第195話 男の子だもの

 宿の一室。


 無事スカディたちが忍び込むことに成功したが、その後で新たな問題が発生する。


 それは寝場所。


 俺は別に床でも椅子でも平気だと言ったが、スカディたちが納得しなかった。


「ネファリアス様に床で寝られるくらいなら、ベッドを明け渡して私たちが床で寝ますッ」


「女性を床で寝かせるのはちょっとね……」


「女だ男だと関係ありません! ネファリアス様は私たちの希望。万が一でも背中や腰を痛めてしまったら……」


「治癒スキルがあるよ?」


「魔力は大切にしてくださいッ!」


「えぇ……」


 何を言ってもスカディに怒られる。


 ちらりと他の二人に視線を送るが、他の二人もスカディの意見に同意している。


 俺の仲間はいなかった。


「諦めてください、ネファリアス様。スカディは一度こう言ったら諦めが悪いわ」


「そうは言ってもね、クロエ……ベッドは一つしかないんだし、俺が言ってることも理解できるだろう?」


「確かに理解はできるわ。同時に、スカディが言ってることもまた正しい。ネファリアス様は自分がどれだけ大切な存在か自覚した方がいいと思う」


「うーん……難しいね、それは」


 俺自身に価値を見い出してはいない。


 あくまで原作のシナリオを変えるだけの存在だ。


 貴重と言えば貴重だが、俺を失っても世界に支障はない。


 勇者イルゼが生きているかぎり、犠牲は生まれるが世界は救われる。


 所詮、俺なんて歯車の一つさ。


「それに、みんなと一緒に寝るとなると、あのベッドじゃギリギリすぎるし……」


「密着すれば問題ありません。リーリエなんて軽いから、ネファリアス様に抱き着いて寝られますしね」


「任せて! 自分の小柄な体型に感謝する日がくるとは思わなかったよ!」


「いやいやいや! 普通に話を進めてるけど、リーリエを抱っこして寝るのはちょっと……」


 さすがに密着しすぎだと思います。


 俺のことも配慮してほしい。一応は男なんだよ?


「ネファリアス様は、私と一緒に寝るの……嫌?」


 しょぼん、とリーリエの表情が曇る。


 その顔は反則だろう……。


「嫌いじゃないよ。むしろ嫌いじゃないからこそ、リーリエたちと寝るのに反対なんだ」


「男の生理現象的な?」


「分かってるなら一々訊かないでくれ……クロエ」


 まさにその通りだ。


 俺は彼女たちに手を出すことはないが、体が反応する可能性は高い。


 こればっかりは理性で抑えることは不可能なのだ。


「ッ! そ、それくらい……分かった上での提案です! 私だって男性の……その……生理現象くらいは知ってますし……」


「ネファリアス様の大事なところが硬くなっても、私は気にしないよ! ネファリアス様のなら触れる!」


「触らないでくれ!?」


 その発言は不安材料が増えるんだが!?


「リーリエの馬鹿は放っておいて……気にしないでください、ネファリアス様。みんなで寝て、しっかりと明日活動しましょう」


 クロエが話をまとめる。


 俺はまだ納得していなかったが、クロエに腕を掴まれて無理やりベッドに押し倒された。


 柔らかな感触が背中に広がる。


 やっぱりベッドの上の方が遙かに快適だ。


「ほら、ネファリアス様だってまんざらでもない顔してますよ」


「ベッドは便利だね……本当に」


 クロエの言葉に乾いた笑い声しか出せなかった。


 苦笑する俺に、次々と近付いてくるスカディたち。


 俺の足許にはリーリエが。


 両隣をクロエとスカディが陣取った。


 もうこの空間からは逃げだせない。


 完全に追い込まれてしまった。


「ささ、明日は朝早くから調査しましょうね。だから早く寝ないと」


「~~~~!?」


 俺の返事など待たずに容赦なくスカディたちは密着してくる。


 当然、彼女たちの女性らしい柔らかな二つの塊も当たり……俺はなんとも言えない状態になった。


「安心してください、ネファリアス様。私も……恥ずかしいですから」


「全然安心できないなぁ……それ」


 スカディの呟きは、やっぱり不安ばかりを募らせた。




 ▼△▼




 翌日。


 散々文句を言った俺も、人間として三大欲求の一つ——睡眠欲には勝てなかった。


 気付いたら朝を迎えており、目を覚ますと人肌が三つも傍にあった。


「なんだこのハーレム状態……」


 前世なら数多の男性諸君に嫉妬と殺意を向けられていたであろう状況だ。


 恐らくこの世界でも同じ反応が返ってくるだろう。


 我ながら、悪役になってもこんな幸せでいいのかな?


 一応、俺たちは聖女スカディ——原作ヒロインを助けるために行動してるんだよね?


 これじゃあただ、俺がハーレムを楽しんでいるようにしか見えなかった。




「ん……んんっ? おはようございます、ネファリアス様。先に起きていたんですね」


 遅れてスカディが目を覚ました。


 依然密着した状態なので、彼女が少しでも体を動かすと——むにむにッ。


 柔らかい感触が複雑に動く。


「す、スカディ……おはよう……」


 なんてことだ。女性の体はなんでこう柔らかいのか。


 肌一つ取っても男とは違いすぎる。


 そして何より……胸の主張が凄い。


 いろいろ申し訳ない気持ちを抱きながらも、俺はスカディやクロエ……一応、貧乳ながらもリーリエたちの胸の感触を楽しむ。


 しょうがない。だって男だもの。


 この後の調査におけるモチベーションってことにしておこう。

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