第167話 聖王国からの使者

 聖女スカディは、自分の想いを吐露した。


 聞いていた残りの二人は、怒るでも困惑するでもなく——笑った。


「当然ね。わたしも尻尾巻いて逃げるなんてできないわ」


「うんうん。スカディがそれを望むなら、わたしたちはなんでも協力するんだから!」


 シロもリンディもやる気だ。


 これから聖女の座を奪い返すとなると、最悪、処刑だって脳裏をちらつくはずなのに。


 危険を冒してでも、彼女たちは親友の望みを叶える道を選んだ。


 思わず俺まで泣きそうになる。


 スカディは泣いた。心の底から涙を流し、そんな彼女を残りの二人が抱きしめる。




「覚悟は決まったようだね」


 三人を見て俺は呟く。


 シロとリンディが頷き、遅れてスカサハも頷く。


 この様子なら、全員で聖王国を目指すべきだ。俺が近くにいて、なおかつ敵も目前。ある意味リスクとリターンが釣り合っている。


「なら、時刻は未定だけど、今後は全員で聖王国にいくってことで」


「それが一番でしょうね。問題があるとしたら……」


「国に入るにはどうするか、だね」


「それなら答えは簡単さ」


 にやり、と俺は笑う。


 その顔を見たシロが、わずかに表情を歪ませた。


 俺の表情からどういう結論が出てくるのか予想したのだろう。きっとそのとおりだと思うので我慢してほしい。


「ま、まさか……また、を?」


「うんうん。あれが一番効率いいしね」


「やったー! ぴょんぴょん飛び跳ねることができるね!」


 泣きながら引いているスカサハとは裏腹に、唯一、リンディだけが手放しで喜んでいた。


 彼女は度胸があるからね。他の二人は今回の侵入でもうヘトヘトになっている。


 だが、秘密裏に彼女たちを運ぶとなるとあの方法しかないのもまた事実だ。


 ここは甘んじて受け入れてもらおう。


「うぅ……想像しただけで吐き気が……」


「そんなに? 二度もやればなれるさ。なに、侵入さえできればあとは簡単。聖女を見つけてその秘密を暴けばいい」


 もしもその時、件の聖女が本当に聖女だった場合はどうするのか。


 その問いと答えは誰も口にしない。


 口にすれば不幸なことが起こるかもしれないからだ。


 俺個人としては、聖女は二人いてもいいとは思う。それだけで戦力が増えて未来は明るくなる。


 その上でスカディが聖女に戻ることを拒否したら——その時は、彼女の将来は俺が守る。


 なに、女の子三人を養うくらいなら俺にだってできる。


 騎士団にはいられないかもしれないが、この世界には冒険者なる職業もあるからね。


 適当にモンスターを狩っていればなんとかなるだろう。


 そんな楽観的な思考のもと、今後の計画をスカサハたちと話し合う。


 雑談も混ざり、話し合いは夜通し行われた。




 ▼△▼




 早朝。


 一度騎士団の宿舎へ戻った俺は、そこで団長のエリカから、


「まずいことになったわ」


 という知らせを受ける。


 彼女の部屋に呼び出されたのは俺とイルゼの二人。


 この三人で集まってなおかつ「まずいこと」と言えば、どう考えたって聖女スカディの件しかない。


 まさかもうバレた? そう思った俺に、エリカは言った。


「聖王国から元聖女スカディの指名手配書が届いたわ。ほかの二人の分までね」


「意外と早かったですね。向こうはそれだけスカディを捕まえたいってことですか」


「おそらくね。でもそれだけじゃない」


「え?」


「聖王国から使者が来るのよ。たぶん、下手するとその中に異端審問官が混ざってくる可能性もあるわ」


「異端審問官……」


 聖王国の闇の部分を引き受ける最強の部隊。


 話によると、メンバーの大半がギフト持ちで構成されておりかなり荒事に長けているとか。


 原作だと出番はない。なぜなら原作の敵は人ではなく魔王だ。


 人間同士で争う描写はほぼなかった。


 だが、わざわざ視察? のために異端審問官を送り込んでくるか……?


 そこまで連中は本気なんだと思うが、それにしたってかなり急いでいる節がある。


 聖女スカディがここまで逃げ切れたかどうかも怪しいのに。




「ネファリアスくん、わかってる? 例の約束」


 隣では勇者イルゼが真剣な表情を作っていた。


 俺は頷く。


「ああ。スカディのことがバレたら大人しくスカディを突き出すとかいうやつだろ」


「うん。もし異端審問官もいるなら注意が必要だ。そして僕は君の味方にはなれない」


「解ってるさ。それでいい」


 こっちにはこっちの考えがある。


 そしてもしもバレたときは、騎士団を辞めて俺は彼女の味方になることを決めた。


 ゆえに、念のためエリカに伝えておく。


「エリカ団長」


「なにかしら」


「俺がもしここに顔を出さなくなったら——退団させちゃってください」


「なっ!?」


 驚いたのは勇者イルゼ。エリカは表情を変えない。最初からそう言われることがわかっていたかのように。


「ネファリアスくん……まさか、そこまで彼女たちの肩を持つつもりなのかい?」


「ああ。俺は必ず守る。守らなきゃいけないんだ」


 この誓いは、俺が生きる理由でもあるのだから。




———————————

あとがき。


本日早朝、新作、

『悪役貴族の末っ子に転生した俺が謎のチュートリアルとともに最強を目指す(割愛)』

を投稿しました!


このあと20時頃に2話目を更新します!

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