第151話 強さ

 水浴びを終えて、野宿の支度をする。


 慣れた様子で騎士団のメンバーがテントを設置していた。


「アビゲイル、どう? たてられそう?」


「はい。やり方は親切にフィオナさんが教えてくれますから」


「へぇ。フィオナだってまだ慣れてないはずなのにねぇ」


 ちらりと、彼女の隣にいるフィオナを見ると、


「ッ! うるさいですよ、先輩! 少しは先輩風を吹かせるくらい良いでしょ!」


 とフィオナが抗議の声をあげた。


 くすりと俺は笑う。


「先輩って……ほぼ同期じゃん、お前ら」


「私のほうが先に入団してるんですから、先輩は先輩なんですぅ」


「はいはい。後輩に教えられて偉いねぇ、フィオナは」


 なでなで。なでなで。


 可愛らしい後輩の頭を撫でる。


 彼女は顔を赤くして、


「~~~~! 私のこと馬鹿にしてますよね、先輩!」


 と怒る。


 それでも、「やめてくれ」とは言わない。撫でられるがままに彼女は動かなかった。


「いいなぁ……アビゲイルも撫でてください、ネファリアス様!」


「なんで?」


 急にアビゲイルまで頭を差し出してアピールしてくる。


「撫でられたいからに決まってるじゃないですか!」


「は、はぁ……別にいいけど……」


 もう片方の手で今度はアビゲイルの頭を撫でる。


 彼女は気持ちよさそうに笑った。




「ちょっとあなたたち……なにイチャイチャしてるのよ」


「団長」


 二人の頭を交互に撫でていると、背後から団長エリカの声が飛んできた。


 振り返ると、エリカの呆れた表情が見える。


「別にイチャイチャしてませんよ。スキンシップです」


「どっちでもいいけど、ちゃんとテントは張ってるの? 他のメンバーはもう張り終えたわよ」


「フィオナとアビゲイルが張ってくれましたよ。見張りとか料理の担当は?」


「もう決まってる。料理は始まってるんじゃない? 見張りは最初が——」


「はいはーい! 私とネファリアスが見張りします! 任せてください!」


「……リナリー?」


 急にリナリーが会話に割り込んできた。


 手をぶんぶん振って自らの意見を主張する。


「なんであなたとネファリアスなのよ。他のメンバーでも……」


「部下が自主的に夜の番をしようっていうんだからいいじゃないですか!」


「なんだか怪しいわ」


「ぎくぅっ!?」


 エリカの反論に、リナリーはわかりやすく動揺した。


 視線が左右へいったりきたり。汗もかいている。


「その様子……どうせネファリアスと見張りがしたかったってところかしら?」


「うぐっ!」


「図星ね。あんたと同じ意見を述べてきた部下が何人もいたのよねぇ、不思議なことに。しかも全員女性ときた」


「うぅ……」


「二人きりとか、これだけメンバーがいるのにおかしな提案だとは思わない? 見張りだってそれなりの人数がいたほうがいいに決まってるじゃない。いざってときに対応できるようにね。そうでしょ、リナリー?」


「……は、はいぃ」


 リナリー、撃沈。


 エリカの鋭い視線を受けて何も反論できなくなってしまった。


 すると今度は、俺の背後から声が生まれる。


「で、でしたら! ネファリアス先輩とリナリーさんの見張りに、私も混ざりますよ!」


「アビゲイルも問題ありません!」


「やたら女性比率が多いわね……それに関してはどう思う? ネファリアス」


「そこで俺にパスするんですか、団長……」


 そんなこと言われても困るよ。


 俺は別にメンバーの誰とでも仲がいいし、誰とだって組める。


 だから、


「誰でもいいですよ。しいて言うなら、女性は少なくしてあげてください」


「その心は?」


「お肌に悪いですから」


「「「キュキュッーン!」」」


「え?」


 なんか話を聞いていたリナリー、フィオナ、アビゲイルがおかしな声をあげる。


 まるで奇声……効果音のようだった。


「そう。実にネファリアスらしい返答ね。私も同じ気持ちよ。肌に悪いとか関係なく、女性の比率が高すぎるから、しっかり男性も混ぜないとね」


「それでよろしくお願いします」


 用件は済んだと言わんばかりに、団長エリカはリナリーを連れてその場を立ち去っていった。


 残された俺たちは、テントに不備がないか確認した後に……。


「それじゃあ、そろそろ食事の時間らしいから、手を洗っていこうか」


「はーい!」


「わかりました」


 元気よくアビゲイルが答え、フィオナが頷く。


 二人と一緒に川辺に近づくと、そこで手を洗ってから調理場に向かった。




 ▼△▼




「やあ、ネファリアスくん。隣空いてるよ」


 食後。軽いストレッチやら水浴びをしたメンバーたちが一斉に就寝に入る。


 見張りが男女混合。女性の数が圧倒的に少ないため、必然的に男性メンバーが大半を占める中、俺はひとりの男性——勇者イルゼが座っている席の隣に腰を下ろした。


「今日は暖かいね。夜の番には適している」


「そうだな。まさか勇者様が見張りをするとは思わなかったけど」


「それはどういう意味かな? 僕だってみんなと一緒に頑張るさ」


 くすりとイルゼは笑う。互いに飲み物を一口含むと、ややしんみりとした時間が流れ、


「ねぇ、ネファリアスくん」


 唐突に、イルゼが真剣な声色で問うた。




「正義って……強さって、なんだろうね」

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