第141話 追加

 空を飛んでいたカラスのようなモンスターが落ちる。


 体は焼かれ、地面に落ちるなりその姿を消した。


「おお……! 今のがネファリアス先輩のスキルですか?」


「そうだよ。遠距離攻撃用の魔法スキルだね」


「噂によると、多種多様なスキルをお持ちとか。面白いですよね、ネファリアス先輩のギフトは」


「俺のギフト? システムのことか」


「システム? それが名前なんですか?」


「うん。面白い名前だよね」


 彼女に言っても理解できないだろうが、俺にとっては面白い名前だ。


 まるで世界の一部のような……それでいて世界すべてのようなギフト名。


 その名に恥じぬ働きをしてくれる。


「私はその言葉の意味を理解できないので、面白いかどうかは微妙ですが……羨ましくはありますね」


「羨ましい?」


「はい。私、ギフト持ってませんし……」


「それが普通だよ」


 しゅん、とやや落ち込んだフィオナに笑いかける。


「ほとんどの人間はギフトを持っていない。いきなり授かる人もいるらしいけど、たいていが一般人としてその生を終える。その上で、フィオナはどうするかじゃない?」


「どう……するか」


「うんうん。地力を上げるか、逃げるか、女の子らしくするか——とかね」


 正直、彼女にはたくさん選択肢があるように思える。


 俺みたいに、最初から最悪の展開が待っているようなキャラじゃない。


 フィオナはモブだ。モブだからこそ、物語の法則に左右されない。それは少しだけ……羨ましかった。


「もちろん私は強くなります! エリカ団長やネファリアス先輩すら超えてみせる……とは言いませんが、第三騎士団の中でもトップクラスに強い騎士にはなりたいですね!」


「いいね。やる気があって結構。そういう子は好きだよ」


「すっ——!?」


 フィオナが動きを止めた。ぷるぷると肩が震えている。


 気のせいか顔も赤かった。口元を押さえて「あわわわわ」と呟く。


「ず、ズルい! はい! はいはい! アビゲイルも頑張ります! フィオナさんと同じでギフトは持っていませんが、必ず強くなってみせます! 自分を守れるくらいには!」


 フィオナの隣に座っていたアビゲイルも、手をぶんぶん振りながら自分をアピールする。


 今回の新人は揃ってやる気に満ちていた。俺は嬉しいよ。


「そっか。二人がそんなにやる気まんまんで俺は嬉しいよ」


 にっこりと微笑む。


 途端に二人は顔を強張らせた。


 互いに隣を向いて見つめあう。


「ね、ねぇ……アビゲイルさん」


「は、はい……なんでしょうか」


「私の気のせいかもしれないんだけど、すごく嫌な予感がするの」


「奇遇ですね。アビゲイルもネファリアス様の顔に不安を感じました」


「奇遇ね」


「逃げますか?」


「いやいや、逃がさないよ?」


 すたすたと二人の前に歩み寄る。


 俺が近付いただけで二人は体をびくりと震わせた。


 ちょっと失礼な反応だが、ビビる理由は解っている。そして鋭いな、とも思った。


「ふふ……いい反応だけど、ワンテンポもツーテンポも遅かったね。二人のやる気を見て……俺もさらに過酷な訓練メニューを課そうと思うんだ」


「断固として拒否します!」


「我々はネファリアス様に優しさを求めます!」


 フィオナとアビゲイル。両者揃って手をあげる。


 主張の際には自らを主張する。なんて利に適った行動だ。


 しかし、発言は受け入れられるものではなかった。俺は首を横に振り、悲しい結論を出さなきゃいけない。


「残念ながら……もう遅いんだ、二人とも」


「「え?」」


 同時に首を傾げる新人コンビ。


 俺は人差し指を彼女たちの後ろに向けた。ゆっくりと二人の視線が後ろに移動する。


 その先には……、


「グオオオオオオ!!」


 緑色の人型モンスターが、勢いよくこちらに走ってくるのが見えた。


「あ、あれは……オーク……!?」


「中型くらいのモンスターだね。正直そこまで強くないけど……数は四体くらいか」


 ふんふん。悪くない。


 顔を真っ青にした二人に、努めて笑顔で俺は言い放った。




「ねぇ……二人とも。オークをひとり二体相手にするのは……無理かな?」




 ▼△▼




 ごろん。


 フィオナとアビゲイルが、ぼろぼろの状態で全身を地面に投げ出す。


 服が汚れるよ、とか。無防備な姿を外で晒しちゃダメだよ、とか。言いたいことはたくさんあったけど……。


 まずはそうだね。労いの言葉から入ろうか。


「いやー! お疲れ様、二人とも! すごいねぇ。半分は俺が倒したとはいえ、しっかり二人でオークを倒せたじゃないか!」


 寝転がる二人の前でパチパチと拍手する。


 疲れきった二人は、こちらを見上げてジト目で睨んだ。


 その瞳に宿った感情は、とても同僚を見る目じゃない。あまりにも冷たくてゾクゾクする。


「鬼畜……」


「外道……」


「言いたい放題だね、君たち。もっと戦いたいならそう言ってほしいなぁ、素直に」


「冗談に決まってるじゃないですか、ネファリアス先輩! 先輩最高! 転んで頭打て」


「フィオナさんの言う通りですよ! ネファリアス様は誰よりも気高いです! チッ!」


 ん? いま、ハッキリとフィオナは酷いこと言ったよね? アビゲイルも舌打ちしてたし。


 俺は二人のためを思ってオークを任せたのに、そこまで怒られるなんて……悲しい!


 内心で冗談を吐きながら、拍手を止める。





「やれやれ。二人をちゃんと強くしてあげたのに、厳しいねぇ」


「「どこがですか!!」」


 おお、ハモってる。

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