第129話 事件の裏側
ぴちゃん。ぴちゃん。
天井から滴り落ちる雫が、静寂を破って音を立てる。
薄暗い洞窟の中、数名の男女が顔を突き合わせていた。
それぞれ骨格こそ違うが、同じ肌の色をしている。
全員が——漆黒の肌を。
「なぁなぁ、聞いたか? ザリウスの奴が討たれたらしいぜ?」
金髪に碧眼と一見チャラそうな風体の青年が、妙に楽しそうに話題を広げる。
「……なに?」
長身のスキンヘッドの男性が反応を示した。
続く他のメンバーも反応を返す。
「ザリウスってたしか……ノートリアスに行った奴よね。あのいけ好かない男」
やたら露出の激しい服装の女性が、顔を強張らせて毒を吐く。
「ああ、そのザリウスだよ。なんでもノートリアスに勇者が現れたんだと。まだ成熟すらしてない勇者に負けたらしいぜ?」
「ほほほ。ワシが聞いた話は少し違いますな」
「あ?」
青年の言葉に、一番背の低い老人がくすりと笑い声を挟んだ。
全員の視線がその老人に集まる。
「どういうことだよ、爺」
「なんでも、勇者だけではなかったとか。相当腕の立つ剣士がそばにいたらしいですよ? それに、勇者の護衛はあの第三騎士団の団長です」
「うげっ!? つうことはエリカかよ……」
老人の言葉に青年はべーっとだらしなく下を出した。
女性がくすりと笑う。
「そう言えばアナタ、前に変装した状態でエリカと交戦したのよね? ボコボコにされたって聞いたわよ?」
「うるせぇ! あの時は魔族ってことは隠して戦ってたんだよ! 本気を出せばあんな奴、余裕だっての」
「ふぉふぉふぉ。油断なされるな。勇者も騎士団長も揃って強敵。そこにもう一人か二人は強者がいるとなると……我々もしっかりと手を打たねばなるまいて」
「……うむ。老師の言う通りである。油断大敵」
スキンヘッドの男が低い声でそう言いながら頷いた。
「チッ! 俺様たちが全力で戦えば王国の一つや二つ、落とすのに時間なんざかからねぇってのによぉ。お前らはまどろっこしいんだよ!」
「あら、そう簡単に行くならとっくの昔に人類は絶滅しているんじゃなくて?」
「黙れリリス! お前はいちいちうるせぇんだよ」
「負け犬の声がうるさくてね」
「あ? てめぇ……」
睨み合う二人の魔族。
ぴりぴりと殺意がぶつかり合い空気が張り詰める。
それを止めたのは、ストッパーの役のスキンヘッドの男性だった。
「やめろ、お前たち。我々は仲間だ。こんな所で争っても何の意味もない」
「……チッ! 別に俺ぁ、お前らのことなんて仲間とは思っちゃいねぇよ。ただ利害が一致しただけだ。邪魔するなら狩るぜ?」
「後にしろ。最優先は勇者の殺害だ」
「ハッ! それで今度は聖王国で裏工作か? 先の長いことで」
そう言うと、金髪の青年はその場から立ち去っていった。
もう話すことはないと言わんばかりに。
「あーあ、行っちゃった。いいの? あんなボンクラを仲間にして。アイツの戦闘力なんてたかが知れてるのに」
「今は一人でも仲間が必要だ。勇者が現れた以上、舐めてはかかれない」
「その通りですな。ワシらはただ、確実に計画を進めていけばいい。じっくりと勇者に毒を撒き、弱ったところを——潰すのじゃ」
洞窟内に小さく老人の声が響く。
それはどこか不気味さを孕んでいて——。
▼△▼
勇者イルゼが悪魔を名乗る男に勝利した。
大都市ノートリアスの犯罪を暴いた。
そのニュースは一気に王都中を駆け巡る。
今や連日、人々は勇者と第三騎士団の活躍を称えていた。
それは王宮の人間たちも例外ではない。
王族を守るために派遣されている近衛兵たちも、ビッグニュースに沸いていた。
「なぁ、聞いたか? 勇者様と第三騎士団がノートリアスで大活躍だってよ。さすがだな」
「ああ、聞いてるぜ。なんでも、悪魔を名乗る不審者が出てきたとか。相当強かったらしいぜ」
「悪魔って本物かな? 存在すると思うか?」
「どうだろうな。勇者なんて存在がいるんだ、悪魔がいてもおかしくねぇだろ。実際、過去にいたって話だし」
「死体をたぶん持ち帰ってくるだろうから、それを見てからになるな。正式に認められるのは」
「だな。でも、仮に悪魔なんて存在がいるとしたら……俺たちは大丈夫なのかね」
喜びと同時に、悪魔のことを知る者たちは不安も抱いていた。
無理もない。
悪魔とはかつて人類を滅亡の淵にまで追い込んだ存在。
そんな化け物たちがまた現れたとなると、不安や恐怖を抱くのが当然だ。
しかし、なまじ力を持たないからこそ能天気でいられる者もいる。
例えば彼らが護衛する——。
「おい、お前たち」
「ッ! ど、どうかなさいましたか、第二王子殿下!」
「今の面白い話、例の噂のやつか」
「は、はい? 噂……と言うと、勇者様たちのことですか?」
「ああ。それによると、勇者様たちを超える逸材がいるらしいぞ?」
「え? そ、それって……」
近衛兵たちも知らない事実を明かした青年は、そこでくるりと踵を返して小さく笑う。
その瞳には、明確な野心が宿っていた。
「くくく……ネファリアス・テラ・アリウス……か。俺の駒としては合格だな」
———————————
あとがき。
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『原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?』
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