第140話 頑張ったね
——がさり。
戦闘が終わって少しすると、またしても近くの茂みで物音がした。
そちらへ、全員で視線を向ける。
「ま、まさか……」
「また、ですか!?」
フィオナもアビゲイルも戦慄していた。
今しがたようやくモンスターを倒したのに、「連戦!?」と顔が物語っている。
そして、彼女たちの予想通りにモンスターが出てきた。
今度はファンタジーものの定番、ゴブリン軍団だ。
棍棒や短剣を持ち、下卑た顔でこちらを見つめる。
「あれはゴブリンだね。二人とも頑張って!」
グッと親指を立てて応援する。
二人からまたしても畜生を見る目を向けられた。
心外だ。二人のスキルアップのために任せているのに。
「ネファリアス先輩も手伝ってくださいよ」
「俺がやったら二人の修行にならないだろ?」
「でも、連戦はキツいですよぉ」
「大丈夫。怪我はないから戦えるよ」
「「鬼畜だ……」」
二人の声がハモる。
同時にゴブリンたちが走り出した。
遅いが確実に二人へ迫っている。
渋々、フィオナとアビゲイルが立ち上がった。それぞれ剣を構える。
「もう……! ゴブリンごときが鬱陶しい!」
「こうなったらとことんやりますよ!」
うんうん。それでいいそれでいい。
人間、無理やりやる気を刺激したほうができるってなものだ。
最初からやる気がないと本当に何もできなくなる。
自分はやらなきゃダメだ。やるべきだと追い込むことで、本来のパフォーマンスを発揮できるのだ。たぶん。
地面を蹴って、今度は逆にモンスターへ襲いかかる二人を見て、成長を実感する。
「ありがとう、ゴブリンくんたち。君たちの犠牲は無駄にはならないよ」
あのアビゲイルが自分から攻撃しているではないか!
それもこれも、空気を読まずに突撃してきてくれたゴブリンたちのおかげだ。
彼らに合掌し、殲滅されるのを眺める。
フィオナたちの動きは荒くはなったが、それでいて油断はしていなかった。
狼との戦闘で、無駄な緊張は解けたっぽいね。
再び、二人とゴブリンたちが奏でる不協和音を聞きながら、俺は指摘を始めるのだった。
▼△▼
「「ハァ……ハァ……」」
すべてのゴブリンが狩り尽くされた。
戦闘が終了した途端に、またしても二人は地面に座る。
額には大粒の汗が滲んでいた。
「はーい、お疲れ様。やればできるね、二人とも」
「そ、そう……でしょう……ハァ……」
最も多くのモンスターを討伐し、大きく勝利に貢献したフィオナ。
最初は俺のことを畜生だと思っていたくせに、勝ったら勝ったで気持ちよさそうだ。
アビゲイルより激しく動いていたのに、まだまだ元気そう。
「あ、アビゲイル……は……もう、無理……です」
片やアビゲイルは、倒れそうなほど疲れていた。
フィオナほど動いてはいないが、普段とはまた違った筋肉を動かし、なおかつ緊張感が肉体へ負荷をかけている。
剣を地面に突き刺して杖代わりにしていた。
「あはは。いい感じに体が温まってきたね」
「温まったどころか、燃え尽きそうな気配なんですが……!?」
「アビゲイルは大げさすぎるよ。少し休めば体力も回復するさ」
そうやって人は強くなっていくんだよ。
「うぅ……ネファリアス様の知られざる鬼畜さを見てしまい……アビゲイルは少しだけドキっとしました」
「あー、なんだか解ります。ちょっと優越感はありますよね」
「何の話よ」
二人で通じ合ってるようだが、当の本人はさっぱりだった。
俺は鬼畜じゃないし、それを知っていたからと言って、二人にプラスになるようなことは……ないと思う。
「ネファリアス先輩には関係ありません。気にしないでください」
「俺が話題に出てるのに?」
「出てるのに」
「そ、そうなんだ……」
ゴリ押し感えぐいな!
けど、彼女たちが詮索しないでほしいと言うなら俺は構わない。
女の子には女の子にしか通じない話題もあるのだろう。
しいて言うなら、その話題が俺じゃなきゃよかったなぁ。そう思って視線を周りへ向ける。
「カー! カーカー!」
「あっ」
モンスター発見。
今度は飛行タイプのモンスターだ。赤い瞳をジッと俺に向けて叫んでいる。
「モンスターいたよ。どうする?」
「ネファリアス先輩に任せます。どうやら一匹のようですしね……」
「アビゲイルももう少し休みたいです」
「了解。たしかにフィオナが言うように、アイツ一匹だけじゃあ何の足しにもならないね」
サッと手を上にかざす。
狙いはカラスのようなモンスター。使うのはスキルだ。
こういう遠距離攻撃に適した魔法スキルを俺は持っている。
「————火属性魔法スキル」
唱え、手のひらから小さな炎の球体が飛んだ。
真っ直ぐに、それでいて高速でモンスターに迫る。
直撃。
小さな爆発を起こしてモンスターは燃えた。
あっさりと地面に落ちて絶命する。
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