第182話 聖騎士たち

 白銀色の鎧をまとった騎士たちが馬に乗ってこちらにやってくる。


 その姿を見た途端、三人の女性たちは動きを止めた。震える声でスカサハが呟く。


「あ、あれは……まさか、〝聖騎士〟ですか!?」


「聖騎士? 聖騎士って言ったら聖王国の精鋭だよね?」


「はい。まずいです! 急いで逃げないと!」


「……どうやらもう遅いね。周りを囲まれた」


 聖騎士たちは全員が馬に乗っていた。俺だけならともかく、彼女たちを連れた状態で彼らから逃げるのは不可能だ。


 気づいた時には周りを囲まれている。




「そこの怪しいローブの四人。素顔を見せて説明せよ! なぜ君たちのような者が徒歩でこんな所にいる? 馬車はないのかね?」


 騎士の一人が俺たちにそう訊ねた。


 いきなりフードを脱げとは横暴だ。確実に疑われているし、この状況で素顔を見せても見せなくても終わる。


 どうしたものかと考えていると、


「おい! こちらの声は聞こえているだろう! 早くフードを取って素顔を見せよ! 指示に従わない場合、強硬手段に出る!」


 すらぁっ、と騎士たちが剣を抜く。


 俺たちが一般人かもしれないのに武器をちらつかせるとは……それだけスカディの発見に注力してるってことか。


 どうやら理性的にこの場を切り抜けるのは不可能だな。


「スカサハ、リンディ、シロ。君たち、森のほうへ走って逃げられるね?」


「え? あ、はい」


「なにを相談している! もしや貴様ら……指名手配の元聖女スカディたちか!?」


 とうとう騎士たちが馬から降りる。剣を手に俺たちの下へ近づいた。


「全員、一人も残すな! 拘束してルミナスへ引きずっていくぞ!」


「了解!」


 騎士たちはやる気満々だった。それぞれが武器を抜いて俺たちの下に向かう。


 戦いの火蓋は切って落とされた。それを確認して、俺は懐の剣の柄に触れ、叫ぶ。


「みんな走れ! まずは森の中に入るんだ!」


「ッ!」


 なにがなんだか解らない状況でも、三人は俺の指示に従った。襲いかかってくる騎士たちから逃走し、一斉に森の中を目指す。


 当然、騎士たちは俺たちを逃がすまいと走るが、一番近くにいた騎士の一人を——俺が蹴り飛ばす。


「ぐはっ!?」


 まさか反撃してくるとは思ってもいなかったのだろう。俺の蹴りは、騎士の一人に当たって冗談みたいに後方へ飛んでいく。鎧ごと地面を転がった。


「き、貴様ッ! 聖騎士に暴力を働くとは何事かッ! 構わん、殺してでも絶対に逃がすなッ!!」


「ハッ!!」


 騎士たちがマジになる。


 スカディたちに向かって剣を振り回し始めたので、彼女たちの進行方向にいる敵を〝悪魔の手〟で拘束。横から近づく騎士の一人に火属性魔法スキルを撃ち込み、もう一人は俺自身が剣で攻撃する。


「邪魔をするな! 彼女たちには手を出させないぞ」


 相手の攻撃を防いでカウンターを入れる。


 鎧を凹ませるほどの俺の筋力で騎士が吹き飛ばされていった。


 いまの俺の能力は、たとえ防具をしていようと関係ない。すでに複数の騎士がダウンし、残りの聖騎士たちに不穏な空気が流れた。


「こ、こいつ……! なんて強さだ。身体能力が人間のそれじゃない」


「間違いなくギフト持ちかと。どうしますか、隊長」


「殺せ! 逃がすわけにはいかない。もしかするとあいつらが例の——元聖女スカディかもしれないのだ!」


 叫び、騎士たちはなおもスカディたちを追いかける。


 別行動になるのは怖い。かといって騎士たちを無力化しないと逃げるのは困難だ。


 倒すか……否、ここはスキルを上手く使って逃げるのが一番。


 襲いかかってくる騎士たちを蹴り飛ばしながら、火属性魔法スキルを使って地面を爆破。巻き上げられた土煙を盾に、さらに森の奥へと逃げる。


 追って来そうな騎士は悪魔の手で拘束し、ひたすら相手の動きを制限しながら逃走した。


 おかげで騎士たちの姿がすぐに見えなくなる。


 そこから先は気配を殺しながら森の奥を目指した。音さえ派手に立てなければ、騎士たちはすぐに俺たちを見失う。


 幸いにも索敵系のスキル持ちがいないのか、いても俺が先に倒していたのか。騎士たちが俺たちを見つけることはなかった。どんどん来た道を戻っていく。




 ▼△▼




「ハァ……ハァ……ハァ!」


 しばらく一心不乱に走り続けてようやく彼女たちの足は止まる。


 逃げ切れたから止まったわけじゃない。体力の限界だ。全員がその場に倒れる。


「お疲れ様、みんな。なんとか聖騎士たちを撒いたね」


「ハァ……運が……ハァ……よかった、ですね……ハァ」


「運がよかった?」


「ええ。彼らの中には……索敵スキルの、持ち主が……いたはずです」


「それでも逃げられたってことは、俺が倒した中にいたんだね、索敵スキル持ちが」


「おそらくは」


 スカディの言葉に俺もホッと胸を撫で下ろす。


 だが、今度は逆の問題も発生した。


「でも、だとしたらここに固まっているのも危ないね。休憩を挟んでもっと奥まで行こう。索敵スキルの効果範囲に引っかかる可能性がある」


「解りました……急ぎましょう」


 もう休憩はいいのか、三人とも立ち上がって歩き出す。


 さすがに根性がいいね、みんな。


 俺もその後ろを追いかけた。

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