第128話 繋がる希望

 大都市ノートリアスから王都までの道のりを踏破する。


 アビゲイルは馬に乗れないため、行きよりだいぶ時間はかかったが、なんとか全員で王都に帰ってこれた。


 外壁が見えてくると一気にホッとする。




 正門をくぐって街中に。その後は、住民たちからの「おかえり」の言葉を聞きながら第三騎士団の宿舎へと向かった。




 ▼△▼




 すっかりクタクタになった俺たち騎士は、宿舎に着くなり全員が休息に入る。


 各々、自室に篭ったりシャワーを浴びたりとやることは自由だ。


 報告も明日に伸ばされている。俺もさっさとシャワーを浴びて今日は寝ようと思っていた。


 そこへエリカとイルゼ、それにアビゲイルの声がかかる。


 用件はエリカの部屋に集まってほしい、というもの。


 繋がりのある四人だけで部屋に集まると、開口一番にアビゲイルが言った。


「——私! ネファリアス様みたいな素敵な騎士になりたいです!」


「……はい?」


 彼女はいったい何を言ってるのだろう。


 一瞬理解が追いつかなかった。


「だから騎士です、騎士! 現状無職な私は、すぐにでも仕事に就かないと生きていけません。そこで騎士なんです!」


「そんな力説されても……普通に考えて、ただの貴族令嬢だったアビゲイル様に騎士は……」


「いいわね。面白いじゃない」


「エリカ団長!?」


 なぜかエリカがグッと親指を立ててアビゲイルの意思を尊重する。


「無茶です! これまでロクに訓練もしたことがないアビゲイル様が、いきなり騎士になんて……」


「それは百も承知よ。本人だって訓練が苦しいことくらいは解ってるでしょ?」


「はい。アビゲイルは辛いことだと理解しています」


「なら尚更、もっと楽な道が——」


「それは、アビゲイルの選びたい道じゃありません!」


 俺の言葉を遮ってアビゲイルが大きな声を出す。


「アビゲイルは知りました。自分が知らない悪意が存在することを。それをどこか他人事のように感じていました。けど、父があんな悪事に手を染めていて……アビゲイルは必死に何かしたいとあの施設に向かいました。でも、アビゲイルには何もできない。ただ守られるだけの存在なんて——もう嫌なんです!」


「アビゲイル様……」


「よく解ったでしょ、ネファリアス。彼女は自分の意思で変わろうとしてる。それを止める権利をあなたは持っていないわ」


「……本気、なんですね」


「はい。アビゲイルは本気で騎士を目指します。一人でもいい……たった一人でも救えるような騎士になりたいんです! アビゲイルが憧れた騎士は、そういう人でした!」


 ジッとアビゲイルの顔を見つめる。


 彼女の瞳には曇りなどない。


 これから人一倍の苦労が待っているだろうに、憂いの欠片もなかった。


 それだけ決意は固いってことだ。


 どうやらエリカが言うように、俺には彼女は止められない。


 それなら……。


「解りました。本人が本気で騎士を目指すというなら、俺も微力ながらお手伝いします。頑張りましょうね、アビゲイル様」


「ネファリアス様! ありがとうございます」


「おわっ!?」


 感極まってアビゲイルに抱き締められる。


「あなた達ね……そういうのは部屋の外でやってくれない?」


「ノートリアスの一件でずいぶんと仲良くなったね」


 抱き合う俺たちを見てエリカとイルゼが苦笑する。


 片や涙すら滲ませたアビゲイル。


 二人ともそんな彼女を微笑ましい顔で見守っていた。


 俺も同様の気持ちを抱く。




 ——彼女は悪役令嬢だった。


 恐らくあの街では、これからも彼女は悪役令嬢だ。


 しかし、俺たちと関わることで彼女の未来は変わった。


 まさか騎士になりたいと言い出すとは思ってもいなかったが……それがどんな未来を描くのか。


 俺も楽しみでしょうがない。


「ちなみにアビゲイルは新人からのスタートになるけど、体力が絶望的にないから最初は気をつけることね。何度も気絶するかも」


「——え゛っ」


 ぴたっ。


 エリカの言葉にアビゲイルの動きが止まった。


「そ、それって……初心者用に少し軽くなったりは……」


「しません」


 にっこりとエリカが笑った。


 アビゲイルの表情が絶望に染まる。


「ね、ねね、ネファリアス様……」


 彼女は助けてを求めて俺のほうへ視線を戻す。


 だが、残念ながらその願いを聞き届けることはできない。


「すみません、アビゲイル様……俺は一介の騎士。エリカ団長の指示には逆らえないのです……」


 彼女が死ぬ気でアビゲイルを鍛えると言ったら、それは第三騎士団の総意だ。


 俺ひとりが喚いたところで結果は変わらない。


「そ、そんなぁ……アビゲイル、頑張るとは言ったけどさすがに限度が……」


「平気よアビゲイル。死ぬほど苦しいのは最初だけ。——いずれ慣れるわ」


 がしっ。


 エリカがアビゲイルの肩を掴む。


「そのためにも、早速、今日から鍛錬に励みましょう! アビゲイルは疲れてないでしょ? ちょっと木剣を振るところから始めて——」


「いやあああああ! 離して……誰か助けてくださあああああい!」


 ずるずるずる。


 エリカの腕力によってアビゲイルが廊下へと引きずられていった。


 必死に彼女は手を伸ばすが、俺もイルゼも「ご愁傷様です」と両手を合わせて見送る。


 なに、彼女の言うとおりすぐに慣れる。




 ……きっとね。




———————————

あとがき。


新作

『原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?』


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