第124話 しぶとい奴
俺の最高火力の一撃——〝天剣〟が悪魔の体を斬り裂く。
何の抵抗もなく悪魔の体が分割された。
上半身と下半身が虚しく離れて倒れる。
「ぐはっ!?」
飛ばされた上半身は、くるりと空中で一回転すると、そのまま地面に落下して大量の血を流した。
遅れて、下半身が鈍い音を立てて転がる。
「ふう……いっちょあがりだな」
剣に付いた血を払う。
戦闘終了だ。
いくら悪魔が頑丈で生命力に溢れているとはいえ、肉体がここまで欠損すると、戦闘能力を維持できない。
再生系のスキルでも持っていない限りはもう終わりだろう。
「ぐ、ぅ……! まさか、この俺がお前ごとき人間に……勇者でもない奴に負けるとは……!!」
「残念だったな。俺は勇者じゃないがそれなりに悪でね。お前みたいな奴に勝つためには手段を選ばないんだ」
ノートリアスに来る前にレベリングしておいて正解だ。
おかげでなんとか勝利を収められた。
思ったより苦戦しなかったのは、召喚権で獲得した悪魔の手や進化した天剣スキルのおかげだな。
あれがなかったら、もっと悪魔を倒すのに時間がかかった。
「すごーい……ネファリアスくんってあんなに強かったんだね」
「だから言ったでしょ。私より強いって」
「それにしたって、僕たちが手を合わせて挑んでも勝てなかった相手を、一方的にボコボコにしてたよ? エリカが言ってたより強くない?」
「……まあ、正直、私も予想以上に強いなとは思ったわ。確実に私より格上ね。スキルを使っても勝てる気がしないわ」
遠くでは、エリカとイルゼたちの会話が聞こえた。
向こうは楽しそうだな。
「ハァ……ハァ……く、そ!」
未だ悪魔は苦しそうに呼吸をしていた。
体が横に両断されたっていうのにすごい生命力だな。まるでGから始まるあれだ。
「まだ息があるのか。逞しいじゃん。ちょうどいいし、勝者の特権ってことでいろいろ教えてくれよ。なんでお前、この街に手を出した?」
「俺が……答えると思うか?」
「いいやまったく。どうせ口を閉ざすんだろ? それならそれで構わないさ。なんとなく俺が訊いてみたかっただけだし」
悪魔たちの目的は、ゲームだと魔王復活までの足がかりを作ることだった。
それを未然に防ぎ、いざ魔王が復活するとイルゼが倒す。
そういうシナリオだ。
だから理由は知ってる。答えを聞かなくてもいい。
「……ふん。貴様は気に入らない奴だ」
「俺勝者。お前敗者。そりゃあ相容れないよ」
「黙れ! お前はまだ知らないだけだ……俺たち悪魔の恐ろしさを!」
「知ってるよ。少なくとも詳しいつもりさ」
ゲームをプレイして他の悪魔とも戦ってるからね。
それで言うと、コイツは戦ったことがない悪魔だった。
特殊な攻撃方法とかなくて楽だったよ。口にはしないけど。
「ククク……いいや、お前は知らないさ。我々の恐ろしさを……かはっ!」
悪魔が血を吐く。
そろそろ限界が近そうに見えた。
「はいはい。勝手にそう思っておけばいいよ。いいから早く死んでくれ。それとも首を斬ってほしい?」
「好きにしろ。どうせ俺は助からない……だが、精々、足掻くことだな」
悪魔は喉を震わせて笑う。
「勇者が現れたということは、魔王の復活も近い。それくらいは知っているだろ?」
「ああ」
「悪魔は他にもいる。どうせお前のことだ、それも知っているに違いない」
「あ、わかる?」
「やけに冷静だからな」
「全部倒すよ。安心しな」
「ハッ! 不可能だな。俺は悪魔の中でも……ぐぅっ!?」
「そういうテンプレはいいや」
カッコつけて「俺は悪魔の中でも最弱」とか言おうとした悪魔の心臓を剣で刺し貫く。
トドメだ。大量の血を吐いて悪魔の動きが完全に止まる。
なぜかその表情は笑っていた。
「気持ち悪い……」
剣を引き抜いて血を払う。
くるりと踵を返すと、離れたところでエリカたちが男に尋問を行っていた。
「さあ、早く情報を渡しなさい」
「冗談を。もう我々は負けたのだ。彼がいなければ何もできない」
「だからさっさと情報を渡せって言ってんのよ!」
仮面を付けた男が言い渋る様に、エリカが苛立ちを覚えている。
よく見ると、勇者イルゼのほうも不機嫌だった。
もしかすると彼女たちは、悪魔に出会う前にいろいろと見てしまったのかもしれないな。
やがてこの街を覆うはずだった最悪のモンスターとか。
俺もその正体には気付いている。気付いてしまった。
たぶん……あの人型の異形種たちは、元人間の——。
脳裏を過ぎった答えをそのまま手放す。
今は忘れるべきだ。もう事件はこれで終わりなのだから。
「手こずってるみたいだね、エリカ団長、勇者様」
俺は表情を笑みに変えて彼女たちのもとへ近付いた。
すると、エリカとイルゼの視線が一瞬だけこちらに向く。
その瞬間、男が動いた。
片手で自らの心臓部分を叩く。
何のこともない動作に見えるが、それが終わるなり、男は仮面の下から血を流した。
——コイツ!
それが男の自殺だと気付いた瞬間、俺は急いで治癒スキルを発動する。
———————————
あとがき。
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