第153話 二対一

 翌朝。


 夜中のメンバーと夜の番を交代してから眠った俺やイルゼたちが目を覚ます。


「ん……んー!」


 元気よくイルゼが俺の隣で背筋を伸ばす。


 割と適当に雑魚寝したからか、俺の隣はイルゼやフィオナたちで固められていた。


 いつの間にコイツらは俺の隣にいたんだ……?


「あら、おはようネファリアス。起こされる前に起きるなんて殊勝ね」


「おはようございます、団長。割と早起きなほうなんで」


「だったら朝食前に訓練するから顔を洗ってきなさい。イルゼもね」


「……僕も? っていうか、訓練?」


 ごしごしと目元をこすりながらイルゼが首を傾げる。


 その様子に団長エリカはにやりと笑った。不思議と嫌な予感がする。


「ええ。昨日、イルゼも言ってたじゃない。ネファリアスと戦う、みたいなこと」


「あー……あれは冗談だし、別に僕は……」


「まあまあ。せっかく三人でいるんだから、たまには剣でも交えましょうよ」


「俺たちが戦うってことですか?」


「そういうこと。二対一でね」


 二対一?


「エリカが一人か~。大変だね!」


「ぶっ飛ばすわよ。なんで一番強いネファリアスがイルゼと手を組むのよ。昨日、ネファリアスと戦いたいって言ってたのあんたでしょ」


「だからただの冗談だってば~。そりゃあ、ネファリアスくんと戦うのはいい経験になるけど……」


「なら準備しなさい。私とイルゼが組んでネファリアスが一人よ」


 スッとエリカはイルゼに右手を差し出した。


 その手をジッと見つめたあと、渋々イルゼが握る。立ち上がった二人を追いかけるように、俺も川辺のほうへ向かった。


 これから二対一か……朝からカロリー消費が大きいね。




 ▼△▼




「おい聞いたか? 早朝訓練で団長たちが戦うらしいぜ」


「団長が? 誰と?」


「勇者様と組んでネファリアスと戦うらしい」


「ネファリアスひとりか!? いくらなんでも厳しそうだな……」


「俺は団長が勝つと思うぜ。さすがにな」


「ネファリアスは強いわよ。だからこそ、団長もひとりにしたんでしょうし」


「リナリーさんの言う通りです! 私はネファリアス先輩が勝つと思います!」


「アビゲイルもネファリアス様を応援します!」


 遠巻きに騎士たちが訓練内容で盛り上がっていた。


 俺とイルゼ、そしてエリカの三人は、そんな騎士たちに囲まれる形でひらけた場所の中央に立つ。


 エリカは槍を持っていた。当然、木製の安全なやつだ。


 対する俺とイルゼは剣を。エリカとイルゼが二人並んで相談しあっていた。


「さすがに俺が不利な気がする……」


 剣使いふたりを相手にするならともかく、エリカは範囲が取れる槍を使う。


 それだと間合いの調整が各々で違うから、そこそこ苦戦しそうな気がした。


「なーに弱音吐いてるのよ。あなたは強いから自信持ちなさい」


「自信はありますよ」


「ムカつく」


「どっちですか」


 理不尽なエリカの逆ギレをもらう。


 隣ではイルゼがくすくすと笑っていた。


「たしかにネファリアスくんは強いね。でも、僕たちも全力でいくよ? スキルは無しだけど、数の有利で潰す!」


「そうね。こっちは有利を最大に活かして戦わせてもらうわ」


「別にいいですけど……エリカ団長はスキル使わないでくださいよ。前にスキル使ってましたからね」


「あれは油断すると出ちゃうのよ……まあ、そのときはごめんなさいってことで」


 そう言ってエリカもイルゼも武器を構えた。


 俺も剣を正中に構えて相手の動きを待つ。




「それじゃあ……スタートってことで!」


 エリカが宣言し、早速、地面を蹴って肉薄してくる。


 イルゼも横から俺のほうへと迫っていた。時間差を作って畳み込む一般的な戦法だ。


 ひとまず槍を振るうエリカの攻撃を防ぎながら、横から接近してきたイルゼにも対処する。


 エリカはイルゼが接近するなりすぐに距離を離した。槍の長所を活かした中距離での突き技をメインに使用する。


「はああああ!」


 対するイルゼは、いつも通りに剣を振った。


 エリカの突き技は攻撃のヒット範囲が狭い。回避で十分に凌げるし、後ろに下がれば逐一近付くロスが発生する。


 イルゼの攻撃も激しさはあるが防御は余裕だ。問題があるとしたら、徐々に後ろに押されてエリアの外に出ちゃうってこと。


 他の団員もいるし、あんまり下がりすぎには注意だな。


「——っと」


 ある程度下がったら、今度は攻めに転じる。


 イルゼの攻撃をかわし、エリカの突き技を剣で防ぎながらエリカに近付いた。


 剣と槍。最初に崩すなら槍でしょ。近付かれれば槍は何もできない。


「ッ! そうくると思ってたわよ!」


「!」


 エリカは槍を横にして俺の攻撃をガード。さらに距離を詰めようとすると、後ろへ下がりながら体を左に捻る。


 前より動きがスムーズかつ近接を意識したスタイルに変わった。


 そのまま、遠心力を活かして槍を横に振るう。


 俺は、攻撃範囲が広がったエリカの攻撃を上に跳んで避けた。


 エリカの後ろに着地すると、すぐにイルゼが食いついてくる。


 なかなかウザいな……イルゼがずっと張り付いてくる。




———————————

あとがき。


本日の20時3分に新作を投稿します!

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