第198話 王宮侵入

 ある程度の情報を集めて宿に戻る。


 時間は夕方。結構な人通りがあったため、完全に視線が無くなるまで待ってからスカディたちを二階の部屋へ運んだ。


 全員上着を脱いで少しくつろいでから話を切り出す。


「今日は結構な収穫があったね」


「ええ。意外と街の人たち……主に平民の方々が新たな聖女に懐疑的でした。これならスカディが聖女の座に戻るのもそう難しいことではありませんね」


「問題は聖女をどうやって引き摺り降ろすか」


 物理的に聖女を消して「はいスカディが返り咲きます」——とはならない。


 スカディが本物の聖女である証明をしなきゃいけない。だが、本物の聖女である証明はもうできない。


 本来は聖女が生まれた際に、教会に所属する者へ神託が下りるからだ。


 それが無い以上、誰もスカディが聖女だと証明できない。


「こんなことなら、神様がパパっと地上にいる人たちにスカディが聖女だと証明してくれればいいのに」


 どうして神様は介入してこないんだ?


 一々人間の世界で起きた問題には興味がないと?


 ならば勇者や聖女という存在を生み出す理由がなくなる。最初からいなくなれば問題も起きないのだから。


「愚痴を言ってもしょうがないですよ、ネファリアス様」


「でも、私も信仰心が揺らぎそうになる……」


「リーリエ」


 リーリエの呟きをクロエが咎める。


 けれど彼女は首を横に振って続けた。


「だって! 今回は聖女かどうかの問題でスカディがこんなに困ってるんだよ? スカディがいなくなったら困るのは人類の方なのに、まるで何もしない……酷いよ」


「聖女が消えれば新たな聖女が生まれる。そういうシステムだからこそ、どうなっても関係ないんだろうね」


「それは無責任なのでは⁉」


「相手は神様だ。人間の道理を押しつけてもしょうがないよ、リーリエ」


「むぐぅ……それはそうですが……」


「そこまでにしておきなさい。聖女に戻ろうとするスカディの前でそれは言っちゃいけないわ」


「気持ちは分かるからいいのよ。でも、私は聖女という存在が神様の優しさで生まれたと思うんだ」


「優しさ?」


「はい。だって聖女がいるから人は歩みを進められる。魔王にだって対抗できる。きっと勇者や聖女は、人類のためを想って生まれた存在なんですよ」


「スカディは前向きすぎるよ……」


 聖女然とした姿にリーリエは思わず苦笑した。


 しかし、一概にそれが間違っているとも言えない。事実、人類は何度も魔王の脅威に立ち向かってきた。


 それは勇者や聖女がいたからだ。


「ま、神様が力を貸してくれない以上、自分たちで解決するしかないね。ひとまず聖女を捕まえて教会に取り入った方法を聞き出そう。手荒い真似をするかもしれないけどね」


 にやりと俺は笑った。


 スカディたちの表情がわずかに曇る。


 俺が何をしようとしてるのか理解したっぽい。


「これも世界の平和のため……ですね」


「心苦しいけれど、ネファリアス様が正しい」


「私たちは時に見て見ぬフリをしなきゃいけない、だね」


 スカディ、クロエ、リーリエの三人は俺の意志を尊重してくれる。


 それが分かれば充分だ。


「よし……なら急ごう。急展開にはなるけど、他に目ぼしい情報もなかったし……次の計画に移るよ?」


「次……というと、王宮への侵入ですね?」


「うん。スカディ、道案内はできる?」


 彼女に視線を向けると、スカディは元気よく頷いた。


「お任せください!」




 ▼△▼




 話し合いから二日後。


 もしもの時のために食料を大量に購入した俺たちは、夜の帳が下りてから王宮周辺へ足を運んだ。


 暗闇に乗じて城に侵入する。


 警備の位置も大まかにだがスカディから聞いた。


 できるだけ人の配置が少ない王宮の後方へ移動する。


 後方には騎士団の宿舎しかない。警備が薄いようで厳重だ。


 代わりに、そこから侵入してくる奴はいないだろう——という先入観が働く。


 逆に侵入しやすいってこと。




「——よっと」


 城の壁を蹴って一番上に上る。


 スカディたちは悪魔の手で拘束してある。俺に引っ張られるように傍へ下り立った。


「スカディの言う通り、地上は騎士たちが見回ってるけど、壁の上は手薄だね」


「ここから向こう側に行くと聖王様がいる宮殿です。そこに聖女がいるとは考えられません」


「ってことは……あの離宮は?」


「あそこは誰も使っていない場所ですね。どうしてあそこに?」


「なんとなくだけど、隠し事とかしてる奴は離れた場所を選びそうだなって」


「……なるほど。一理ありますね」


 ポン、とスカディが手を打つ。


 他の二人も特に異論はない。俺たちはゆっくりと壁を伝って離宮へ向かった。

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