第189話 決死の一撃

 聖騎士に続いて今度は勇者と騎士団長を相手にする。


 イルゼもエリカも前より連携が上手くなっていた。


 このままだと倒すのに時間がかかると踏んだ俺は、不可視のスキル——悪魔の手を発動する。


 決して肉眼では捉えられない不可視の手がエリカへと襲いかかった。


 狙うのは中距離からチクチク攻撃してくるエリカだ。


 エリカの援護さえ無くなれば、残るは近接攻撃主体のイルゼのみ。


 それなら俺の得意分野でもある。


 イルゼには悪いが、まだ単騎としての能力なら俺のほうが上だ。


 槍を構えたエリカに悪魔の手が迫る。


「——ッ!? これは……前に見た謎のスキルね!」


「ちょっと大人しくしててもらいますよ、エリカ団長」


 俺の目論見通りエリカの動きがピタリと止まる。


 たった一人でイルゼが俺の下に接近した。


「一人で俺に勝てると思うか? イルゼ」


「いいや。思ってないさ」


 そう言いながらイルゼは剣を振る。


「でも、君の集中力が途切れればエリカにかけたスキルも解除されるだろ?」


「それが狙いか」


「どの道、君に迫られれば僕は逃げられない。それが分かっているからこその前進さ!」


「なるほどね」


 たしかにそう考えると利口な判断だ。


 俺がイルゼの立場でも同じ決断をしただろう。


 だが、どれだけ気合が入っていようと関係ない。


 イルゼの実力では俺の意識を逸らすことすらできなかった。




「くッ!」


 イルゼの健闘も虚しく、徐々に剣術で俺に押されていく。


 俺は特別なスキルを使っているわけじゃない。ただ剣術のみでイルゼを圧倒していた。


「さすがネファリアスくん……相変わらず反則並みの強さだね」


「イルゼはいいのか、それで。スキルを使わないで俺に勝てるとでも?」


「思ってないさ。もちろんスキルは使うよ。——これからねッ!」


 イルゼが強気に一歩前に踏み出した。


 直後、イルゼの体が薄く発光する。


 スキル——魔力の動きを観測した。


 くるッ。


 イルゼの身体能力が急激に上昇する。


 さらに、イルゼの近くからちかちかと光の球体が現れた。


 このスキルは……。


「ッ! 遠距離攻撃ができるようになっていたんだね」


 イルゼの能力は厳密には光を操るスキル。

 

 その光とは、浄化であり治癒であり強化であり攻撃でもある。


 対魔物に特化している分、俺との差を埋めるのは難しいが……そこにあえて剣術や動きを乗せて相乗効果を狙う。


 一つで届かないなら、いくつもの要素を掛け合わせて勝つ。


 それがいまのイルゼのスタイルだ。


 なんだかんだ原作通りに成長していく。


「面白い。けど……それでも俺には届かない」


 イルゼの攻撃スタイルが変化した。


 剣と光線の合わせ技だ。


 接近したり離れたりと独特な動きで俺を翻弄しようとするが、俺にも遠距離用の攻撃手段がある。


 ——火属性魔法スキル。


 奇しくもイルゼの光魔法スキルに似たスキルで対抗する。


 お互いの光と炎がぶつかり合った。


 よりステータスの高い俺のスキルがイルゼのスキルを吹き飛ばす。


「やっぱりこれでもダメか……強すぎるよ、ネファリアスくんは」


「イルゼも強くなってるじゃないか。成長スピードが早いな」


 さすが原作の主人公。


 俺がチートギフトで成長するのと同じくらい……もしくはそれ以上の速度で強くなる。


 面白いが、いまはそれを素直に楽しんでいる暇はない。


 一刻も早くイルゼたちを倒し、スカディを連れてこの場を立ち去る。


 そして次は必ず聖王国へ侵入するのだ。


 新たな聖女の面を拝みに。


 そのためにはイルゼたちが邪魔だ。


 俺は攻撃の速度を上げてイルゼを追い立てる。


「悪いがさっさと決着をつけさせてもらうぞ」


 もうイルゼを離さない。


 遠距離攻撃を使っても決定打に欠けるなら、ひたすらイルゼに張り付いてこちらの強みを押し付ける。


 イルゼは純粋な能力で強化を使っても俺より弱かった。


 それ即ち、俺が諦めないかぎり彼女に張り付いていられるってこと。


「くぅッ!」


 どんどんイルゼが劣勢になっていった。


 このまま攻め続ければ後少しでイルゼの守りを崩せる。




 ——そう思っていたが、そこでイルゼが先に動いた。




「ふふっ」


 彼は笑う。


 この状況で不敵な笑みを浮かべていた。


 俺は内心疑問に思う。


 ——ブラフか? それとも楽しんでる?


 彼が何を考えているのか分からない。分からないが今さら止まる気はなかった。


 さらに一歩踏み込み——直後、視界が光に包まれる。


 ついで轟音と激しい衝撃に見舞われた。




 爆発だ。




 イルゼの奴、閃光を使うのかと思ったら、自分ごと俺を爆発させて吹き飛ばした。


 当然、爆発位置に最も近いイルゼ自身が一番ダメージを受ける。


 俺も防御が間に合わずかなりのダメージを受けたが……行動できないほどじゃない。


 しかも俺には治癒スキルがあった。


 地面を転がった後で治癒スキルを発動すると……いつの間にか背後にエリカが立っ

ている。


「隙だらけね」

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