第190話 容赦なし
勇者イルゼは、確実に俺に攻撃を当てるために自爆した。
ご丁寧にギリギリまで爆発の前兆を隠すために、自分が巻き込まれるようと構わず攻撃位置まで調整していた。
恐らく俺と同じ考えだろう。
イルゼにも治癒スキルがある。仮に爆発を喰らって大怪我しても治せる。
だからって自分ごと相手を爆発させるなんて発想……俺からしたら狂ってるとしか思えない。
事実、巻き込まれた俺のダメージは割とあった。
治癒スキルで即座に火傷を治す。
その時。
いつの間にか背後にエリカが立っていた。
彼女は槍を構えて告げる。
「隙だらけよ」
直後、エリカの手元から銀閃が放たれた。
鋭い突き技だ。
いくつもの煌めきが俺の胴体に向かって飛んでくる。
——悪魔の手の拘束を解いたのか!?
エリカの攻撃を避けながら真っ先にそれが脳裏をちらついた。
しかし、すぐにそれが違うと分かる。
先ほどのイルゼの爆発だ。
あれを喰らったことにより俺の意識が一瞬でも途絶えた。
スキルは魔力を操る事で起きる現象だ。
特に俺はいくつものスキルを操るため、集中力が乱されると、悪魔の手のような持続系スキルが解除されてしまう。
イルゼの本命はそれか。
エリカを助けるために自分ごと爆発させた。
「はああッ!」
俺が考えている間にも、エリカの鋭い突きは続いた。
さすがに若干の油断が危機を招く。
反応が遅れた俺は、エリカの突き技を喰らってしまった。
脇腹にわずかな痛みが。
硬化スキルの発動は間に合ったが、完璧には防御できなかった。
スキルを貫いてダメージが入る。
「この感触……あなた、硬化のスキルを使ったわね?」
「そういうエリカ団長は、能力がどんどん上がっていってる……本気ですね」
「当たり前じゃない。ここであなたを倒して連れ戻すって言ったでしょ? あれは本気よ」
「怖い怖い」
「ふっ。いいのかしらね。そんな余裕で」
「?」
どういう意味だ?
俺は頭上に?を浮かべた。
すると、背後から猛スピードで復活したイルゼが迫る。
——こういう事か!
即座にエリカの言葉の意味を理解する。
同時に悪魔の手を発動しようとした。
だが、それより先にエリカの蹴りが俺に当たる。
「ッ!?」
またわずかに油断した。
エリカが槍を捨てて近接戦闘してくるなんて。
イルゼすら囮に使う彼女に関心する。
そして転がった先にはイルゼが。
彼は輝く剣を構えて振った。
先ほど以上の光が俺を包む。
身を焼くほどの熱量が光線のように斬撃で放たれた。
悪魔の手でガードした俺を、悪魔の手ごと後方へ吹き飛ばしていく。
防御態勢が不十分だったせいか、体が宙に浮いて速度を落とせない。
俺は冗談みたいに何十メートル先まで転がっていく。
最後に背中を木の幹にぶつけて停止した。
「かはッ!」
硬化スキルがあってもダメージが入る。
イルゼのスキルによる影響だ。
あの光は浄化が込められているため、継続して発動するスキルなんかを弱体化できる。
それでもスキルレベルが高いからいけると思ったが……普通に痛い。
血を吐きながらなんとか立ち上がる。
「マジで殺す気満々だな……」
「あなたを相手にするには、それくらいの覚悟が必要なのよ」
「もちろん悪いとは思ってるよ。いくらでも恨んでくれて構わない。その上で君を連れていく」
「それだけ好かれているようで何よりですよ……本当に」
嬉しいくらいの覚悟だ。
俺は二人にそこまで想われるような事はしていないというのに。
「——治癒」
立ち上がってすぐに全身を治癒。
痛みも倦怠感も抜けた。
これでまだ戦える。
「イルゼもそれ使うけどズルいわよねぇ……治癒系のスキルは。倒すまでが長すぎるわ」
「疲れたからって帰ってもいいんですよ? そもそも、用があるのは俺じゃなくて聖王国でしょ?」
このタイミングで聖王国へ来たのは、どうせ聖王にでも呼ばれたからだろ?
俺じゃなくてもそれくらいは分かる。
「むしろ私たちからしたら、聖王国へ行くのがついでみたいなものよ」
「そうだね。一番は聖王国へ現れるかもしれないネファリアスくんの確保だったし」
「さすがにそれは失礼かと。嬉しいですが」
「大丈夫だよ。どうせ誰も気にしない。君——じゃなくて、罪人のスカディを連れて行けばね」
「終わり良ければすべてよしってか?」
「まあね」
「生憎と、それは俺にとってのバッドエンドだ。到底許容できるものじゃない」
「だからそれだけ傷付いても頑張るって? 妬けるね……」
イルゼはどこか悲しそうに笑った。
隣に並ぶエリカも「しょうがないなぁ」って顔してる。
二人とは短いながらもそれなりに仲がよかった。
いろいろ複雑なんだろうな。
複雑にした俺が言うのもなんだが。
「でもそろそろ終わりにしよう。お互いに魔力も結構減ったしね……次は、確実に終わらせるよ」
そう言ってイルゼはさらに魔力の放出量を上げた。
全力の一撃を放とうとしている。
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