第150話 水浴び

「水浴び……そうね。私も結構汗をかいたし、そこに転がってる連中も入りたいでしょうから問題ないわ」


「やったー! それじゃあ早速、彼らを起こして一緒に入ろうか」


 嬉々としてイルゼは地面に転がっている団員たちを起こし始める。


 騎士たちは水に濡れてもいい特注の服を着ている。下着に近い……どちらかと言うとスポーツウェアに近い、かな?


 なんでも、モンスターの素材から作られている水を弾く素材らしく、それがあるから男女揃って水浴びができる。


 ……できるだけであって、もちろん視界の暴力はあるが。


「これから水浴びですか? 私、すっごい汗をかいて臭うと思うのでぜひ入りたいです!」


「アビゲイルも乙女として参加を希望します!」


「はいはい。ネファリアスも入るでしょ?」


「俺は別にそんなに汗はかいてないので……」


「なに言ってるんですか、ネファリアス先輩! 入る入らないでいったら、入るほうが絶対にいいに決まってます!」


「照れてないで一緒に入りましょうよ、ネファリアス様!」


 エリカの手が俺の首から離れたあと、今度は新人二人に両脇を固められた。


 たしかに汗は落としておいて損はない。入ることに意味があっても、入らないことに意味はない。


 やれやれと肩を竦めながらも、新人二人に無理やり引っ張られていくのだった。




 ▼△▼




 少し歩いて、騎士団のメンバー全員で川辺に到着する。


 そこは割と広い川辺だった。


 座るスペースがあるのはもちろん、川だから団員全員が入っても余裕がある。


「おお! ここが騎士団のメンバーがよく利用する川ですか!」


「素敵です! 早く入りたいですね!」


 フィオナが驚き、アビゲイルが感動していた。


 他のメンバーたちも、男女揃って羞恥心なんて捨てている。水泳も可能な服以外は外して、勢いよく川へ飛び込んでいった。


「さ、私たちも入りましょう、イルゼ」


「うん、そうだね」


 エリカとイルゼも一緒に川へ入る。


 エリカは体型がすごく女性らしいから、服を着ててもわかる胸の膨らみとか、存在感がすごかった。


 ちなみに、それで言うとフィオナは平らなほう。アビゲイルはなかなかに大きい。


 そんな二人に腕を掴まれ、俺は強制的に川へ——放り投げられた。


 大きな水柱をあげて水中に沈む。


 ——アイツらぁ……!


 服は脱いでいたからいいが、こんなことしなくても入るっつうの。


 すすいっと水面に浮上する。


 すると、そばにはすでに二人の影が。


「どうですか、ネファリアス様。気持ちよかったですか?」


「あはは! その顔は「ふざけやがって」って顔ですよね? 先輩に一矢報いることができて、私はたいへん満足です!」


「そうか。なら今度は俺がお前を沈めてやるよ」


「え?」


「もちろんアビゲイルもな」


「え?」


 二人揃って頭上に〝?〟を浮かべた。


 直後、勢いよく二人は二手に分かれる。だが、笑止!


 鍛え抜かれた俺の反射神経が、二人が逃げる前にその腕を掴む。


「ふふふ……どこに行こうっていうんだい? 逃がさないよ」


「ね、ネファリアス様……そのお顔は、少々、まずいと思います!」


「邪悪な顔をしています! ダメですよ、ネファリアス先輩!」


「まあまあ。たまには後輩二人と楽しく遊んでやらなきゃな……ふっ!」


 俺はそう言うと、二人の腕を掴んだまま上空に放り投げた。


 俺くらいの筋力になると、歳の近い女性ふたりを投げ飛ばすくらい余裕だった。


 二人は二十メートルくらい上にあがると、あとは重力の影響を受けて川に飛び込んだ。


 そのまま沈んでいく。


「お、おい、ネファリアス……お前やることが過激だなぁ」


「いいなぁ……」


「え? リナリー、いま……」


「な、なんでもない! なんでもないから!」


「ぐえっ!?」


 なぜかこちらの様子を見ていた男性団員が、リナリーに殴られて川底に沈んでいった。


 俺は首を傾げる。


 直後。


 ————ダバァッ!!


 水面から二人が急接近。からの、前後を挟んで抱きしめてきた。


「お、お前ら……!?」


「これは復讐ですよ、ネファリアス先輩。許しません。必ずもう一度ネファリアス先輩を沈めてみせます!」


「もう一度って言ってる時点で、普通に両成敗だろうが! というか……」


 前も後ろもむにむにと柔らかいものが当たっている。


 かなりまずい状況だ。周りには他の団員もおり、こちらを見ては、


「ははっ。ネファリアスがモテモテだぞ~」


「相変わらず女性人気がすごいな、アイツ」


「きゃー! 私たちも混ぜて~」


 とかなんとか言ってやがる。


 そして、言葉通りに俺たちを見ていた他の女性陣も混ざろうとしてきた。


 これはまずいと俺はフィジカルを発揮する。


 迫ってきた女性たちに対して、フィオナとアビゲイルを放り投げた。


 ボウリングみたいに女性たちが新人を受け止めて水に沈む。


 それを見送ってから俺は距離を離した。


 そこへ、


「ちょっとあなたたち! さっきから騒ぎすぎ——ふぎゃっ!?」


 怒りを浮かべたエリカがやってきて、途中で足を滑らせて転んだ。


 オチがついたな。

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