に異端審問官に攻撃を加えた。
遠距離攻撃してくる奴は無視。
近接戦担当の透明化野郎に張り付き続ける。
そうすることで遠距離攻撃を封じていた。
「チッ! なぜ俺の姿が……」
「見えるのか? 安心しろよ、ちゃんと見えないから——さッ!」
「ぐあッ!?」
男の手首を掴んで引き寄せる。そのまま膝蹴りを当てて吹き飛ばした。
大ダメージを与えると同時に、遠距離攻撃が飛んでくる。
それを剣で斬り裂き、更に地面を蹴って離れた所にいるもう一人の異端審問官へ攻撃を行う。
しかし、復活していた勇者イルゼと団長エリカに阻まれる。
二人とも回復していた。
「イルゼのスキルか。元気そうじゃん」
「この通りね」
「痛かったわよ、ネファリアス」
治癒スキル持ちがいるとなかなか戦いが終わらないな。
やむを得ない。
さらに過激な攻撃をすることに決めた。
俺は剣を強く握り締めて、異端審問官、ならびに勇者たちを見つめる。
「さて……もう少し、激しい戦いをしようか」
剣を構えた俺に、次々と敵は迫る——。
▼△▼
どれくらいの時間が流れたか。
一瞬のような、永遠のような。もはやハッキリと認識することができない濃密な時を過ごす。
結果として、俺は……。
「ッ! ま、まだまだ……僕は戦えるよ、ネファリアスくん」
よろよろと治癒スキルを使って立ち上がるイルゼ。
全身に夥しい切り傷を負っていた。
他にもエリカや異端審問官たちも重傷だ。地面に転がり、透明化していた男もスキルが解除されている。
そう、俺の圧勝だ。
かなり体力と魔力を削られたが、素のスペックが違いすぎる。
たとえ四対一でもまだ俺には余裕があった。
手加減することはできなかったので、イルゼを含めて全員がそれなりのダメージを負ってはいるが、ギリギリ、イルゼのスキルで治癒できる範囲。
それを見て、俺は踵を返す。
「ま、待て! 僕はまだ!」
叫ぶイルゼを無視して、スカディたちを連れてその場から逃げ出す。
遠く離れた所で戦いを見守っていた偽物聖女は、最後に俺と目が合うとひらひら手を振った。
どこまでも不気味な女だ。
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