第184話 殺す気で

 遠くから馬の足音が聞こえてきた。


 聖騎士たちだ。もうすぐそばにやって来ている。


 クロエとリーリエに近くの茂みで隠れるよう指示を出し、スカディに動物の回収を頼んだ。


 スカディの能力は動物の使役。使役された動物たちは普通の魔物より強くなる。


 それはスカディ一人で数人分の戦力になるということ。原作においてもスカディの能力は汎用性が高く、よく仲間を助けていた。


 その力を使って、今回は俺とともに聖騎士の鎮圧をお願いする。


 しばらくして、スカディの動物たちが戻ってくる前に複数の騎士たちが姿を現した。


「ッ! 見つけたぞ、罪人共! 元聖女スカディを庇ってただで済むと思うなよ!」


 馬が足を止めて、騎士たちが降りる。腰に下げていた鞘から剣を抜くと、徐々に横に展開を始めた。


 完全にやる気満々だ。交渉してどうにかなる段階をすっ飛ばしている。


 俺もまた剣を構え、ぎらぎらと闘志の宿る彼らに声をかけた。


「ただで済むと思うな……か。それはこっちの台詞だね。お前たちこそ気をつけてかかってこいよ?」


 ここで聖騎士を殺せば、俺はもう言い逃れができないほどに罪人だ。


 でも彼らは元聖女のスカディを殺す気満々だった。リスクを背負うくらいなら全力で潰す。そういう顔だ。


 それなら俺も容赦はしない。聖女に楯突く者たちを殺す気で相手する。迷っていればやられるのはこちらだ。


「賊が……生意気な口を利くな! 行くぞ! 相手は二人だ! 油断なく囲んで殺せ!」


 リーダー格の男性の指示に、横に展開していた騎士たちが一斉に地面を蹴る。


 合計四人。俺とスカディを左右から挟むように走ってくる。


 ここで問題になるのはスカディだ。いくらギフトを持っているとはいえ、スカディ自身の戦闘能力は皆無。


 スカディは動物たちがいるからこそ強いタイプで、本人はまったく戦えない。


 それでも俺のそばに残ったのは、クロエとリーリエを守るため。


 スカディまで姿を隠せば、騎士たちは彼女がいないことを怪しむ。連中に手分けをされたら面倒だ。


 それを防ぐためにスカディは直接俺が守る。


 使役する動物たちがここに到着するまであとわずか。その時間を稼ぐべく……俺はあえてスカディのことを悪魔の手で包んだ。


「これは——」


 スカディがすぐに悪魔の手に気づく。


 このスキルは不可視であってもそこに存在している。質量があり、硬度がある。つまり、相手を拘束するだけじゃなく盾としての役割も備えている。


 スカディを包んだことで防御は完璧だ。あいつらに簡単に破壊できるとは思えない。


 事実、騎士の一人がスカディに剣を振り下ろすが、不可視の手がそれを弾く。


「なっ!? 女の体に刃が届かない!?」


「どういうことだ! 見えない壁のようなものがあるぞ!」


 スカディのそばにいた二人の騎士は、悪魔の手によって邪魔され困惑していた。


 すぐにリーダー格の男が、


「元聖女スカディにそのような能力があるとは聞いていない……であれば、その男がスカディを守っているのだろう。先に男のほうを潰せ!」


「ハッ!」


 的確な指示を飛ばし、スカディのほうにいた二人の騎士もこちらにやって来る。


 判断が早いな。これで四対一。完全に俺が不利だ。


 けど問題ない。想定内の反応ではある。


 一番近くにいた二人の騎士が、剣を振って攻撃してきた。その攻撃を回避。もう一人の剣をガードして、火属性魔法を背後の地面に放つ。


 爆発が発生し地面が吹き飛ばされ、その衝撃で土煙が背後に舞う。わずかな時間稼ぎだ。この間に前に踏み込み、またしても剣を振る騎士たちの攻撃を回避しながらゼロ距離まで迫った。


 前に体重が移動したのを見て、男の一人を投げ飛ばす。背後から隙を狙ってもう一人の騎士が斬りかかってくるが、ノールックでその攻撃をガード。剣を弾き、地面を蹴って騎士に迫るとこちらが先に剣を振った。


 身を守る鎧ごと騎士の体を斬り裂く。


 鮮血が宙を舞って男が叫び声を上げた。


「ぐあああ!?」


「鎧はもうちょっとまともな物を揃えたほうがいいな」


 おまけに呪いを付与し、しばらく相手の動きを封じた。


 即座に二人の騎士を倒すと、煙を突破し残りの二人が近づいてくる。


 これで二対一。不利な状況を巻き返した。たった二人では俺には勝てない。


 剣を構えて二人の騎士に接近——する直後。


 ブンッ。


 急に背後から剣が振るわれた。咄嗟にしゃがんでそれを避ける。


「チッ! いまの攻撃を避けるのか」


 俺の背後には、いつの間にかリーダー格の男が立っていた。


 気配を断ち、必殺の一撃を狙っていたのか。意外と聖騎士にしては姑息な奴だ。


「不意打ちかよ、騎士が」


「勝てばいいのだ、勝てば。それに貴様は罪人。情けや騎士道など必要ない」


 徹底的な現実主義者だ。そのまま三人の騎士が俺を挟み込むように迫る。


 一人増えたが問題ない。そろそろ時間稼ぎも充分だろう。俺が大きく空に跳躍すると——ガサガサガサッ!


 茂みをかき分けて複数の動物たちが現れた。


 スカディの使役するモノたちだ。これで数による不利は完全に解決し、ここから先は一方的に騎士を蹂躙する。

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