第138話 長所と短所
「……守りに、こだわりすぎた?」
俺の話を聞いて、アビゲイルが首を傾げる。
うんうんと頷いてから、
「そう。アビゲイルはひたすらにフィオナの攻撃を防いだ。防ぐことしかしなかった」
「あ……」
賢いアビゲイルは、俺が言わんとすることの意味をすぐに理解した。
自己を見つめられる奴は成長できるよ。
「わかったかな? アビゲイルは守るだけなんだ。攻撃ができていない。一度隙を作ったっていうのに、相手の動きを見て防御体勢になってしまった。それがアビゲイルの恐怖か、癖かはわからないけどね」
「癖……ではありませんね。恐らく前者かと思います」
「怖いのか。でも、それは人間として正常な感情だ。ましてアビゲイルは、これまで争いとは無縁の人生を送ってきた」
そこから一転、騎士の世界に足を踏み入れたアビゲイル。
そりゃあ刃を向けられるのは恐ろしい。殺意をぶつけられるのは怖い。
ビビって防御一辺倒になるのもわかる。
こういうのは、経験と慣れが必要になるからね。
初心者に陥りがちな例だ。
「だから自分の恐怖を恥じる必要はない。誰だって通る道で、誰だって慣れていく道だ」
「慣れますかね?」
「エリカと訓練してればすぐに慣れるさ。ボコボコにされるだろうからね」
そういう意味でも、エリカが相手というのは理にかなっている。
最初に痛みと恐怖を取っ払えれば、あとは基礎を積むだけでいいからね。
かなりの荒療治ではあるが、アビゲイルみたいな初心者にはよく利く。
たぶん、心が折れないかどうかも同時に図っているのだろう。
「恐怖や痛みの克服……ですか」
「無理をしない範囲でね。無謀とはまた違ったものだから」
「わかりました。ネファリアス様のご助言、かならず糧にします!」
「よろしい。——なんて偉そうなことは言わないけど、アビゲイルはぐんぐん伸びそうな感じだね。期待してるよ」
「はい!」
元気よく答えたアビゲイルから視線を外す。
その先には、今か今かと感想待ちのフィオナが。
嬉しそうなところ悪いが、君にも注意はするよ?
「……それで、フィオナだけど……」
「はい! フィオナのことも褒めてください!」
「その前に欠点の指摘ね」
「うぐっ」
ですよねぇ、と言わんばかりにフィオナの顔が曇る。
彼女は喜怒哀楽豊かで割と見ていて面白い。
なるべく傷つけすぎないように告げた。
「アビゲイルが防御一辺倒だとしたら、逆にフィオナは攻撃一辺倒すぎる」
「攻撃……一辺倒、ですか」
「うん。フィオナは勝ち気が勝りすぎてる。その意思は大事だけど、反撃されたときの対処が雑すぎるね」
「むむっ……たしかにリナリーさんにも同じようなことを指摘された気がします」
「わかっているなら意識的に直そうか。そうすれば、フィオナは劇的に強くなれる」
「本当ですか!?」
さっきまでの落ち込みはどこへやら。急に笑顔を浮かべて彼女は俺のそばに寄った。
ぐいぐいっと服を引っ張って続きを促す。
「ほ、本当だよ。フィオナは体力もあるし、鍛えればかなりいい線いくんじゃないかな?」
「鍛えれば……で、では! 試合をする条件を満たしたということで……」
「もちろん反故にはしないよ。ちゃんとフィオナの面倒を見るさ。どうせ暇っちゃ暇だしね」
アビゲイルの相手はほとんどエリカがする。
エリカが仕事で忙しいときは俺が相手をする。
一応、余裕はあった。
「やったー! ネファリアス先輩に教われる!」
「言っとくけど、俺の訓練メニューもなかなか厳しいよ?」
「うっ。そ、そうなんですか?」
フィオナのテンションが一瞬にして戻る。
嫌そうではないが、ごくりと生唾を呑み込んだ。
「もちろん。訓練は厳しいほどにいい。さっきも言ったけど、フィオナは体力もあるから鍛え甲斐がありそうだ」
「あ、あの~……あんまり私を酷使させるような真似はしないでほしいんですが……」
「え? 強くなりたいんだろう? 頑張ろう頑張ろう」
「ネファリアス先輩って、意外と鬼畜……」
「なんか言ったかな?」
にんまり。
余計なことを言うフィオナの顔を笑顔で掴んだ。
彼女は逃げられない。
「ひぃっ!? な、なんでもありません! 離してくださ——って、力つよ!? びくともしないんですが!?」
フィオナは必死に俺から離れようともがく。
だが、俺の筋力数値はフィオナのはるか上。
どう頑張っても俺のフィジカルからは逃げられない。
「逃がさないよ~。とりあえずどういうことをするのかだけでも聞いておくといい」
「な、何をさせるんですか?」
「そうだね。手っ取り早く力を手に入れるのがいいと思うんだ。エリカもよくやるし」
「そ、それって……まさか?」
さすがフィオナ。
エリカのことを知ってるだけあって、俺が何を言おうとしてるのか察したらしい。
みるみる彼女の顔が青くなった。
「ふふふ。——もちろん、外に行ってモンスター退治さ」
実戦が一番ってね。
———————————
あとがき。
今日はいいことがありました!
よかったら近況ノート見てくださいね!
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