第200話 相容れない主張
聖王国の一角、離宮にて、ついに俺たちは偽りの聖女と対面する。
彼女はスカディに比べてどこか素朴な女の子だった。
年齢も恐らく同じくらいだろう。
不気味な赤い瞳が俺を捉える。
「本当に残念。私の魔眼が通用しないってことは、洗脳できないってことじゃない。どうするの、悪魔さん。彼、もの凄く強いわよ」
ちらりと彼女の視線が後ろに並ぶ女性へ向けられた。
暗闇の中、呼ばれた悪魔の女性はくすりと笑う。
「そうね。私がここで戦っても勝算は薄いでしょう。ノートリアスにいた仲間を破ったほどの実力は……侮れないわ」
「俺としてはさっさと聖女である彼女を捕まえて、スカディの潔白を証明したいんだが?」
「それは困るわ。私、悪魔と契約して聖女になったのよ? ここで破滅したら報われないわ」
「お前が聖女だと世界が救われない。だから俺が止める」
「いいじゃない。こんな世界、無くなったとしても」
偽聖女はくるりとその場で回る。
腕を伸ばして踊るように回っていた。
「私は最悪の人生だった。親に捨てられ、誰も助けてくれなくて、苦しくて……辛くて、悲しくて、死にたいくらいに惨めだった。小さな頃から聖女として幸せな日々を過ごしていたそこの女が、いくら苦しもうと関係ない。私は幸せになりたいの。自分だけでいいからね」
「なら俺たちが止めるのも仕方のないことだよな?」
すっと腰に下げていた剣に手を添える。
「あら。こんな所で武器を振り回すというの? 野蛮ね」
「お前を捕まえるためならどんな罪も犯すさ」
「……羨ましい」
回るのを止めた偽聖女が、ジッとスカディのことを見つめる。
まるで呪いの言葉のように彼女は呟いた。
「何不自由ない生活があって。裏切らない友人がいて。最後には自分を助けてくれる王子様がいる? なんて不公平なんでしょう」
両腕を広げてわざとらしく大袈裟に言った。徐々に声が大きくなっていく。
「私には何もなかったのに! 誰も助けてくれなかったのに! どうして幸せしか知らないその女をみんな守るの? 住民たちもそう。誰も私を支持してくれない! どうしてどうしてどうしてどうして!!」
空気を引き裂くような偽聖女の声が響いた。
彼女には彼女なりの苦しみがあったのだろう。
目を覆いたくなるような人生があって、充分に苦しんだ。
けど、他人を蹴落とす結果に納得しちゃいけない。誰かが必ず反発を起こす。
いま、こうやって目の前に立つ俺みたいな奴がな。
「気の毒とは思うが、同情しても寄り添うことはできない。俺はお前を捕まえて偽物の聖女だと証明してみせる」
「……どうやって? 誰も信じないわ。私が偽物だなんて」
「さっき自分で言ってたじゃないか。誰も支持してくれないって。民衆は分かってる。スカディこそが本物の聖女だと」
「あはは! 関係ないわ。私がそいつらを片っ端から洗脳していけばいいの。この能力なら私は一国の女王にだってなれる!」
「まさか……」
最悪な未来が脳裏を過ぎった。
にやりと偽聖女が笑う。
「ええ。今度、街中でお披露目をするの。まだ私のことを知らない人がたくさんいるからね。その時に魔眼を使えばどうなると思う? ふふふ」
「そんな真似——させるか!」
俺は地面を蹴った。
これ以上の問答に意味はない。
即座に聖女の意識を奪おうと迫るが、間に女性悪魔が割り込む。
「結局こうなるのね」
女性悪魔が持っていた剣と俺の剣がぶつかり合う。
わずかに火花を散らし、——俺の剣が女性悪魔を吹き飛ばす。
後ろにいた偽聖女も巻き込まれて倒れた。
「きゃッ!? ちょ、ちょっと! もう少しくらい頑張りなさいよあんた!」
「無茶言わないでちょうだい。あの子、尋常ないくらい強いわ……腕力なんて軽く私を超えてるわね」
起き上がった女性悪魔の首を狙って肉薄する。
鋭い一撃を放つが——、
「そら、私の能力を見せてあげる」
それを突然虚空から現れた謎のモンスターに止められる。
「ッ。召喚系のスキルか」
「ご名答。私自身はそんなに強くないけど、ペットだけはたくさんいるのよ~」
そう言って次々にモンスターを召喚する女性悪魔。
ここでそんなに能力を使うと、ある人物に悪魔の気配がバレる。
というか、バレてもいいから俺を挟み込む作戦か。
大量に投入されたモンスターたちを殺しながら悪魔を追いかけるが、妨害にあって悪魔を取り逃す。
暗闇へ消えた彼女。諦めて偽聖女を狙うが、——そこに。
「——もうここまで来たんだね、ネファリアスくん」
「二回目の戦いだなんて……嫌になるわ」
「イルゼ……団長」
金髪碧眼の勇者イルゼに、騎士甲冑をまとったエリカ団長が姿を見せる。
恐らく騒ぎを聞きつけ、悪魔の反応を感知したんだろう。そこに俺がいるものだから、二人は悪魔がいないことを確認して武器をこちらに向けてくる。
他にも騒ぎを聞きつけた聖騎士などが集まり——状況はどんどん悪くなった。
偽聖女が叫ぶ。
「気をつけてください、皆様! そこにいるのは偽りの聖女スカディとその仲間です! 殺されそうになりました!」
「あの野郎……」
森の時とは違い、大きな魔力反応まで近付いてきた。
これは恐らく、異端審問官だろう。
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