第177話 情報収集

 薄暗い闇を切り裂いて地面に着地する。


 音はない。上手く落下の途中で減速しておいた。静かに、驚きもなく町中に侵入する。


 共に町中へ降りた三人の少女たち。彼女たちをスキルによる拘束から解放し、一人を除く二人に声をかけた。


「大丈夫かい、スカサハ、シロ」


 俺に声をかけられた二人は、腰を地面に下ろしたままゆっくりと頷いた。


「だ、大丈夫……です」


「同じく……」


 顔が青い。本当に大丈夫か怪しいが、いまそこに突っ込んだところで怒られるだけだろう。気にしないようにして視線をリンディ——唯一笑顔の少女に移した。


「リンディは楽しそうだね。二度目だけど」


「はい! 今度は前より高さが足りませんでしたが、それでも普段できないことを体験するのは楽しいですよ!」


「それはまた立派だね」


 リンディって怖いものあったりするのかな? 意外とオバケが怖い! とか言われたらギャップがあって少し可愛いかも。


 そんなことを考えながら数分。ようやく回復したスカサハとシロが立ち上がってことで、改めて俺たちは町中へと向かう。今日泊まる宿を確保しなきゃいけない。


「二人とも、別にもう少し休んでてもいいと思うけど……」


 いまいる町は聖王国側にある小さな町だ。小さいと言っても王都と比べて小さいだけで、規模として中くらいになるのかな?


 だから探そうと思えば宿自体は簡単に見つかる。こういうなにもないタイミングで宿が埋まることもそうそうないだろうしね。


 要するに、別に急ぐ理由はないってこと。


 だが、スカサハもシロも首を横に振った。


「いえ……こちらの不手際であまりネファリアス様に迷惑をかけるわけにはいきません……!」


「そ、そうです。今後、同じようなことが何度もあるのに、そのたびに驚いていては身が……もたない!」


 そう言いながらもスカサハとシロの顔にはまだ青みが残っている。


 どう見たって苦しいのを我慢している顔だ。あまり無理してほしくはないが……まあ、ここは二人の意思を尊重しよう。


 隣でリンディが二人の背中をさすっている。それをちらちらと横目に、俺は宿を探して先頭を歩いた。




 ▼△▼




「それじゃあみんな、俺はこの子と一緒に酒場にでも行ってみるよ。情報収集にね」


 町に入って一時間。無事に宿を見つけ、四人分の部屋を取ることができた。


 最初、なぜかスカサハたちは、料金を少なくするために誰かが俺と一緒の部屋でもいいと言い出したが、そこは鋼の精神を持つ俺のほうから拒否させてもらった。


 さすがに若い男女が同じ部屋ではスカサハたちもくつろげない。彼女たちの気持ちは解るし、その想いもありがたいが、別に無理をする必要はない。


 ……そう思っていた。だが、実際のところは解らない。


 拒否した俺のことを三人揃ってジト目で見つめてきたからね。妙に「この鈍感野郎!」と責められているように感じた。


 俺の気のせいだと思いたい。


 そして現在。俺はみんなを宿に残して酒場に向かうところだ。


 酒を飲みに行くのではなく、酒場でこそ集まる情報の収集が目的。一度でも彼女たちの近くを離れるのは不安だが、そこはスカサハの能力が解決した。


「解りました。気をつけてくださいね、ネファリアス様。その子がいればこちらとそちらの情報はある程度解ります。決して手放さないように」


「了解。お互いに鳥を持って簡易的な情報のやり取りができる——なんて、スカサハのギフトは便利だね」


「それほどでもあります。なにせ聖女のギフトですから」


 スカサハは胸を張って誇らしげにしていた。


 あまり自分のことは褒めたりしないが、仲間やギフトに関してはそれなりの想いがあるのだろう。


 くすりと笑ってから、俺は改めて踵を返して部屋を出た。




 ▼△▼




 宿を出てすぐに町の中心に向かう。


 たいていの酒場は町の中心にいけばあると相場が決まっていた。俺の勝手な想像だが、町の中央は最も人が行き交う場所。そこに店を構える人は多い。


 そして俺の予想どおりに酒場は中央にあった。


 一階建て。横に伸びた木製の建物。どこか古き良き空気を感じる店の概観を眺めて、俺はゆっくりと店の中に入る。


 扉を開けた瞬間に漂ってくる強烈なアルコール臭に鼻が曲がりそうになった。


 実は俺、酒は飲んだことない。前世ならそりゃあ飲んだことくらいあるが、前世でもあまり嗜むことはなかった。


 なによりこの体はまだ未成年だ。この異世界でも二十歳にならないと酒は飲んじゃダメ。だから普通はこんな所に足を踏み入れるのはNGだが……。


「マスター、水と食べ物を頼む。なにか軽く摂れるものがいいな」


 カウンター席の端に座って店主にそう注文する。


 どこか強面の男性は、俺の顔を見てからこくりと頷き、水と……ソーセージ? みたいな肉を出してくれた。


 ほかにもじゃがいもみたいな野菜があるし、ちょっとおいしそうだな。


 それを摘みながら周囲の話に耳を傾けた。

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