第168話 間が悪い

 団長エリカに言った。


 俺がもし騎士団に顔を出さなくなったら退団扱いにしてほしいと。


 場合によってはほぼクビが確定している。


 なぜなら俺は、このあと聖王国に向かわなくちゃいけないからだ。


 確実に騎士団を長期的に開けることになる。




「……わかったわ」


「エリカ!」


 エリカが頷くと、勇者イルゼは乱暴に口を荒げた。


 しかしエリカは言う。


「これはネファリアス本人の問題よ。いくらあなたでも口出しは許されないわ」


「で、でも……ネファリアスくんがいなくなるなんて……」


「ウチとしても痛いわ。最強の剣士なんだからね」


「あはは。ありがとうございます。二人にそう言ってもらえるだけで俺は嬉しいですよ。でも、やるべきことがあるので」


 そう言ってソファを立ち上がる。


 二人の視線を受けながら、最後に俺は告げた。


「全部終わって、俺の罪が許されたなら——そのときは、また一緒に話しましょう」


 靴音を鳴らしながら部屋から出ていく。


 イルゼが小さく、


「ネファリアスくん……なんで……」


 と呟いていたが、その答えは出せなかった。


 君に道を示すのは俺の役目じゃない。君は君の理由で道を示す。


 きっとそれが正しい未来に繋がるはずだから。




 ▼△▼




 俺は騎士団を抜ける支度をして宿舎から出た。


 目指すはスカサハたちのいる宿だ。




 急いで彼女たちのもとへ行くと、ノックも忘れて扉を開けてしまう。


「大変だ! みんな話を聞いてくれ——」


 ガチャリ。


 扉を開けた先には、着替え途中のスカサハが。


 彼女の下着姿を見てしまう。


「…………あ」


 やべ。


 やっちまったと思った俺は、思わず体が固まった。


 スカサハのほうも固まる。俺の顔をじっと見たあと——、


「や、——いやああああああ!」


 絶叫。吠えた。


 その咆哮が俺の筋肉を刺激し、なんとか振り返り部屋から出ることに成功する。


 扉に背を預け、


「ご、ごごご、ごめん! スカサハ! まさか着替えているとは思ってなくて!」


 と言い訳を始めた。


 中から声は返ってこない。だが、わずかに衣擦れの音はしたから着替えている最中だろう。


 ドキドキと痛いくらい早鐘を打つ心臓。


 なんて気まずいことをしたんだという後悔と罪悪感がすごかった。


 何より……スカサハ、結構いい体型してたなぁ、と思った自分にさらなる罪悪感が。


 そこへ、がちゃりと隣の扉も開いた。


 顔を出したのは、これまた——下着姿のリンディだった。


「あ! やっぱりネファリアス様だ! どうしたの、帰ってくるの早いね」


「りりり、リンディ!? なんで下着姿で出てきてるんだ!」


「え? だって相手はネファリアス様だもん。別にこれくらいいいよ~」


「——よくありません!」


 がちゃりと今度はシロの部屋が開き、しっかり服を着ていた彼女がリンディを部屋に押し込む。


 スカサハの下着は覗いちゃったし、リンディは見せ付けてくるし……なんでこう、俺は間の悪い人間なんだ。


 反省しながらも、脳裏には二人の下着姿がくっきりと浮かんでいた。


 ……なかなか忘れることはできないかもしれない。




 ▼△▼




 騒動は一旦落ち着く。


 着替えが終わった二人が出てきたことで、話し合いという体はぎりぎり保っていた。


 顔の赤いスカサハ。元気いっぱいのリンディ。


 共に下着姿を見られたはずなのに、どうしてこんな差があるのか。


 そんな疑問を脳裏に浮かべながらも俺は口を開く。


「さ、さっきはごめん……ちょっと急いでて……」


「いえ、その……こちらこそ、変なものを見せました」


「ぜんぜん変じゃない! 綺麗だったよ、スカサハ!」


「~~~~!?」


 あ、やべ。


 またしても俺は失敗した。


 スカサハの頬がさらに赤くなる。


 でも、不思議とスカサハは俺への嫌悪感などはなかった。小さく、


「ほ、本当……ですか?」


 とこちらを見る。


 俺は激しく何度も頷く。


 すると彼女の隣で話を聞いていたシロが、


「痴話喧嘩はまたあとでやってもらえますか? 今はネファリアス様が持ち帰った情報でしょう?」


「痴話っ!?」


 あ、ダメだ。


 シロの言葉がとどめになってスカサハが倒れた。


 顔から激しく湯気を出して「ちわわわわわ」と呟いている。


 ちょっと面白いと思った俺はいけない子。


 ごほん、と咳払いしてから本題を切り出した。このままでは時間の無駄だ。




「とりあえず急に来てごめん。俺もさっき聞いたばかりの重大な話があるんだ」


「重大な話、ですか?」


「なんだろう。不安すぎますね!」


 スカディ以外の二人が反応を示し、俺は頷くとともに続ける。


「実は……聖王国から使者が来るっぽい。おまけに三人の指名手配書付きだ」


「!?」


 三人はそろって驚く。


 気絶しそうになっていたスカサハとて、その言葉は聞き逃せなかった。


 起き上がり、叫ぶ。




「嘘……もう、私たちバレたの!?」




———————————

あとがき。


よかったら反面教師の新作、

『悪役貴族の末っ子に転生した俺が謎のチュートリアルとともに最強を目指す(割愛)』

を見て応援してくれると嬉しいです!

面白いですよ!

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