第132話 聖女の謎
「我々の用事は聖女スカディにある。あの女は……聖女の名を語る不届き者だ! 即刻、捕縛の後に処刑する!」
教会内部、講堂に足を踏み入れた異端審問官のひとりが、声高らかにそう宣言した。
話を聞いていたシスターの顔が青ざめる。
それはスカディも同じだった。
「せ、聖女様が……偽者? それは一体どういう……」
「そのままの意味だ。あの女スカディは、自らを聖女と名乗りここ何年ものあいだ活動をしてきた。しかし、我々は真なる聖女様を見つけたのだ! よって、聖女の名を語った不届き者に裁きを与える!」
「そ、そんな……スカディはそんなことするような子じゃ!」
スカディと仲がいいシスターのひとりが、声を荒げて抗議する。
けれど、異端審問官たちは彼女を睨みつけて言った。
「貴様……罪人をかばうつもりか? それは反逆の証拠だと判断するが……構わないのだな?」
「ひっ!? ち、違います! 私はただ……」
「ならば黙っていろ! すでに我々、異端審問官が足を運んだということはそういうことだ! 今さら取り消すことなどできん!」
ドタドタと異端審問官たちが教会内部に入ってくる。
スカディ一人を、か弱い少女を捕らえるにはあまりにも大げさな人数だった。
彼らは、本当にスカディを偽者の聖女だと思っているのか。
スカディ本人がそのことに疑問を抱いた。
「(本当に私が偽者なら、あそこまで人員を裂くのはおかしい……だって、聖女が偽者なら、ギフトは持っていないってことになる。それとも何かしらのギフトは持ってるけど、聖女じゃないってこと? 誰がそんな判断を……それに、本物の聖女って一体……)」
スカディの中で様々な疑問が浮かんで弾けた。
こうしてはいられない。
答えを求めながらも彼女は踵を返した。
薄暗い廊下の先を目指し、中庭で休んでいた家族たちに声をかける。
「み、みんな! ごめんなさい……どうやら私は、偽者の聖女として捕まるわ。せめてあなたたちだけでも逃げて!」
仮に聖女のギフトが嘘だと言われた場合、能力で使役している彼らもタダでは済まないだろう。
普通の人間からしたら、強大な力を持つ彼らはただのモンスターと変わりない。
スカディが必死に声をかけるが、逆に彼らは目付きが鋭くなる。
怒っているのがわかった。
「ガウガウガウ! グルオオオオ!」
「アオ————ン!!」
「な、なんでそんなに怒ってるの? みんな逃げないと……」
クマもオオカミもリスもサルもイヌも全員が怒りを露にする。
もちろんそれはスカディへ向けられたものではない。
スカディを捕まえる、という異端審問官へ向けられたものだ。
「——きゃっ!? な、なに?」
突然、スカディはクマに抱き上げられてオオカミの背中に乗せられる。
後ろからは何者かの足音が聞こえた。
先ほどの騒ぎを聞いて異端審問官が入ってきたのだろう。
それを確認する前にオオカミが走り出した。
すごい速さで教会を抜けると、たくさんの家族たちと一緒にスカディは逃亡を始めた。
本人は捕まって冤罪を晴らそうと思っていたが、異端審問官を信用できない彼らがスカディを連れて逃げ出す。
後ろから異端審問官たちの怒声が聞こえた。
しかし、彼らは止まらない。
どんどん速度を上げて、住民たちの少ない方角へと進んでいく。
スカディは日常の終わりを悟った。
▼△▼
しばらく走って、人がほとんどいない居住区の隅、壁際までやってきた。
ここは平民の中でも一握りの貧乏な者や、孤児が住む場所だ。
彼らは基本的に他人に興味がない。興味がないというより、詮索しない。
だから隠れ逃げるにはもってこいだった。
「あ、あなた達……こんなことをしたらまずいってわかってるのよね?」
「ガウガウ!」
「え? あんな連中信用できない? で、でも……」
「わふわふ! わふーん!」
「僕たちが絶対に守る? みんな……」
それぞれの動物がスカディを慰める。
誰が敵に回ろうと最後まで絶対に諦めないと言っていた。
彼らに想いに、スカディも諦めの心を捨てる。
「……そう、よね。ここで大人しく捕まったらどうなるかわからないわ!」
相手はスカディを問答無用で拘束しようとした。
そんな相手が自分の言い分を聞いてくれるとは思えない。
「ありがとう、みんな。とりあえず私の友人に手紙を出して、その後でどうするべきか考えましょう」
「ぴぴっ!」
よく手紙を運んでくれる小鳥に二通の手紙を渡し、それぞれ二人の知り合いに連絡を送る。
場合によっては友人たちとも別れをしないといけない。
今の聖王国には新たな聖女が誕生している。その聖女が指示したのか、その聖女を押す何者かが指示したのか。
どちらにせよ、国全体がスカディの敵になる。
「この国で何が起きているの? どうして私以外にも聖女がいるの?」
胸中の不安をグッと堪える。
今すぐ泣いて諦めたくなったが、家族のためにも頑張らないといけない。
少なくとも、やれることは全てやるべきだ。
自分はまごうことなき聖女なのだから。
———————————
あとがき。
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